第16話 サンチェスさんと商談

「マリア、ちょっと商業ギルドに寄りたいな」

「いいよ」


 二人で向かいにある商業ギルドへと寄った。

 受付でサンチェスさんに面会が可能か聞いて見たら、今日はもう仕事が終わりなので、すぐ降りてくると教えて貰って少し待つ事にした。


「テネブルは何の用事があったの?」

「さっきの薬草栽培が出来そうな土地と、この世界で高く売れそうな物を聞いて見ようと思ってね」


「そうなんだね、サンチェスさんに買って貰った鏡ってテネブルは簡単に手に入るの?」

「うん。そうなんだけど高すぎるからどうしようか考えてたんだよね」


「出まわったら同じようなもの作れる人も出てくるかもしれないし、売れるうちに売った方が良いと思うんだけどな?」

「そう言う考え方もあるのか、でもどう説明するかが問題だよ」


 そんな話をしているとサンチェスさんが降りて来た。


「昨日は孤児院を助けて頂いてありがとうございました」

「いやいや鏡を売って貰ったお礼だよ。それにキャロルの事なら何も言われんでも助けてやりたかったしな」


「あーそう言えばプロポーズして断られたって本当なんですか?」

「本当だよ。ガイルと言うわしの友人と結婚して、冒険者をしながら魔物に親を殺された子供達を集めて始めたのが、あの孤児院も始まりだった。結局ガイルも魔物にやられてしまったがな」


「そうだったんですね、お仕事帰りの所すいませんけど少しだけお時間良いですか?」

「ああ、大丈夫だよ冒険者ギルドの酒場で一杯飲みながらで構わないかい?」


「はい。大丈夫です」


 冒険者ギルドに併設されてる食堂は、まだ夕方の五時過ぎだけど凄く賑わっていた。

 サンチェスさんは、大きなジョッキでエールを頼み、マリアは何だか良く解らないフルーツのジュースを頼んだ。

 俺は猫だからマリアの足元で、お皿に入れて貰ったミルクを飲んでたぜ。


 俺がマリアに念話で質問内容を伝えながら、マリアに話を聞いて貰ったぜ。


「薬草の栽培に挑戦してみたいんですけど、街の外でどこか借りれる土地ってあるんですか?」

「そんな事出来るのかね?」


「まだ実験段階ですから成功するかどうかは解らないんですけど、農業区画みたいにちゃんと場所を借りてやりたいと思って、もし成功しても自分の土地か、ちゃんと借りてる土地じゃ無かったら、誰でも取り放題になっちゃうし」

「成程な、それってマリアちゃんが思い付いた事なのかな?」


「あのですね……実は私テネブルとお話しできるんです。今のはテネブルが言い出した事なんです」

「そんな馬鹿な、って普通の人なら思うだろうけど、私は信じますよ。一昨日譲って貰った鏡も、テネブル君が出所かい?」


「そうです……」

「やはりそうか。あんなに真っ直ぐで透き通ったガラスなんて、王都の錬金術士でも生産出来ないからな。でもテネブル君が持ってきたとしたら、アイテムボックスも使えるって事かな?」


「はい……」

「それは凄いね! 容量はどれくらいあるのか聞いて貰えるかい?」


「あ、テネブルは普通にサンチェスさんが話してる内容は理解できてるので、テネブルの返事だけ教えますね」


 ギルドの酒場でこんな話してたら、情報漏れとか少し心配しちゃったけど、周りの連中の様子を見ると、ひたすら酒を飲んで騒いでる人ばかりだったので、大丈夫そうだな。

 そう思いながらマリアに返事を伝えた。


「あの、今までに五十体くらいの魔物の死体を収納した事はあるけど、容量はまだ全然余裕そうだったって言ってます。後一応秘密でサンチェスさんだけにして貰えますか? って事です」

「うむ、その件は了解だ。容量は凄いな今度一度王都へ行く用事があるのだが、その時の護衛は、是非マリアとテネブルに頼みたい、荷物も少しお願いしたいけど良いかな?」


「王都行の護衛依頼だとBランク依頼ですから私はまだDランクで受けれないんですけど?」

「そうか、出発は一週間後だから、それまでにCランクに上がれなかったら、ギルドを通さない個人依頼で頼もう。一応わしからここの冒険者ギルドのマスターには伝えて置くから心配は無用じゃ」


「はい、分かりました。テネブルも王都に行って見たいって言ってます」

「それともう一つテネブル君は鏡を仕入れる事は出来るのかな?」


「大丈夫みたいです」

「今度の王都行の時に献上品と商売用で用意して貰えると嬉しい。値段は悪いようにはせんぞ。儂も少しもうけさせては貰うけどな」


「あの、テネブルがこれから仲良くさせて貰いたいので、自分の持って来る商品は全部サンチェスさん経由でお願いして、分け前は売り上げの半分ずつにしたいって言ってます、その代わり仕入れ先とかアイテムボックスの事を秘密にして欲しいと」

「ほーテネブル君は、商売の才能が有りそうじゃな。儂ならば確かに秘密を抱えた取引でも問題無く出来るからの。勿論OKだ。ただし分け前は三対七だ。勿論テネブル君が七だ」


「よろしくお願いします」

「そう言えば、あの鑑はわしの女房も大喜びでな。昨日この街の友人のご婦人方を招いて、自慢をしたらしくて鼻高々じゃったぞ。そのご婦人方からも仕入れる事が出来ないかとの問い合わせが凄いらしいぞ」


「あんな高い物を良く手に入れたいと思いますよね?」

「一定以上の金持ちは、女性だとみんな宝飾品や化粧道具に衣服くらいしか使い道が無くなるからの」


「それなら、鏡は必須アイテムですね」

「その辺りの品物で何かめぼしい物が有れば、紹介して欲しいな」


「それなら、化粧品なんかを少し用意してみましょうか? ってテネブルが言ってますけどどうですか?」

「一度物を見てみたいな」


「じゃぁ次に顔を出す時に鏡と化粧品のサンプルを少し仕入れてきますだって」

「それは楽しみじゃ。薬草の栽培地の話はそうじゃの広さはどれくらい必要かな?」


「孤児院の子供達に面倒を見て貰おうと考えてますので、街からあまり遠く無い所で百メートル四方くらいの土地が欲しいです」

「それじゃったら、西門を出てすぐの所にわしの自由になる土地があるから、そこを貸そう。孤児院の子供達の働く場所と言うならただで構わんが、他の者が勝手には入れぬ様に柵で囲わせておこう」


「ありがとうございます。薬草が取れるようになったらちゃんと賃料を取って下さいね」

「そうじゃな、その時は、わしのお小遣いを貰おうかの」


 サンチェスさんといい話が出来たので、今日はそのままマリアの家で寝る事にした。

 マリアの胸に抱かれて寝ると、フワフワで超幸せだぜ!


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