第41話 野営
昼食を終え、一行は川に平行して海の方向を目指している。
気候は温暖で暑すぎることも無く快適な旅路だ。
陽が落ちてくる前に、再び休憩用の広場の様な場所に入り、テントの準備などを始めている。
当然護衛できている『ラビットホーン』の四人とマリアは夜の見張りも任務だ。
「マリアとテネブルは最初の見張り番を頼むな。中番は俺とマリボ、朝番はゴーダとマーブルがやるから、よろしく頼む」
「はい、了解しました」
チェダーさんの指示のもと見張り番の順番も決まった。
ここに付くまでの間に俺は更に魔物を狩りまくって、既に二百匹以上に及ぶ大量の魔物の死体がインベントリに入って居る。
大きめの焚火が用意されていたので、途中で倒したボアの肉を一頭分出して、女性従者の人に焼いて貰いながら、みんなにお弁当とインスタントスープを配った。
今度はコーンポタージュスープにしてみたぜ。
サンチェスさんを始めとして、商会の人も『ラビットホーン』の人もとても喜んでくれた。
夕食を終えて、マリアと見張り番に付いた頃に香織から念話が入った。
『俊樹兄ちゃん。戻ったよ。転移門お願いね』
『お帰り香織。すぐ用意するから一分後くらいによろしくな』
それからすぐに野営地の外に出て転移門を広げると、リュミエルが戻って来た。
「俊樹兄ちゃん凄いんだよ」
「何がだよ? 主語が無いと解んないぜ」
「小説! 一位だったよ総合で、後ねちょっと私の番組でネタに使わせて貰っちゃった。番組内での反響も今までにないくらい凄かったよ」
「お、そいつは凄いな。番組で使うのは俺的にはメチャ嬉しいけど、番組の構成の人とかは大丈夫なのか?」
「作者の許可が取ってあるなら全然OKだってさ」
「そうか、そいつは今度戻った時が楽しみだな。絵と文章はどっちが受けてるのかな?」
「絵も評価高いよね。でもあれって写真の加工イラストでしょ?」
「まぁそうだ。今回はマリアが一杯撮り貯めてくれてるから、どの画像使うか迷うぜ」
「なんだか羨ましいなぁ」
「香織もなんか書いて見たらいいじゃん。貴重な体験してるんだから表現しないのは勿体ないぜ」
「そうだね、日記風に仕立てて書いて見ようかな? 日記は二十年くらい書き続けてるからそれなりに自信あるかも」
「すげぇな、物書きとしては俺より大先輩かもな? 俺なんか離婚してから書き始めたからな」
「あ、離婚で思い出した。俊樹兄ちゃん知ってるかな?」
「何をだ?」
「今ランキングの二位の作者さんって、晃子さんだよ?」
「え? マジか?
「そうそう、晃子さんのWeb小説専用のペンネームだよ。そのまま和訳してみたら成程って思うよ?」
「飛ぶ鳥……あ、
「確かジャンルは異世界恋愛物だったよな? 残念ながら俺が一番読まないジャンルだぜ」
「私は読んでるよ、凄い心理描写が面白くて書籍も結構持ってるんだよね」
「そうなんだ。今度読んでみるよ」
「それでさ、思い出したんだけど、もしかして晃子さんって、俊樹兄ちゃんと離婚したのって、離婚した女性の心理描写を描くために、実際に体験して見たかったんじゃないかな? って思ったんだけど」
「え? それマジで言ってるのか? まぁ取り敢えずマリアが心配するから中に入ろうぜ」
「うん」
「あ、リュミエルお帰りなさい」
「ただいまマリア。今日はね、お化粧の勉強用に動画撮って来たんだよ」
そう言いながら俺が部屋に置いて行ってたタブレットをインベントリから取り出した。
「え、何これ、中で人が動いてるよ? どんな仕掛けなの?」
「仕掛けは、説明しても解らないと思うし、私も良く解って無いからスルーしてね」
香織はメディアの人間らしく、こういった機器の扱いには慣れている様で、こっちの世界では絶対必要なさそうな部分は全部隠して、動画の再生に特化した仕様にしていた。
「成程なぁこれならマリア達でも扱いやすいよな」
「でしょ? 出来るだけ解り易くしておこうと思ってね」
「お、魔物の気配だ」
「え? どのくらいの数か判る?」
「そうだな五匹で狼系だ。チョット行って来る。一人で十分だから焚火から離れないでくれ」
「解ったけど、気を付けてね」
「任せろ」
夜に現れた狼たちは、『グレーウルフ』レベル20だったけど、目だけが赤く光り結構不気味だったぜ。
まぁ俺の相手にはならないけどな。
速攻で、首筋を切り裂いてインベントリに放り込んで戻ったぜ。
夜の十二時過ぎになったのかな? マリアとリュミエルが動画を見ながら話してたけど、チェダーさんが用意していた砂時計の砂が落ち切ったので、マリアに声を掛けて、チェダーさんを起こしに行った。
グレーウルフが一度近寄って来たので倒した事等を伝えて、テントへと戻った。
その後は、朝まで問題は無かったようで、今日もマリアの胸を枕に心地よい夢を見たぜ。
夢の中で香織が晃子と飛鳥を思い出させた影響か、まだ幼かった頃の飛鳥を抱いてる夢を見た。
晃子もどちらかと言えば美人だったし、可愛く育ってるんだろうな。
ちょっと会いたくなっちまったぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます