第3章 ケース2:腐った園児

第14話 2連勤

 目覚めた凛太のベッドは珍しく荒れていた。掛け布団が足先まで蹴飛ばされていて、枕はベッドから落ちていた。


 いつもは寝相が良くて、起きたときにすっきりした感覚があるが今日は違った。変な形で固まっていたので首の後ろが寝違えたらしく凝っていた。


 どこにも発散できない体が鉛になってしまったような不快感。それもこれもあのバイトのせいだ。


 帰ってきてから、眠気を感じたので朝方に寝直そうと思ったのだが、眠るときも上手く寝付けなかった。目を閉じると、嫌な夢を見てしまいそうで不安だった。


 実際何か嫌な夢を見ていた気もする。大体夢を見ていても起きたらすぐ忘れるタイプなので覚えていないが……バイトを続けると、その内自分が悪夢障害にかかるんじゃないかと心の中で毒づく。


 凛太はベッドから起き上がると、シャツを脱いで扇風機の風量を強にした。扇風機を顔の前に持ってきて全身で風を浴びる。


 じんわり背中を湿らす汗にも舌打ちをしたが、これは扇風機だけで眠った自分が悪い。朝方は涼しかったので油断してしまった。夏の暑さを舐めていた。


 時刻はもう午後1時、想定していた時間よりも長く眠っていた。凛太はクーラーの電源をつけて、ついでにゲーム機の電源もつける。


 空腹も感じるが、起きてすぐは何も食べたくない。ゲームでもして嫌なことを忘れることにした。


 ……しかしまあ、こうして平然と過ごしていられるだけでも実際すごいのかもな。寝ぼけ眼でやる対戦FPSで勝利したとき凛太はそう思った。


 馬場もバイトの同僚も自分のことを褒めていたけれど、たしかに心の弱い人が見るとしばらくは普通の生活ができなくなりそうな光景を目にしても、一応眠れて腹も減っている。


 たぶん、今日のバイトもサボらずに行くだろう。


 昔から図太いほうではあったと自分でも思う。ホラー映画が好きなわけではないけれど、子供のころ家族と一緒に見たホラー映画では母と父が目をそらしている中、じっと見ていた記憶がある。


 それに給料が良いのを加味しても、それでもあのバイトを続けようとは思わないが。まあ、一週間くらいならなんとかなるだろう。


 凛太はそれから家でゴロゴロする日中を過ごした……。途中、同じサークルに所属する友達から遊びの誘いの連絡が来たが「バイトがあるから」と断った。


 バイトをやめるまではしっかりと心の準備をしてから勤務しなければならない。やめた後には、言ってはダメと言われてもこっそり仲のいい奴らに話すつもりだ。


 昼にはカップラーメン、夜には冷蔵庫にあるものでチャーハンを作って食べた。あとの時間はゲームをしたり、漫画を読んだり……。


 そして、出発する前に風呂に入った凛太は自転車に跨って、昨日と同じく夜の街へ向かった。

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