第101話 すみません
「うーん。どうだろうねえ……まあ明日と明後日はくるかな。さっきもずっと電話鳴ってたし」
「あ、そうですよね」
「うん。もう大変だったよ。こんな時間にかけてくるなんて。どこでそんなにこの病院の話知ったのやら」
馬場はパソコンから目を離さずに答えた。凛太もその様子を横目で顔は向けずに見ていた。
「ごめんね。明日も明後日もとりあえずバイト出勤で……草部君は元々だったっけ?それ以降も忙しいと思うから特別な理由が無ければなるべく来てほしい」
「はい。それは全然問題ないです」
「まあすぐに忙しさ自体は落ち着くよ」
「そうなんですか」
「うん。うちは一応完全予約制だから減らそうと思えばいくらでも減らせるから。正直今までこの日は絶対無理っていうのが無かったからその辺のシステムが雑だったから昨日今日は来れるだけ来てもらったんだけどこれからはちゃんと管理する。無理な人には諦めてもらうしかない」
「……なるほど」
「だから草部君とかバイトは忙しさに関しては気にしなくていいから」
凛太はハンコを押し続けた。考えすぎた頭がいかに綺麗にハンコを押せるかチャレンジへの思考に逃げていく……。
自分たちは忙しくなくなる見通しがあるが、馬場は現在おかしな悪夢と忙しさにかなり参っているはず。いつもの馬場より暗い感じがする。そんな時にさらなる問題を告げるのも忍びない。
「そういえば、その少女の悪夢の治療自体は難しくなかった?昨日のメンバーにも聞いたんだけど、草部君も問題なかった?」
「あ、はい。治療はあの……上手くできたんですけど……」
「何かほかにあった?」
言う決心が出来たわけではないけど凛太は言葉を濁してしまった。すると、馬場がパソコンから凛太へ視線を移す。
「あの……実は、自分もその少女の悪夢を見てるって言ったら驚きますか……」
「ええ!」
厳密にはその少女ではないけど凛太がカミングアウトすると馬場は思いの外驚いた。声のトーンが急に2段階ほど上がった。
「本当に?」
「……はい」
「それっていつから?」
「えっと……このバイトを始めてからすぐですね」
「バイトを始めてからすぐだって。まさかどうして。何ですぐ言わなかったの」
「いやあ……言わなくても自然に治るかなと思って。すみません。ずっと黙ってて。あの、だからもしかしたら……」
「いやいや、すぐに言わなきゃだめよ。そうかそうか。大変だったね」
「本当にすみません……」
凛太は椅子に座ったままではあるけれど、馬場に向かって頭を下げた。言ってしまえば堰を切ったように謝罪の気持ちが込み上げてきたからだ。
馬場は怒るかもしれないと思った。さっきまでの暗い声のトーン的にも。しかし、顔をあげて馬場を見ると馬場は嬉しそうに笑っていた。
なぜか、嬉しそうに笑っていたのだ。
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