第88話 RTAクリア
山奥にある洋館の中は各部屋に付いているのかというほど扉が多くて、やたらと鍵もかかっている。それを開ける鍵はというと館のいたる所へバラバラにしまわれている。もし住むのだとしたら便が悪いったらありゃしない。
ゲームの目的は館から脱出することだけど、その為に進むべき道は何故かいつだって奥へ奥へ繋がる道だ。外へ屋上や地下室を探索させられる。暗かったり嫌な雰囲気がして、進みたくないと思うほうがいつだって正規ルートだ。
凛太と桜田は知っているその道をスムーズに進んでいった……。
ホラーゲームのあるあるは時折、馬鹿にして語られる。けれど、プレイしている最中はそれが面白かったりする。
外へ繋がる道を見つけたら、何故か丁度よく化け物に待ち伏せされていて道を塞がれる。時には化け物をアイテムでおびき寄せることで壁を破壊して先へ進む。
2人はちょっとしたイベントを見る度に笑った。かなり心に余裕があってさながらお化け屋敷の迷惑客のようにバカ騒ぎしながら仕掛けを突破していった。
集中するべきところはちゃんと息を潜めて……プレイヤーが2人いるからこそできる短縮技も利用していると、想像よりもクリア目前まで辿り着いた。
「もう着いちゃったね……」
「はい。聞いていた話通りならこの部屋に患者さんがいるはずですよね」
「うん」
「じゃあ、廊下で立っているのも危険なので……」
ラスボス手前の部屋に続く他の部屋よりも大きなドア。凛太はそのドアへ近づいて持っていた鍵を使った。
いよいよ終わるのだと思うと緊張する。最後の治療はちゃんと行えるのかという不安ではなくて、これが終わったら桜田を上手くデートに誘えるかということに。
患者は部屋に入るとすぐに見つかった。特に何もない部屋なのでこれといった隠れる場所もないから、患者らしき男は部屋の隅に体操座りで座っていた。
この部屋はラスボス部屋を繋ぐただの道で、ユーザーの心を落ち着かせるのとセーブポイントという意味合いが強い。ホラゲーじゃなくてもボス前は静かなものだ。
本当はラスボス撃破後の脱出イベントでまず走り抜けるときに、イカれた化け物が良く見える状態で走らされる怖い部屋でもあるのだが……。
「おーい患者さんですよね。もう大丈夫ですよー」
男も急に部屋に入ってきた人間に驚いている様子で、こちらもさっきまでいつ死んでもおかしくないギミックを突破してきたというのに桜田は友達に話しかけるくらいの感じでいった。
先に駆け寄っていった桜田に患者の治療はほとんど任せつつ、凛太は心の準備をした。
聞いている感じでは治療は順調なようで男はすぐにここが夢だと理解した。桜田がついているからここで眠ればすぐに悪夢は消えると伝えればすぐに眠りにつく。
そうすると息苦しさは少なくなっていって、ほんのり暗い部屋も明るくなった。
これで治療は終わり。そのはずだった。
しかし、奥の部屋から聞こえた物音は確かに凛太の耳へ響いた。
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