第69話 イベント
そこから帰ってすぐに寝て……起きた凛太はまだ生きた心地がしない気持ちがあった。ここは本当に現実なのかとまた思う。そして、だからこそ布団がとても暖かく感じた。全く生きているということはそれだけで素晴らしい。
抱き込むクッションをより強く抱くと生命の神秘を感じられて、凛太は神様に感謝した。
目が覚めてからもしばらく布団から出ずに、クーラーの効いた部屋の中で目を閉じた。しばらく過去の出来事や未来の出来事を主に楽しい方向に妄想なんかしたりしてただ呼吸する。
ベッドから出た後はまずゲームの電源を点けてから、諸々の眠気覚ましのルーティーンをこなす。ゲームの起動を待つ時間がもったいなからだ。
今日は休日、バイトは休み。凛太はとりあえずいつも通りゲームをして過ごすことにした。幸せな過ごし方だった。
しかし、今日の休日はいつもと違うことがあった。プレイするゲームがホラーゲームの「闇憑き洋館」であるということ――。
いつもと違うことをイベントと呼ぶのなら今日のイベントはこれだ。凛太の闇憑き洋館初見プレイ。まだ買ってもいないがこれからとりあえず様子見でプレイする。悪夢治療のための練習だ。
凛太はコントローラーを持ってスティックを遊ばせながら操作を始めた。
最近のゲームは店に足を運ばなくてもネットを介してダウンロードすることによりプレイできる。時代は随分進化した。昔では考えられないほどに。
凛太はショップから異質な化け物と洋館が写ったパッケージを探して購入した。購入するための費用は馬場が払ってくれた。凛太が闇憑き洋館の悪夢治療に挑戦すると言うやいなや、嬉々としてコンビニからウェブマネーを買ってきた。
凛太が必要だと頼みもしてないのにふらっと外に出て行って、帰ってくると10000円分のウェブマネーカードを手渡してきた。お釣りは凛太にくれるらしくてそれは思いもよらぬ収穫だった。
購入してダウンロードが完了するのを待つ間、ホーム画面に表示された化け物のアイコンとにらめっこする。これからのことを想像すると自然と眉が歪んだ……。
でも、嫌々この仕事を引き受けたわけではなかった。自分からやると馬場に言った。理由は決めていたからだ。救えなかった分、たくさんの人の悪夢を治療すると。
あんな悪夢を頻繁に見ているんなんてさぞかし苦しいだろうし、たまたまとはいえ自分がシフトに入っている日に入ってきた仕事だ。逃げ出すわけにもいくまい。
凛太はやるからにはと割かし意気込んでいた。もう死ぬ経験をしないためでもある。闇憑き洋館について詳しく知り、できるだけ練習する。
ダウンロードは思っていたよりも時間がかかった。2500円という新作にしては安めのゲームであるくせにやたらと容量が多い。本来ならコスパの良いゲームを購入したと喜ぶべきだが作りこまれていればいるほど凛太にとっては迷惑だった。
それならそれでと凛太は立ち上がり別の準備を始めた。ダウンロードが終わるのを待つ間に部屋をざっと片付けて、冷蔵庫の中身なんかも確認しておく。その後は部屋全体を見回しておかしなものが無いか確認した。
その間、凛太はにやけて期待に胸を膨らませたりなんかもした。今日のイベント闇憑き洋館をプレイするという悪いイベントだけでなく良いイベントもあるのだ――。
午後4時半、凛太の部屋のチャイムが鳴る。深呼吸してから玄関に行きドアを開けると、そこにはおそらく今まで凛太の部屋に来た人の中で1番の美女がいた。
「こんにちは草部君。お邪魔するね」
バイトの1つ年上の先輩の桜田だ。
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