第24話 香織の異世界初体験

 扉をくぐった先に現れた香織の姿を見て俺は呟いた。


「可愛いじゃねぇか」


 当然その場に流れた音は「ニャニャァン」だったがな!


 だが通じてた。

 何故だ?


 あ、言語理解か


「香織? ステータス確認とか出来るはずだからしてみな?」

「え? 私どんな姿なの?」

 

 俺はキョロキョロしている香織を部屋の中においてある鏡の前に連れて行った。


「キャイン」って声がした。


 そこに居たのは真っ白な雌のパグだった。


「えーマジ? 私犬なんだぁしかもパグって……もう少し可愛かったり、運動能力の高そうな感じだったりのが良かったよ」

「選べないからそれはしょうがないぜ。称号に異世界からの訪問者とかあるだろ?」


「うん」

「それの詳細を見てみな」


「えーと。鑑定、インベントリ、言語理解、成長促進、サイズ調整の五つの能力だよ。あれ? 俊樹兄ちゃんの小説のと少し違うよね?」


「ああ、最後の所が俺はラーニングだったな」

「ええ、そっちの方が良かったなぁ。サイズ調整とか絶対魔物倒すのも噛みついたりとかでしょ?」


「サイズ調整の詳細はどうなってる?」

「えーとねレベル×十パーセントでサイズが大きくも小さくも出来るんだってさ」


「最初の内はあまり効果無いけどレベル50くらいになったら凄く無いか?」

「でも噛みつきで魔物倒すとか口が血まみれになったりするでしょ?」


「あーまぁそうだな、俺は咥えて使う刃物が有ったけど、香織用のも何か置いて無いか?」

「あ? これかな?」

 前足に取り付けて使うようなかぎ爪の様な武器が置いてあった。


 鑑定をしてみると

『ミスリルクロー』前足に装着して使う武器、サイズが装着者の大きさによって自動で調整される。

 攻撃力 100+基礎ステータスの攻撃力を二十パーセント高める

 魔法融和性が高く、発動媒体にも出来、魔法を纏わせて使うことも出来る。


 正に香織のスキルに合わせた様な武器だった。


「いい武器じゃ無いか」

「えぇ、でも魔法とか使える方が良いよ」


「ああ、それは心配しなくても覚える方法はあるみたいだ」

「そうなの? それなら少しは安心したよ」


 もうちょっと香織っぽい姿になると予想してたけど、微妙だな。

 

 香織が不安そうな表情ですり寄って来る。

 俺は取り敢えず落ち着かそうと思って、頬っぺたを舐めてやったぜ。


 何故か後ずさりされた……


「俊樹兄ちゃん一応私達のファーストキスなんだからね今の……」

「あ……なんかすまん」


 まぁ来てしまった以上は用事を済ませないと、一度戻ると二十四時間戻って来れないから「付いてこい」と言って窓から外に出た。

 猫と違って、身軽さに欠けるパグの香織は、ドチャッって感じで何とか窓から降りたけど、踏み台用意しないと、入れないんじゃないかこれ?

 大きくなればなんとかなるか?


 きっと今日中にレベル十くらいは超えるだろうし……


 俺は従魔のプレートと念話の指輪を首から掛けると、香織が付いてこれる速度で孤児院に向けて歩き始めたぜ。


「香織。あまりキョロキョロしてると迷子になるぞ?」

「だって初めての異世界だよ、なんか凄いねぇ」


 まぁいいや。

 俺は取り敢えずマリアに念話した。


『マリア、今どこかな?』

『あ、テネブルお帰りなさい。今は孤児院だよ。でもさっきサンチェスさんから使いの人が来て、テネブルが来たら直ぐに商業ギルドに来てくれって手紙預かってるから、商業ギルドの前で待っててよ?』


『そうか、解った何分位で付くかな?』

『十五分くらいかな?』


『それに合わせて俺も行くよ』


 マリアが来るまでの時間を香織と一緒にファンダリアの街の中を散歩してみた。


「本当に異世界って感じだよね。人種が凄いね。エルフにドワーフ、獣人の人も色んな種類の人が居るし、人も肌や髪の色があり得ない程色とりどりだし」

「凄いだろ? この光景を眺めているだけで時間なんてすぐ立っちゃうぜ」


「大感動だよ。でもさこうして俊樹兄ちゃんと話してると自分達の姿の問題って意外に気にならないもんだね」

「そうだよな。俺も少し不思議な感じがするけど別に嫌じゃ無いからな」


 でもパグな香織は舌を出してハァハァしてる感じが、香織のイメージと違い過ぎて、笑いそうになる事は言わない方が良いだろうな?


 商業ギルドの前に着くと丁度マリアもやって来た。


「テネブルお待たせ」


 俺の横に並んで座ってる香織を見ると「え? このワンチャンってもしかしてテネブルの友達なの?」

「ああ、そうだ。これから俺と一緒に居る事が多いと思うからこの子にもプレート用意して貰えるかな?」


「へぇこのワンチャンは女の子かな? テネブルの彼女じゃ無いよね? 犬だし」

「まぁそれはいいだろ? 取り敢えずプレートは頼む」


 って言うと何故かちょっと香織がプイっと顔をそむけた。

 もしかして怒ったのか?


 解んねぇぜ雌犬心……


 マリアが商業ギルドへ入る前に先に、向かいの冒険者ギルドで香織用のプレートを貰って来てくれた。


「あなたの名前はリュミエルだよ。よろしくね」と言いながら、香織の首にプレートを掛けてくれた。


 テネブルとリュミエルか、確かフランス語で「闇と光」だよな俺達の色も黒と白だし、お似合いの名前だぜ。

 香織もリュミエルの名前は気に入ったようで小さく「アォン」と鳴いて舌を出しながら短い尻尾を振って居た。

 でも……犬の姿って後ろから見るとお尻の穴も丸出しだったんだな……

 今まで意識した事なかったけど、人間の香織の姿を想像しちまうとやばいぜ……

 って事は、俺もお尻丸出しなのかよ……ちょっと恥ずいぜ……

 少なくともこの事実は香織には言わないでおこう。


 まぁ犬のお尻が見えたからって、興奮したりはしないんだけどな!

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