第6話 取り敢えず戻れたぜ
ギルドを出たマリアと俺は、マリアの住む家へと向かった。
街の中でも一番外側の壁沿いに建つ粗末な家だったが、部屋の中は片付いていた。
俺は「また来る」と挨拶してマリアの家から出た。
当然その場に流れた音は「ニャァニャ」だったがな……
首からプレートを外すと、インベントリにしまい自分が現れた自宅へと戻った。
覚えて置いた石造りの家を見つけ、側に近づくと俺の出て来た木造の家が姿を現した。
窓から中へ入り、部屋の奥の青いドアを開くと、真っ暗な部屋へと入って行く。
そのまま部屋の中心部に辿り着くと部屋に灯りがともった。
自分の姿を確認すると、一息ついた。
「良かった無事に人間に戻れたぜ」
魔石をこの魔法陣の真ん中に置くんだったな。
獲物から取り出して無いが、死体事置いても良いのかな?
そう思ってインベントリから魔物を取り出そうとすると、脳裏にインベントリの情報が表示され、魔石、皮、肉、骨、牙、内臓と別れて表示された。
「何これ、メッチャ優秀じゃん解体の手間いらずなんだな」
それなら魔石だけで良いなと思い、二十体ほどの魔物の魔石だけを魔法陣の中へと取り出して置いた。
すると魔法陣が明滅し、総司爺ちゃんが姿を現した。
「どうじゃったかの? 異世界は」
「ああ、思った通りの世界だったな。楽しかったぜ」
「そうか、それは何よりじゃ。では今日の報酬を払おう。魔石一キログラム分じゃな十万円分の金塊で渡したい所じゃが、それだと売りに行って税金など取られるのが馬鹿らしいじゃろ? わしの方で換金しておいたから札で渡すな。それと向こうの世界で身に付けた能力じゃが、こっちの世界でも使えるが、ステータスが上がっておるからこっちの世界ではあまり目立ったことをするなよ?」
「爺ちゃん結構いい額で買って貰えるんだな。これなら頑張りがいもあるぜ」
「向こうの世界で何か困った事は無かったか?」
「ああ、あったぜ何を喋っても『ニャァ』としか聞こえないから会話が出来ない事かな」
「お前は向こうでは猫だったのか?」
「ああ、爺ちゃんの陰謀とかじゃ無いのか?」
「儂には選ぶ事は出来ん。そうかそれでは不便も多かろう。信用できる人間とは知り合えたか?」
「ああ、一人だけな」
「十分じゃ、それでは念話器を作って置こう。次に異世界に向かう時に渡してやろう。言っておらんかったが、こっちに戻ると二十四時間は向こうの世界へは行けないからの。明日以降に又訪れるが良い」
「爺ちゃん。因みに他の人間はここを通る事は出来るのか?」
「お主と手をつないだ状態であればな」
「そうか、一人だとここに辿り着く事は出来ないんだな?」
「うむ」
「安心したぜ」
「魔石をもっと大量に集めれば、色々と便利な魔導具を作ることも出来るし、わし自身が異世界へ渡って賢者としての姿を取り戻す事も出来るようになる。頑張れよ馬鹿孫」
「こっちの世界へは出て来れるのか?」
「それはせぬ方が良かろう。ではまた明日な」
◇◆◇◆
階段を上って倉庫に戻ると床板を元に戻して、部屋へと戻った。
向こうの世界では鏡を一度も見かけなかったが、無いのかな?
それとも、超高級品で貴族の屋敷とかに行かないと見かけないとかかな?
資金も出来たし、向こうの家に持って行く鏡でも買っておくかと思って、家具屋へ行って全身鏡を買った。
マリアの家にも持って行ってやろうと思い二つ買っておいた。
家に戻ると早速今日の出来事を、そのまま物語に仕立てて新作小説を執筆した。
出来事を思い出すだけだから筆が進むぜ。
投稿を終えると眠りについた。
翌日の朝になり「二十四時間後か……戻って来たのは十五時くらいだから、まだ行けないな」
異世界の冒険に行きたくてむずむずするぜ。
しょうがないから、朝食を取ろうと思い近所のファミレスへと向かい、スマホで昨晩投稿した自分の小説のアクセスを確認してみた。
ぇ? 初日で五千PVを超えていた。
ブクマも百件を超えている。
これならランキングに乗ってるんじゃないか?
そう思って、サイトトップからランキングページを確認すると、日刊で五十位にランクインしていた。
これは伸びるぞ! 昨日は二千五百文字ほどの文章を三話分アップしたし、今日からは毎日朝の六時と夕方の十八時の更新で行こうかな?
昨日のうちに七話までは書き進めているし、きっとそれなら大丈夫なはずだ。
スマホを操作しながら、予約投稿をしておいたぜ。
因みに今回のペンネームは向こうの世界での俺の名前『テネブル』にしたぜ。
◇◆◇◆
十五時までは昨日の倉庫の片づけで出たごみなどを市の収集所に運んだり、レンタカーを返して来たりで過した。
当初の予定通りに俺の大事なバイクを倉庫に入れる。
このバイクはカワサキZ400GP』もう四十年近く昔のバイクだが、離婚した後に購入した唯一の高額品だ。
高校生時代に一時期乗ってたモデルを探し出して、再び手に入れたんだ。
その当時でも十二年落ちだったな……
新車当時は五十万円程の値段だったはずだが、今は状態の良い物はプレミアがついて百万円以上はする。
このメーカーらしいゴツゴツした硬派なイメージの最後のモデルだな。
ウインカーが大きめなのと、ヘッドライトが角目だった事を除けば、ほぼ俺の好み通りだった。
当然俺は、ヘッドライトはメッキの丸目に交換して、ウインカーも小振りのロケット型に変えている。
アルミ製のホイールは赤く塗装がされていて、中々セクシーな感じだ
ビートのバックステップとクランクケースカバーとアルフィンカバー、モリワキの4in1のショート菅を装着したマイルドないじり方だけど、前垂れ風防や絞りハンドル、三段シートを付けると普段乗りでは流石に使えないから、まぁこの程度で丁度いい。
時間も十五時になったので、やっと異世界へ行く事が出来るな。
さぁ今日はどんな冒険が待っている。
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