第23話 香織を爺ちゃんに紹介してみたぜ

 居酒屋でいい気分になって、その後はヒルトン福岡シーホークホテルのバーラウンジで飲み直しをする事にした。

 今日は、ちょっときついのが飲みたいなと思って、ワイルドターキーの十二年物をロックで頼んだ。

 香織はカンパリソーダを頼んでた。


 俺の中ではターキーはやっぱり101プルーフ(五十.五度)のちょっときつめな感じがしっくりくる。

 でもこのホテルのバーは、どっちかと言うとダイニング的な色合いが強いから、ゆっくり飲むには落ち着かないかな?


 三十五階の窓から一望する福岡の街並みはとても綺麗だったぜ。


「ねぇ最近の俊樹兄ちゃんが凄く羽振りがいいのも、向こうでの活動でこっちのお金にする方法が有ったりするのかな?」

「まぁそうだな。香織にも無関係じゃ無いんだが俺達の高祖父、爺ちゃんの爺ちゃんと出会っちゃってさ」


「え? ちょっと待ってよ。一体いくつなの?」

「どうだろ人に会ったのが百四十七年ぶりだって言ってて、年齢が今の俺と変わんないくらいに感じるから、二百歳には届かないくらいかな?」


「それって幕末の人って言う事なの?」

「そうだな」


「まさか……生きてるの?」

「いや、土蔵の地下でしか会えないから、普通の感覚で言う生きてるとは違うと思う」

 

「ねぇ、私も会ってみたい」

「まぁ香織なら構わないが、由美叔母さんには内緒だぞ?」


「それくらいは解ってるよ、でも姿は猫になっちゃうのかな?」

「総司爺ちゃんに会うだけなら、人の姿のままだよ」


「そうなんだ。なんだかわくわくするな。じゃぁ明日は早めに帰ろうね」

「おう了解だ。もう買い物は一通り済んだしな」


「ねぇ俊樹兄ちゃん」

「ん? どうした」


「付き合っちゃわない?」

「唐突だな。もう少しよく考えたほうが良いぞ。異世界行ってると死が身近にありすぎて、大事な人を守って行けるかなんて予想も出来ないからな」


「だからこそだよ。大事に思ってくれるなら帰りたいって思うでしょ?」

「まぁ言ってる事は解るけど、そう焦らなくてもいいだろ? 別に香織が嫌だって訳じゃ無いし、綺麗だとも思ってる。でもまだ香織の気持ちは一時の気の迷いのようにも見えるからな」


「私だってもう子供じゃ無いし、打算もあるけど俊樹兄ちゃんなら私に酷い事をしたりしないって言うのは解るからね」

「まぁそうだな、大事にしてやるのは間違いない。だけど焦るな。本当に他の男に興味を持てない段階になってからで良いさ」


「ふーん。まぁ取りあえずは解ったよ」


 何だかもやもやしながらの就寝になったぜ。


 翌朝朝食をとった後は、総司爺ちゃんに差し入れる日本酒を仕入れる為に、住吉神社の側にある地酒屋さんに立ち寄って、めぼしい物を何種類か仕入れた。


 洋酒関係は無いなと思ったけど、普通に薬局とかでも最近は結構揃う事を思い出して、洋酒は薬局で仕入れたぜ。


 お酒を仕入れた後は他に用事も無かったので、新幹線で小倉へ戻った。

 香織は妙に上機嫌だったけど、そこが怖いぜ……


 タクシーで下冨野の自宅に戻り、香織を連れて土蔵へと入った。

 一応地下室へ続くスライドする板の上にはマットを敷いて目立たなくはしてある。

「へぇこの倉庫の中綺麗に片づけちゃったんだね」

「それで見つけたんだよ入口」


「断捨離は大事だって事だね」


 マットを除けてみると普段通りに俺にはスライドする板が見えたが香織は「え? 何も無いじゃん。入口ってどこ?」って聞いて来た。


 そう言えば爺ちゃんが他の人間は手をつないだ状態じゃ無いと辿り着けないとか言ってたような気がするな。


 俺は香織の手を握ってみた。


「俊樹兄ちゃんいきなりどうしたの? 別に嫌じゃ無いけど、一応初めてはもう少しムードがある所がいいな?」


「ちょっ、違うって……手を繋がないと香織には入口が見えない仕様なんだよ」

「なーんだ。てっきり催したのかと思っちゃったよ」


「俺だって最初の時くらいは、少しはシチュエーションとか考えるぜ」

「期待しとくね?」


手を繋いだ事に拠り、香織にもスライドする床板の存在が把握できたみたいだ。


「見えたか? それじゃぁ行くぞ」

「何? 真っ暗じゃない、ちょっと怖いよ」と腕にしがみついて来た。


「しがみつくと危険だぞ? まっすぐ降りて行くだけだから安心しろ」


 俺はすっかり慣れちゃってたもんだから、懐中電灯もたないで降りたけど、使えばよかったな? と後で思った。

 階段を降り切って、まっすぐに部屋の真ん中まで進むと、部屋がぼんやり明るくなって、総司爺ちゃんが姿を現した。


「俊樹、もう女を連れ込んだのか? っと思えば、馬鹿孫二号か」

「馬鹿孫二号って酷い表現だね、総司お爺ちゃん」


「ほぅわしの名前を知っておるのか、俊樹に聞いたのか?」

「そうだよ、初めましてご先祖様」


「ふむちゃんと礼儀はわきまえておる様で安心したぞ」

「本当に思ったより全然若いんですね、総司お爺ちゃんは」


「そうじゃの、地上での生命活動を終えた当時の姿じゃからな。それでも魔力で若く見えるはずじゃぞ。その当時で五十五歳じゃったからの」

「そうなんですね、四十歳くらいだと思ってました」


「まぁ誉め言葉じゃと思っておくわい」

「あ、爺ちゃんお土産だ。良さそうな日本酒何種類か持ってきたぞ」


「おお、ありがとうな。俊樹も中々気が利くじゃ無いか」

「約束したからな、爺ちゃんのお陰でこっちの世界でも楽しく過ごせてるしな」


「ふむ、なんで香織を連れて来たんじゃ?」

「それはねお爺ちゃん。私どうやら俊樹兄ちゃんが好きになったみたいだから、秘密を知りたくて付いて来たの」


「ほお、そうか従妹同士は問題無く結婚も出来るし良い事じゃな。それにしても香織は随分感が鋭いんじゃな? 別に俊樹が喋った訳じゃ無かろう?」

「ああ、それは俺が少し間抜けだっただけだ。つい向こうの感覚でアイテムボックスに荷物放り込んでたからばれた」


「なんと、それは間抜けじゃな。世間の人々に気付かれぬ様に少しは気を付けろよ?」

「ああ、逆にばれたのが香織で助かったよ。他の連中じゃ絶対面倒な事になってたからな」


「で? どうするんじゃ香織も行くのか?」

「行って見たいよ」


「構わんがどんな姿になるかは解らぬぞ?」

「うーん、ちょっと心配だけど、好奇心が勝っちゃうかな? 向こうに行っても最初は家の中なら、心構えくらいは出来るし」


「そうか、それなら行って来るが良い。俊樹、ちゃんと香織を守ってやるんじゃぞ」

「ああ。解ったぜ爺ちゃん。それじゃぁ行って来るな」


 そうして俺と香織は二人で青い扉をくぐって行った。

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