第25話 香織の得意技

 リュミエルにも従魔の登録プレートが掛けられたので、商業ギルドへと移動した。


「サンチェスさんいらっしゃいますか?」


 マリアが受付で尋ねると待ち構えて居たかのようにサンチェスさんが顔を出して来た。


「おお待っていたぞマリア。テネブルもよく来てくれたな。おや? その白い犬はどうしたんじゃ? プレートを掛けてる所を見るとマリアの新しいお仲間かな?」

「こんにちはサンチェスさん。わざわざ使いの人を寄越すとかお急ぎのご用件ですか?」


 俺と香織もちゃんと挨拶したぜ。

 挨拶は社会人として常識だからな!


「「こんにちは」」


 当然その場に流れた音は、「ニャン」と「ワン」だったけどな!


「おうそうなんじゃ。綺麗な瓶に入った化粧品を預かっていたじゃろ。うちの嫁達が蓋を開けて、色々しておったが凄いいい匂いはするけど、使い方が良く解らない様でな『これを正しく使えば美貌に磨きがかかることは間違い無い筈です。すぐに正しい使い方を聞いて来て下さい』と言いだしおってな、すまないんじゃが私と一緒に家まで来て説明をして貰えぬか?」


 俺は今のサンチェスさんの言葉に引っかかる物を感じた。

 マリアに念話で伝えて聞いて見た。


「嫁達ってどういう事ですか?」と……

「言っておらんじゃったかな? わしには嫁が五人いてな。キャロルに振られてから必死で商売をしてきて、気付けば五十を過ぎるまで独身じゃったから、店を奉公人達に任せ、商業ギルドのマスターに就任してから、やっと一息ついて結婚したんじゃが、それなりに財産が有ったもんじゃから、有力者や貴族達がこぞって嫁を薦めて来てな、気付けば五人になっておった。どの嫁もわしの娘の様な歳じゃから、せめて少しは良い生活をさせてやろうと思っておる」


 リア充もげろ。

 と思ったが、口には出さなかったぜ。


 俺達はサンチェスさんに付いて行き、自宅に案内される事になった。

 用件の内容がお化粧の方法という事だったので、途中で孤児院により、シスターミザリーも誘って、手伝ってもらう事になった。


 シスターを馬車に乗せて、街の中心部のいかにも裕福な人達が住むような、お屋敷が集まった場所にあるサンチェスさんの家へと到着する。


 到着すると、お手伝いさんや執事の様な人達が並んで出迎え、その奥にまだ四十代にはなっていないであろう妙齢のご婦人方が並んでいた。


 マリアとシスターはそんなお出迎えには慣れていないので、少しおっかなびっくりした感じで、サンチェスさんの後へと続く。


「早速ですが、昨日旦那様が持ち帰ったこの化粧品は素晴らしく良い香りがするし、正しく使えば私たちが美しくなるのは見ただけで想像がつきます。でも使い方が良く解らないの……旦那様が仰るには随分高価な商品の様ですので、きちんと使い方を教えて戴きたくて、お願いしましたわ」


 使用人の方がマリアとシスターに紅茶を、俺と香織の前には平べったい皿にミルクを入れて持ってきた。


「はい、それでは代表でお一方へお化粧を施しますので、後の四名の方はそれを参考にされて、お互いでお化粧をしあって頂くという事でよろしいですか? 勿論見ながらアドバイスはさせていただきますので」


 その会話を聞きながら俺は少し閃いて、香織にこそっと話しかけてみた。


「なぁ香織、これってさもしかしてお化粧品をこの世界で売るとなると結構な高額商売になるけど、美容室みたいな感じでお化粧を施す商売とかなら、かなり需要があると思わないか?」

「まだこの世界を色々見て無いから断言はできないけど、今の会話の中から感じた部分では結構いけそうな感じだよね。でも美容部員を育てたりとか結構大変じゃ無いの?」


「シスターのやってる孤児院に、女の子達も五人いるから、シスターに教えさせれば、十分に育つと思うぞ?」

「人手もあるなら、失敗は少ないと思うわ、私もそれなら協力できるし、私に魔物をかみ殺すなんてとても出来そうにないからね」


「あ、折角だからアイメークと眉毛も今シスターに香織が教えてあげながら出来ないかな? 念話の道具をそれぞれに渡すよ」


 俺はマリアに話しかけ、マリアの指輪をシスターに、俺の指輪を香織に渡した。


「シスター初めまして、リュミエルです」

「え? ワンちゃん?」


「そうです、さっきの指輪でお話が出来るんです」

「そうなの? 凄いわね。どうしたの?」


「私、お化粧には結構詳しいから私が言う通りにお化粧をして上げて下さい」

「え? ワンちゃんなのに?」


「そこは取り敢えず触れないで下さい」


 俺はその会話が行われている間に、昨日仕入れた化粧品をこそっと取り出してマリアへと渡した。


 その後は香織の指示に従って、シスターが奥さんに化粧を施し、美しく仕上がった姿に、五人の奥様方や使用人の女性の方達もため息が漏れていた。


 残りの四人の奥様達にも香織のアドバイスの元に、シスターとマリアが手助けをしながら綺麗に仕上げる事が出来た。


「素晴らしいわ、この商品は。きっと売り出せれば世界中の女性が求める事は間違い無いですわ」

 

 奥様方の反応に、サンチェスさんも満足そうに頷いていた。


「さてマリア。この化粧品じゃが、幾らの値段で売って貰えるかな? 出来れば沢山譲って頂きたいもんだがな?」


 もうすっかり、商売人モードに入ったサンチェスさんにマリアが俺の方を向いて、手助けを求めた。

 俺は念話の指輪を香織とシスターからそれぞれ返してもらい、仕入れた値段の十倍の価格を提案した。


「なんと。これほどの品質の物がその値段は安い、安すぎるぞ。本当にその値段で良いのじゃな?」

「問題ありません。十分にこちらの利益もあります」


 無事に商談は成立した。

 その後は馬車で孤児院まで送って貰い、俺は香織とマリアの三人で狩りに行く事にした。


 俺達はパーティ扱いだから、俺がどんどん魔物を倒して、香織のレベルが15マリアのレベルが20になるまで頑張った。

 結局一応香織も爪を装備はしていたけど、魔物は一度も倒さなかった。

 まぁ血なまぐさい事を香織に求める事は、俺的にも本望では無いので、それでいいと思う。


 それでもこっちの世界に来ている時は、一緒に居てレベルだけは上げてもらおう。

 そのうちスクロールを手に入れるようになれば魔法を覚えて欲しいしな。

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