第100話 香織の新番組は波乱万丈の幕開けだったぜ!

 俺は夕方香織がラジオ局での最終的な打ち合わせを終えて、迎えに来るまでサインを描き続けて過ごした。

 五百二十部の本にサインをする事が出来たから、余分の二十部は自分で買い取った。

 これをどうするかと言うと、明日の香織の番組でリスナーへのプレゼントにしようと思う。

 一応、香織にも連絡して確認したら、とても助かると言われたので、まぁ良かったかな?


 で、今日は香織に何食べたいか聞くと「ザギンでしーすーとかどう?」

と言われたので「予約しないで入れるような所ってあるのか?」と確認したら「こんな時こそこれだよ!」と言って、先日、香織と一緒に申し込んだラグジュアリーカードの専属コンシュルジュに電話をした。


「OK、予約取れたよ! 俊樹兄ちゃん」

「そっか、やっぱりこういうのってそれなりに、役に立つんだな」


「そりゃね、買い物を全部デポジット入れて、このカードで買う様にしたら、もっと上のカードの案内が来るはずだから、俊樹兄ちゃんも買い物は基本カードでしてね」

「おう、解ったよ」


 俺でも聞いた事のある様な、超有名店のお寿司は小倉の一流店と比べても、もう一段階上の風格を持って居た。

 

「香織でも少しは緊張とかしてるの?」

「でもって失礼だね。私だって新番組は緊張しまくりだよ。晃子姉さんの書いてくれた番組の朗読用のSS作品がさ、結構エロくて朗読する私の身にもなってよね? って感じだから」


「へぇ、それは楽しみだ」

「でも、流石って言うか、エロいんだけどギリギリNGでは無いんだよね。見極めが凄いよ」


「まぁお昼の生番組で、第一回目からNGワード連発って言う訳にはいかないだろうしな」

「もう五回目までは出演していただく作者さんも決まってるし、番組の中で朗読するSS小説にも、協力的だから助かるよ」


「まぁ書く方の立場からすると、自分の作品がプロのアナウンサーに番組で読んでもらえるとか、超嬉しいからな」

「俊樹兄ちゃんも、今回は晃子さんの対談相手だけど、次はメインで一回出てよね」


「あーそれは取り敢えず明日次第かな? 羞恥心に耐えられる自信があまり無いからな」


 寿司を堪能した後は、ホテルのバーで軽くシャンパンを空けて、眠りに付いた。


 ◇◆◇◆ 


「はーい、北九州以外のリスナーの方は初めまして! 北九州の方はこれからもよろしくお願いします! 今日から始まる新番組。『ラノベ的な出会いって憧れる?』はっじまるよー。この番組は投稿小説を愛する私ナビゲーターのカオリンが、今話題の投稿小説を紹介しながら、そのシチュエーションに合わせた音楽を、リスナーの皆さんからリクエストして貰いながら、進行して行こうと言う他力本願な番組です! でもね! 毎回話題の作家の先生方にゲストとして来ていただいて、これから小説を書いて見たい! って言う人のヒントになる様なお話も聞けるはずだからね! 初回の今日はなんと! 大人気作家のフライングバード先生と、最近の投稿小説サイトで大人気のテネブル先生にお越し頂いてます。どんなお話が聞けるのか、わっくわくですね」


「ご紹介にあずかりました、フライングバードです。今日はよろしくお願いしますね」

「同じくテネブルです。憧れのフライングバード先生との対談を楽しみにやってまいりました」


「絶対嘘!」

「嘘って酷いな。フライングバード先生に憧れてたのは本当だからな」


「ちょ、ちょっとストップでお願いします。あの? お二人は仲がよろしいようですね?」

「あ、その振り方、駄目な奴じゃない? カオリンさん」


「え、っと、そう言う振り方しちゃうと、私とテネブル先生の関係性を言わなくちゃ、リスナーがモヤモヤとしちゃうでしょ?」

「ま、まぁ確かに。でもその辺りはモヤっとしててもいいかな?」


「じゃぁこの種明かしは番組の最後までの間に、どこかでぶっこんじゃいますね」

「フライングバード先生の種明かしが、何処で聞けるのか解んないから、リスナーの皆さんも聞き逃さないようにねー!」


 そんな流れで始まった香織の新しいラジオ番組は概ね好評で、晃子のこの番組用のSSも晃子らしさのあるエロキュン系のよくできた話だった。


 情感たっぷりで、読み上げる香織にもちょっとドキドキしちまったぜ。


 で、問題発言の方は当然の様に番組の後半部分で、晃子がさらっとぶっこんで来た。

「で、リスナーの方が興味があるかどうかは別として、私とテネブル先生は古い知り合いなんですよね。何と言っても、私にシングルマザー体験をプレゼントして頂いた方ですからね! お陰で女性一人で子供を育てながら自立し、新たな愛をどん欲に探すと言う、恋愛小説作家に取って大変貴重な体験をさせて頂きました」

「……どう反応していいか困りますけど、リスナーの方も大体検討付いたと思いますが、フライングバード先生は私の元嫁です。私自身結婚生活時代は、まさか自分が小説書くなんて思っても無かったですけど、一人になって時間が出来るとなんとなく書き始めたくなって、現在に至るって感じですね。当然フライングバード先生の事はリスペクトさせて頂いていますよ」


「そう言えばテネブル先生の小説って、読者の方々も凄く気になってる事がありますよね? 代わりに聞かせて貰っちゃっても良いですか?」

「はい、なんでしょう?」


「テネブル先生って異世界行ってきたりしちゃってますか? あの綺麗なイラストなんて、どう考えても写真をイラスト加工してるだけにしか見えないですし、だとしたら、何処で撮影してるのかが超気になるんですけど? この来週発売のテネブル先生のデビュー作『黒猫テネブルの異世界日記、今日もフワフワおっぱいに挟まれて』の表紙になってる、異世界チックな女の子とか挟まれてる黒猫ちゃんとか、どうやったら、こんな写真が撮れるのかとても興味深いですね」

「そこは、読者とリスナーの皆さんの夢を壊したらいけませんから、テネブルの世界は存在してるんですよ! そして私こそが黒猫テネブルなんです! って言っておきましょう。信じるも信じないもリスナーの皆さん次第です」


「はーい、とっても衝撃的な発言頂きましたが、本当なら夢一杯ですよねぇ。私自身テネブル先生の作品大好きで、特に白いパグのリュミエルや、青い鳩のシエルの心情描写に興味津々です。彼女たちとテネブルは果たしてどこから現れたのか、今後の展開で明らかになって行くのか楽しみです」


 生放送の番組は時間的に終了時刻に近づき〆のコメントへと入る。


「はーい。先生方ありがとうございました。今日はリスナーの皆様にプレゼントとして、来週発売されるテネブル先生の直筆サイン入りの本を二十名様に、フライングバード先生の書下ろし、今日の番組で私が朗読をさせて頂いた短編小説の台本をサイン入りで十名様にプレゼントさせて頂きます。この番組の特設サイトにアクセスして、ご応募くださいね。キーワードは黒猫テネブルが挟まれているのは何? 八文字でお答えください」

「八文字ってなげぇよ!」


「大丈夫! サイトにアクセスしたらちゃんと四択で選ぶだけになってますから」

「八文字意味ないじゃん」


 まぁ、何て言うかとっても疲れたぜ! 最後は思わず突っ込んだけどな……

 番組の後は香織はまだミーティングがあるそうなので、俺は晃子と飛鳥と三人で食事に行く事になった。


「俊樹、ちょっと流石に番組では突っ込まなかったけど、聞きたい事有るんだからね?」


 晃子の笑顔が怖いぜ……

 それに、俺を俊樹って呼んだの、結婚して以来初めてだよな……

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