第108話 異世界テーマパーク計画
東京に向かった俺達は、恐らく間違いなくハチロウとその依り代の十三さんが居るであろう場所として、開催中の府中の競馬場を訪れた。
「新聞に載っている予想オッズと見比べて、明らかに変動のあるレースを見つけてください」
杏さんの言葉に従ってレースを探すと、メインに近い9レース辺りの特別競走からメイン11レースまでの競争にオッズの違和感があった。
「該当レースは見つけましたけど、どうするんですか?」
「えーとですね、ネット投票とかだと大口で勝つと税務署がほぼ間違いなく個人を特定して課税対象になるから、必ず現金で窓口投票してるはずなんですよね」
「あー、なんか聞いた事有ります。でも、裏社会の人達だったら敵対組織のノミ行為をしてる所とか利用してないですか?」
「そんな所じゃ精々何百万円単位の勝負しか対応できないでしょうから、あまり関係無いでしょうし、それなら裏社会どうしの取引だから別に問題にする必要もありませんよ」
「そっか、でも。対処方法はあるんですか?」
「恐らく本来なら、勝ち目の薄い馬の能力を調整して、穴馬が来るようにしているはずです。それを心愛ちゃんが看破するので、後は元通りの数値に戻すだけですね」
「なるほどー。じゃぁ俺はちょっと本来の本命馬券でも買って来ようかな? ハチロウ達のお陰でオッズが結構上がってるし」
「まぁそれくらいは手間賃で貰っても良いでしょうね」
パドックで競走馬が近くを歩いてるのを見ながら、心愛ちゃんが特定して、予定通りにステータスを本来の値に戻した。
俺は百万円分程の馬券を購入して、のんびりと観戦する事にした。
当然の様に仕込まれた馬は本来の実力通りに凡走したけど、俺が買った本命馬も凡走して結局中穴で決着がついた。
ギャンブルって……
切ないな。
その結果が出た頃に、俺のスマホに着信が入った。
「奥田さん。やってくれましたね? うちを敵に回すと面倒ですよ?」
「へー。じゃぁその言葉そっくりそのままお返ししますよ。俺を敵に回すとたかがヤクザ組織くらい、物理的に纏めて潰してあげますよ」
その言葉が、届くころには杏さんと心愛ちゃん達が馬主席のブースに居る、清海十三を確認した様で、俺は落とすばっかりじゃ引けなくなるだろうと思って用意した案を、提示する事にした。
「清海さん、既にあなた達は異世界の怖い勇者さん達に捕捉されてる。今更何かやろうとすると全てを失い消えるだけですよ? それならこっちの提案に乗ってまっとうな商売に鞍替えも悪く無いんじゃ無いですか?」
「クッ、何をしろと言うんだ」
「そのままそこのブースを出て大島さんと合流したら、ちょっと付き合って下さい」
そして杏さんと心愛ちゃん達に囲まれた清海十三さんが俺と合流して小倉へ戻った。
しかし……心愛ちゃんと希ちゃんと杏さんに囲まれて歩く中年男って、ある意味少し羨ましい絵面だよな。
さっきまで俺もそうだったか……
俺は坂口さんに連絡を入れて、高松さんと一緒に来て貰える様に頼んだ。
二人が合流した事を確認すると、再び心愛ちゃんに頼んで転移で迎えに行き、地下の爺ちゃんの場所へと降りて行った。
今回は全員が依り代の当主に宿っている状態だったので、爺ちゃん達も久しぶりに四人揃った様だ。
「爺ちゃん達はここで四人だけで話でもして置いてね。俺達は上でこれからの事を少し相談するから」
「解った。この世界の事にはわしらが直接関与しない方が良いからの。今回みたいなことが起らぬように、きっちりとハチロウは懲らしめて置くで後は任せろ」
「頼むな。あ、爺ちゃん。あの王国の転移門が設置してあった島の事だけ、はっきり聞いて置いてね」
「うむ」
「奥田さん、私達の用事は終わったのでこれで戻りますね」
「大島さん。心愛ちゃん。希ちゃんも、ご協力ありがとうございます」
「いえいえ、今回は私達の世界の方が問題を作ったので当然です」
「あ、そう言えば何で大島さん程の人が簡単にハチロウに騙されちゃったんですか?」
「それは、きっと奥田さんがテネブルの世界の事をもう少し突き詰めればお判りになると思いますよ」
「そうなんですね。じゃぁ取り敢えずはワクワクしながらテネブルの世界の謎を解き明かします」
「頑張ってくださいね」
「心愛ちゃん達もまたいつでも飛鳥の所に遊びに来てあげてね」
「はい!」
◇◆◇◆
「という事で清海さん。この時代に裏の稼業に拘る必要も無いんじゃ無いですか?」
「奥田さん。言ってる事は解りますが、必要悪って言う言葉は解りますか? 悪い奴はいつの時代でもいるんです。そんな奴らに言う事を聞かせるのは、法律では無理なんですよ。より強い暴力で押さえつけるしか方法は無いんです。その為には飴と鞭の使い分けで、ある程度満足をさせる必要もあるんです」
「高松家の主導で進めてるカジノ法案が、先送りになってる間はなんとか生き延びなきゃならないですから」
「清海、その話はまだ当分時間がかかりそうだ。それで繋ぎと言ってはあれだが、坂口の所と奥田さんの所で異世界テーマパークを考えているんだ」
「なんだそれは?」
「無人島に異世界の街並みを作り、異世界を体験してもらう事ですね。魔物までは連れて来ませんが、ポーション程度は使っても構わないと思っています。温泉施設でも作り、ポーションの成分を混ぜ込んだ風呂であれば、世界中から観光客は訪れますよ」
「そいつは……待て。それならポーションを流通させる方が手っ取り早く無いか?」
「ダンジョンも無い世界では、流通の根拠が無いですし、怪しげな新興宗教の様になってしまうでしょう?」
「まぁそうだな。その資金は坂口の所が用意するのか?」
「ああそうだ。運営関係を清海の所で用意して貰えば、許認可は高松が何とかする」
「異世界っぽい物資は、奥田さんが用意するって事で良いのか?」
「そうですね、必要な物を言って頂ければある程度は揃えます」
「解った。坂口早急に準備は頼む」
「任せろ。本物に敵う者は無いから、建物とかは全部向こうの世界から移築で行うので、他所では真似が出来ない」
「そんな事が出来るのか?」
「まぁ何とかなります。一応参考までに世界観とか解って置いて欲しいので、これ読んでてください」
そう言って、俺の書いた小説を全員に渡し、読んでおくように頼んだ。
「他のスタッフ様に買って配って貰っても良いですから」
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