第75話 山賊殲滅作戦開始
俺達は山賊が拠点にしている森に向かって移動を始めた。
今回はCランク以上の冒険者が百名以上も集まり、移動は片道二時間ほどの道のりを徒歩で移動している。
森の中では当然魔物も大量に生息しているので、魔物の素材を乗せるための荷車も、二十五台の台数が連なっている。
移動の様子は空からシエルが、地上ではマリアが写真撮影をしてくれている。
鳩なシエルは途中でカメラの操作とか出来ないから、起動させれば後は回しっぱなしになる。
途中でバッテリーが切れたらマリアに頼んで交換してもらう事で対応する事にして、俺はリュミエルと二人でマリアの横を歩いて行動してる。
抱っこの方が良いんだけど、それだとマリアの撮影の邪魔になるからしょうがないな。
「マリア、あんたいつの間にか強くなっちゃったんだね」
そう声を掛けて来たのは、犬獣人の女性だった。
「あ、サーラさん。お久しぶりです。私は全然ダメなんですけど、テネブルやリュミエル達が凄く強いからいつの間にかBランクまで上がっちゃいました」
「私達も苦労してBランクには上がったけど一気に追いつかれちゃったね。でも従魔が居るだけでソロでやってるんでしょ?」
「はいそうです」
「マリアはもうハイヒールとかも覚えたのかい?」
「はい。お陰様で使える様になりました」
「それならどこのパーティーからでも人気者だろうね。これからはどうするの? パーティに入ったりはしないの?」
「逆に気を使っちゃうし、テネブル達だけでも困らないかな? って思ってパーティに入る予定は無いですね」
「そうなんだ。私達のパーティもAランクを目指すには魔法職が居ないと無理だから、Bランクに上がった時点で一度解散して、それぞれ再就職先を探してるんだよ。今回の依頼はファンダリアのめぼしい連中がみんな集まってるから、仲良くやっていけそうなメンバー探しも兼ねてだね」
「そうなんですね。良い人が見つかればいいですね」
「うん。マリアもさ、一応考えてみてくれないかな? 私とマリアならお互い嫌な思いをする事も無いだろうし」
「そうですね。今回の山賊討伐の後でお返事をするでもいいですか? テネブル達の意見も聞いて置きたいので」
「勿論構わないよ。マリアは従魔を大事にしているんだね。私は獣人だからワンちゃんや猫ちゃんを大事にしてくれてるマリアを見ると嬉しくなるよ」
そんな会話をしながら、森の手前まで来た所でいったん全員が集まってイザベラさんから作戦の概要が伝えられた。
「山賊の拠点を取り囲むように範囲を狭めていきながら殲滅作戦を行います。対処は生死を問わずですが、拘束すれば奴隷としての販売代金は、拘束した個人の報酬としますので拘束する事を推奨します。ただし、今回の作戦は山賊側にも情報が洩れている可能性が高いので、罠や待ち伏せの危険性も当然ある物として取り組んでください。一番大事な事は冒険者の皆さんの安全の確保です。決して無理をせず相手より多い人数で対処するようにして下さい」
その言葉を受けて森の外側から目星をつけてある山賊の拠点に向けて、森の魔物を狩りつつ進み始めた。
何故かイザベラさんはマリアの横を一緒に歩いてる。
「あの…… ギルドマスター、作戦の終了はどの段階で終わりになるんですか?」
「拠点の壊滅と、頭目の確保または殺害の達成で終了になるわ」
「マスターは頭目と会った事はあるんですか?」
「あるわよ。私が現役の冒険者だった頃同じパーティだったわ」
「ええ? それって普通に知り合いなんですか」
「今となっては、別に仲良しって訳では無いわよ」
「何故、そんな事になったのかとか聞いてもいいんですか?」
「そうね、マリアには他の冒険者たちが怪我をした場合の、回復役をお願いしたいから、基本私と一緒に行動して欲しいし構わないわよ。従魔たちは自分の意思で行動できるんでしょ?」
「はい。って言うか私が指示なんか出した事無いですから、いつも自由に行動してます」
「あら、そうなのね。良くそれでうまく行ってるわね?」
「私にも良く解らないんですけど、うちのパーティは実質のリーダーはテネブルですから……」
「そうなのね。話は戻るけど山賊の頭目グラーゴは私達のパーティで斥候役を務めていたの」
俺もちょっと気になったので、マリアとイザベラの会話をリュミエルと一緒に聞く事にしたがその話によると……
グラーゴはこの森の側にあった廃村の出身だった。
イザベラ達のパーティメンバーとして半年ほど国外での依頼をこなして戻って来ると、村は盗賊に蹂躙され両親は殺されていて、グラーゴの妹たちも攫われて行方不明になっていた。
グラーゴは、妹や家族の行方を捜すためにパーティを抜けて、盗賊を探し続けたが、盗賊を見つけた時には既に妹たちは売春宿に売られていた。
グラーゴは怒り狂って、盗賊達を皆殺しにした挙句、妹たちを買った売春宿も焼き払ってしまった。
妹たちも巻き添えにして……
それから五年ほど姿を消して、一年ほど前にこの森の中に山賊を集めて、自らが許さなかった卑劣な行為を始める様になった。
話が重いな……
だからと言って山賊行為を働く事を許す理由にはならない。
イザベラさんも同じ気持ちの様だった。
「気持ちは解らなくも無いけど、犯罪を許す事は出来ないわ。せめて最後は私の手で葬り去ってあげたいの。仲間としてね」
「マスターは、何故一年間放っておいたんですか?」
「マリアちゃん、冒険者ギルドは依頼があれば動く組織だからね。決して治安維持組織では無いし、依頼料が発生しなければ冒険者に声を掛ける事も出来ないからね」
「って事は、今回の依頼は何処からですか?」
「辺境伯からの依頼よ。元々は街の騎士団や衛兵は攻め込まれない限りは基本動かさないからね。サンチェスマスターが王都から帰っていらしてから、山賊退治は重要な事だと商業ギルドからも依頼料を大幅に上乗せしてくださったお陰で、二の足を踏んでいた冒険者たちも、一気に参加者が増えたのよ」
そんな話を聞いているうちに森の内部に入って行き、早速シエルから念話が入って来た。
『テネブル、森の中に魔物が凄い沢山見えるよ』
『解った。気を付ける』
「リュミエル、魔物がいっぱいらしいから頑張ろうぜ」
「了解!」
俺はミスリルエッジを咥え、リュミエルもミスリルクローを右前脚に装着した状態で、マリアの前を進んだ。
俺はシエルに念話で指示を出す。
『俺達のカッコいい所をしっかり撮影して置いてくれよ!』
『テネブル、了解。任されました!』
「ねぇテネブル、出来ればシエルにはこのままずっと、撮影係で満足して欲しいよね」
「そうだな。でもこの世界にいる以上は自衛のための力を身に付ける事は大事だし、シエルの飛行能力は、転移門と組み合わせると俺達の大きな力になる事は間違いないしな」
「そうだね、でもシエル一人に遠くまで行かせるとか、私は心配でたまらないからね」
「なんだかリュミエルってすっかりお母さんみたいな、考え方してるよな」
「そ。そうかな?」
そんな話をしながら、俺とリュミエルは森で魔物を倒しまくって、どんどん収納していった。
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