第107話 晃子が来た

 結局そのまま心愛ちゃん達三人はうちに泊まって、一緒に朝食を食べる事になった。

 心愛ちゃんの作る朝ご飯は、普通に白ご飯、お豆腐の味噌汁、卵焼き、焼き鮭、納豆とド定番の献立だったのに今までに味わった事の無いクオリティだった。


「ご飯ってこんなに粒が立ってて甘いもんなのか?」


 思わず聞いちまったぜ。


「愛情をたっぷり込めれば、料理は何処までも美味しくなるんですよ!」


 自信を持って言い切られてしまったが、きっとそれだけじゃ無いと思う……


 杏さんが「心愛ちゃんのお料理は、三ツ星レストランのシェフが習いに来るレベルですから……」って言ってた。


 マジすげぇ。


「奥田さん、飛鳥ちゃんから聞いたけど、今日はフライングバード先生来るんでしょ? 絶対会いたいですぅ」

「希ちゃん? 向こうの世界に晃子の本持って行くと……問題起こらないかい?」


「あ、それそれ、それがですねテネブル先生は私達の世界に居なかったんですけど、フライングバード先生は西山晃子先生として存在してるんですよ」

「え? マジか」


「飛鳥や俺は居ないんだよね?」

「はい」


「何が違うんだろう……」

「ネットでの投稿をされて無かったから気付いてませんでしたけど、確かに同じ題名の作品があったんですよね。本屋さんに」


「まぁ俺の作品は……テネブルの世界ありきだしねぇ」


 そんな話をしてると新幹線の中から晃子が電話をかけて来たので、飛鳥と二人でレンジローバーに乗って小倉駅まで迎えに行く事にした。

 

 駅の新幹線口で待っていると予定時刻通りに到着した様で、到着時間の五分後には飛鳥と一緒に車に戻ってきた。


「お出迎えありがとう。俊樹」

「ようこそ小倉へ。晃子」


「へー。なんかそんな感じで挨拶してると恋人同士みたいだね。パパとママ」

「そう? じゃぁ本当にそうなっちゃおうか? 俊樹」


「おいおい、今更だろ」

「まぁそうだね。そう言えばね私、杉下さんの申し出お受けする事にしたわよ」


「そうか、素敵な事だと思うぞ」

「あなたも頑張りなさいよ、香織ちゃんまだまだ若いから、あなたの体力全部吸い取られちゃうんじゃないの?」


「ママ。それがね。香織姉ちゃんだけじゃないみたいなんだよ? パパのお嫁さん候補」

「あら? そうなのお盛んなのね」


「おいおい、何もそんなやましい行動はして無いぞ。二人共ちゃんと節度を持って付き合ってるんだからな」

「まぁそれはいいわよ。お義父さんのとこ行こうよ」


「ああ、そうだな。香織たちも迎えに行ってからでいいか?」

「勿論いいわよ」


 一度家に戻ると、杏さんと心愛ちゃんと希ちゃんもついて来ることになった。


「あ、あの。初めましてフライングバード先生ですよね。私大ファンなんです。サインお願いします」


「あら? 貴女まさか、俊樹の小説の最新話に出てた異世界の勇者の希ちゃんなの? じゃぁもう一人の素敵な女の子は、心愛ちゃんかな?」

「え? なんでバレちゃったんですか?」


「希ちゃんの持ってる本! そんなのこの世界に存在しないの。その本のタイトルの小説は私が知っているのはフライングバードの名前でしか出して無いからね?」


「あ……」


「晃子……一応内緒で頼むな」

「もうお一方の、立派な胸部装甲のお嬢さんは。香織ちゃんのライバルの人?」


「ママ、表現の仕方が希と同じだよ。なんかおばちゃんっぽい……」

「晃子姉さん。この方は心愛ちゃん達の保護者です。テネブル的には抱かれてる絵面が欲しいそうですけどこの世界では、一応諦めてるらしいです」


「あーそうなのね。残念だったわね俊樹」

「私のライバルな人は、今はレンタカーショップにいるはずですよ?」


「へー、お墓参りが終ったら、一緒に行きましょうね」

「おいおい。勘弁してくれよ」


「あら、飛鳥のママになるかも知れない人だったら私もチェックしとかなきゃね?」

「なんか、奥田さんも色々大変そうですね……」


「心愛ちゃん、別に狙ってる訳じゃ無いからな」

「それは……どうだか?」


「チョッ……」


 お墓に到着して掃除をしてお花を飾ろうとしたら、心愛ちゃんがいつもの箒を取り出して一撫でするだけで、新品の様にピカピカになった。


 母と同じ墓だからもう二十年も前に作った墓石だけど心愛ちゃんに感謝だよ。

 綺麗になったお墓に親父の好きなタバコを線香代わりに火をつけて備えた。


 花瓶には大量の花も飾られて手を合わせる。

 親父は俺達が沖田総司の子孫だって知ってたのかな?


 ちょっと気になったけど、何も言わなかったから、きっと知らなかったんだろうな。


 墓参りを終えると、予定通りレンタカーショップに向かった。

 予想以上の規模の大きさと、並んでいる車のゴージャスさに流石の晃子もびっくりしてた。


 お茶を出して来た鮎川を見て「あー、この方ね? わっかるわー」とクソ恥ずかしい事に大きな声で言った。


「あの? 奥田君? こちらの方は?」

「鮎川、ごめんな。飛鳥の母親だ。ここを見てみたいって言って連れて来た」


「初めまして鮎川さん。元鞘は百パーセントありませんからご安心くださいね。私も今日は飛鳥のお爺ちゃんのお墓参りに寄らせて貰っただけですから。一応再婚が決まったのでその報告もかねてですけど」


「そうなんですね。でもライバル多いですから全然安心なんてできないですけどね」


 と俺に向かってウインクして来た。

 最近は、香織と鮎川が妙に仲が良いのが気になるんだよな。

 二人で飲みに行ったりとかもしてるみたいだし。


 その後はみんなでお昼ご飯を食べに行き、飛鳥と晃子は一緒にショッピングに行くと言って別れた。


 香織は次回のラジオの放送の原稿のチェックをすると家に戻ったので、俺は心愛ちゃん達と転移で東京に乗り込んだ。


 一応、香織を送った時に、爺ちゃんにも確認したが「心愛ちゃんが一緒ならわしが出て行くほどの事も無かろう」って事だったので俺達だけで向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る