第91話 自死
ゲームに出る化け物は消えたであろう洋館をまたもや走り出した。さっきまでとは打って変わって足音や姿勢を気にしない醜い走りだった。
最上階から1階まで一気に階段を下りる。後ろを気にする余裕も無かった。
足音を頼りに逃げる癖がついていて耳だけは後ろに集中していたが、追ってきている音は聞こえない。とりあえず離れられていることには希望を感じた。
しかし、患者の悪夢が終わったのなら開いているかもと思って行った1階のエントランス……そこには少女が立っていた。
待ち構えていたという風でもなく、凛太を見てもただずっと立っていた。
凛太はとんぼ返りで今度は階段を1階から最上階まで駆け上ろうとした。すぐにどこに逃げても同じだということは察したけれど足を止めてなんていられなかった。
どうにかして自死することも冴えてきた頭が考える。あいつに殺されるくらいならまた屋上から飛び降りてみるのも悪くない。
4階まで上り切った時に屋上へ繋がる道へ踏み出すと、その先にはまた少女がいた。だから凛太は流れのままラスボス部屋の方へ向かう。
桜田の血と肉片を越えて、辿り着いた洋館の最深部では落ち着ける。そう思っていたけれど、そこには何故だか闇憑き洋館のラスボスが存在していた。
「……殺してくれ」
そう小声で言った凛太は死を甘んじて受け入れた。異質な化け物たちの最終形態と言える全ての部位が肥大化した無骨な化け物に自らの体を捧げる。
化け物の片手が凛太の全身を包み込む。尖った爪が背中に刺さり、それが冷たくれて流れ出ている血が暖かかった。
掴まれた体が口に入れられる寸前、少女も部屋へ入ってきた。
化け物に噛まれるときの痛みは今までで一番鮮明に感じられた。しかし、少女から逃れられた喜びのほうが強かった……。
装置の中で目を覚ますと、すぐにいつもと違うことが分かる。部屋が真っ暗だ。
急いで起き上がると、装置から出る淡い光の中に薄っすら見える女性がいた。目を凝らして見ると確かに桜田だった。もしかすると目覚めてないかもしれないと思っていたがちゃんと起きれていた。
「はあ……はあ……」
桜田は怯え切った様子で肩を抱いて息を荒げていた。
「桜田さん大丈夫ですか?」
「……大丈夫。……私は大丈夫。草部君は最後何が部屋に入ってきたか覚えてる?」
「え」
「私、何があったか思い出せないの。でも何かもの凄く怖い経験をした気がする……」
ルックスは桜田だけど別の人を見ているようだった。声が震えていて、か細い。
「草部君、院長を探してきてくれる?何故かここにいなくて……」
自分も動揺を抑えられていないが……桜田の為に凛太は暗い部屋を出た。
外からも光が入ってきてないことから分かっていたが廊下にも電気が点いていない。今が何時なのかも分からなかった。
壁に手を当てて進んでいると、凛太は初めて赤い光を漏らすドアがあることに気づく。
何だあの赤い光は……。
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