第7話 再び異世界へ

 倉庫に行き、地下へと降りると灯がともるのと同時に総司爺ちゃんが姿を現した。

「十五時ピッタリにここに戻ってくるなど、どうやら異世界を相当に気に入ったようじゃな」

「ああ、そうだな早く行きたくてしょうがないぜ」


「お主の書いた小説はすべて実話じゃろ?」

「読んだのか?」


「ちゃんとブクマしておいたぞ?」

「大体事細かく書いてあるからな。昨日はあんな感じだった」


「結構初日からハードじゃったな。お主の小説でも触れてあったが殺生せっしょうをするからには、人間の部分が強いと結構戸惑とまどいが有ったりするもんじゃ。ネコ科の動物は狩りをして生きるのが本能じゃから、殺生という事に忌避感きひかんは少なく済んだんじゃろうな」

「やっぱりそうなんだな、まあ今日も思いっきり楽しんで来るぜ。そう言えば爺ちゃんの言ってた魔導具は出来たのかい?」


「ああ、ちゃんと作っておるぞ。これがそうだ」

「ん? 念話器なのに指輪型なのか?」


「形は何でもいいんじゃが、猫だと言ってたからのぅこれなら鎖を通して首から下げておればよいからな。二つあるがサイズは指にはめればピッタリのサイズになる。マリアと言う女の子にはめさせとけば、お互いが念話で意思の疎通が出来るからの」

「小説を書く事で説明が省けて助かるな。爺ちゃんありがとうな。爺ちゃんはパソコンとか使ってるのか?」


「わしは新しい物好きじゃからの。それでは今日も成果を期待しておるぞ」

「ああ。行って来る」

 

 俺は再び青い扉をくぐり抜け異世界の地へと旅立った。


 ◇◆◇◆ 


 あれ? そう言えば今日は黄色と赤の扉は出て無かったな? 戻ったら爺ちゃんに聞いて見よう。


 黒猫な俺は、取り敢えずインベントリから、姿見を出して部屋の中に置いた。

 へぇ、俺ってこんな感じなんだな。


 姿見の中の俺の姿は、まだ生後半年くらいの若い猫の姿だった。

 自分で言うのもあれだが、可愛いな!


 インベントリから従魔用のプレートを通した鎖を出し、念話用の指輪も通して首に掛けた。

 中々似合ってる。


 窓から家の外に出て、マリアの家を目指した。

 マリアの家に着くと、窓の前に立って「ニャァ」と鳴いてみた。

 反応が無いな。


 出掛けているのかな?

 昨日の今日で冒険者パーティの募集に参加しようとかは思って無いよな?


 このままここで待ってても暇だし、ちょっとこの辺りを散策してみよう。

 壁沿いに百メートルほど進むと少し広い敷地があって子供達が十人ほど遊んでいた。

 あまり良い身なりとは言えないな。


 ぐるっと回って表に回ってみた。

 門の柱に『希望の里』って書いてある。

 恐らく孤児院かな? この辺りはスラムに近い様な場所だ。

 

 決して治安の良い場所ではない。

 少し眺めてるとマリアが中に居るのを見つけた。


 建物の側で大きな鍋を使って、教会のシスターの様な人と料理を作っていた。

 俺は敷地の中に入って行きマリアの側で「ニャァ」と鳴いた。


「あ、テネブルどこ行ってたのよ。心配したんだからね」

「ゴメンな」と返事したけど、当然聞こえる音は「ニャァ」だった。


「あらその子猫が、マリアの言っていた子なの? 全然強そうには見えないのに、凄いんだね君は」


 そう言って俺を抱っこしてくれた。

 なんだかシスターからもいい匂いがするぜ。

 幸せだ。

 この姿ってもしかして、めちゃ良い思いが出来るのか?


 料理が出来上がったようで、シスターが子供達を呼んだ。

「今日はマリアお姉ちゃんがみんなの為にお肉や野菜をたくさん持ってきてくれたから、ごちそうですよ。マリアと神様に感謝して沢山お食べなさい」


 子供達から一斉に、

「わーい、ありがとうマリア姉ちゃん。やっぱり冒険者って稼げるんだね! 俺も早く大きくなってマリア姉ちゃんみたいな冒険者になって、毎日こいつらにお腹いっぱい食べさせてやれるようになるよ」


 うん。

 なんて言うかいい子達だな。

 決して裕福じゃ無いけど、毎日を一生懸命真剣に生きてる感じがするぜ。

 頑張れよ! と素直に応援したくなったぜ。


 食事を食べてる途中に、門の方が騒がしくなった。


(なんだろう?)


 そう思って、門の方を見ると柄の良くない連中が大声で叫んで来た。


「おいおい、貸した金も返せないくせに随分贅沢な食事をしてるじゃないか。そりゃぁちょっと誠実さが足りないんじゃないのか? シスター」

「この食事は、ここの出身者のマリアが材料を持って来てくれたんです。お金はかかってないんですよ」


子供達もいきなり現れたガラの悪い連中に少し怯えていたが、さっき冒険者になりたいって言ってた子が気丈にも「シスターは悪い事なんかしない、悪者はお前等だ、さっさと帰れー」と言うと、

「なんだとこのクソガキが」と金貸しの男がこぶしを振り上げた。

 

マリアが「辞めてー」と叫ぶ。


「そんな事はどうでもいいんだ。マリアって言ったか? お前もここの出身者だって言うなら、ここの孤児院の借金を返そうって言う気持ちにでもなって貰わなきゃぁな。良く見たらいい女じゃ無いか、お前なら売春宿でも売れっ子になれるぞ。この子達の為に一肌脱いでくれるなら借金の話は少しは待ってやるぞ?」

「何で私が売春宿なんかに行かなきゃならないんですか? 大体いくらの借金があるというんですか?」


「聞くだけ聞いてやっぱり無理でしたは通じないぞ? お前が払ってくれるんだろうな? 良いだろう。千五百万ゴールドだ。さぁ耳を揃えて払って貰おう」


 その言葉を聞いて、シスターが口を開いた。


「そんな、借りたお金は百万ゴールドだけです。なんで千五百万ゴールドなんて法外な額を……」

「おいおい、シスター俺達は慈善事業でお金を貸してるんじゃ無いんだ。借金には利息ってもんが付くなんて今時子供でも知ってる話だぞ? それにもう支払いもずいぶん遅れて来て、遅延損害金や俺達が訪問するための手間賃なんかを含めて、正当な請求金額だよ。明日までに払わなかったら、この孤児院は取り壊してここに売春宿を作る。それでも借金に足らないから、その売春宿でシスターにも客を取って貰わなきゃぁな」


「借金の証文はあるんですか? それにちゃんと利息の事なんか書いてあるんでしょうね?」とマリアが聞いた。


「勿論だとも。俺達はまっとうな商売をしているんだ。証文にちゃーんと書いてあるぜ? この通りにな。一応破られた困るからそっちは写しだ。本物は俺が持ってるからな」


 その証文に目を通して、マリアが悔しそうに唇を噛んだ。

 恐らくこいつらのやる事なんか目に見えてる。

 後から自分達の都合の良いように書き加えて、この土地を巻き上げるつもりで、金を貸したんだろうな。


 シスターはマリアよりは若干年上だが、精々二十歳を少し超えたくらいだろう。

 綺麗な金髪と青い瞳で、胸はマリアより若干控えめだが、十人いれば十二人くらいが美人と言う類の女性だ。


「明日までね? じゃぁ今日は帰って。明日までに用意出来なかったらここを引き渡します」

「お? 何だ素直に引き渡す気になったのか? シスターにも売春宿で働いて貰って、丁度借金はチャラにしてやるって事を忘れるなよ? 最初は俺が味見をさせて貰うからな。今から楽しみだ」


 下品な笑い声をあげて借金取りの連中は引き上げて行った。


 さぁどうする俺?

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