第2話 爺ちゃんの爺ちゃん?

 名古屋へ戻った俺は、早々に退職の手続きをして大学卒業後二十年を過ごした会社を辞めた。

 勤続二十年で主任にしかなって居なかった俺を引き留める者もおらず、それから一週間程でマンションも解約をして北九州へと戻った。


 大した思い出も残せなかったな……


 一度は結婚して娘も出来たから、まあ悲観することも無いか?

 退職金と失業保険で当分は働かずに暮らせるだろうし、家賃も掛からねぇしな。


 親父の遺産は現金的な物は殆ど無く、葬式費用が赤字にならなかった程度だった。 


 俺の新たな日常は、この家で唯一の趣味と言っていいネットの小説投稿サイトに投稿をする日々だろう。


 贅沢をしなければ、三年くらいは生活も出来るだろう。

 運よく出版まで辿り着ければ印税生活だって夢ではない。


 まぁ俺が小説で商業デビューできる可能性なんて、宝くじに当たる様な確率くらいしか無いだろうけどな?


 ◇◆◇◆ 


 実家の作りは4DKの平屋だ。

 広めの縁側は日当たりもよく、こじんまりした庭は結構親父がまめに手入れしていて悪く無い雰囲気だ。


 敷地の片隅には古い倉庫があって、これは爺ちゃんの爺ちゃん(高祖父)の代から有った建物らしい。


 恐らく築百五十年程は経ってる割にはしっかりした建物だ。


 明治時代の初期の建築物だけど、遺産指定を受ける程の物でも無く、ただ古くて頑丈なだけな倉庫だ。

 中は八畳一間程の板張りで大したものは入ってない。


 俺のバイクを入れる倉庫には使えそうだから、ちょっと整理をするか……

 古い衣服や電化製品等がしまってあったが、今更日の目を見ることも無いし思い切って全部捨ててしまおう。


 骨董的な価値のありそうな物は何もないな。

 まあ親父も爺ちゃんも遊び歩くのが好きだったから財産的な価値のある物なんて無いよな。


 レンタカーショップで軽トラックを借りて来て片っ端から中身を積み込み、がらんとした空間にした。


 古い桐箪笥きりたんすを、動かした所の床がなんだか少し色が違う。

 

「なんだこれ?」


 俺は色の違う床を触ってみた。

 床は横にスライドしてそこには地下へ降りる階段が現れた。


「地下室なんて合ったんだ」


 少なくとも俺が過ごした高校生までの間は、この倉庫の桐箪笥を動かした事など一度も無かったから気付かなかったのも無理はない。


 上から見ても階段の先がどうなってるのかはサッパリ解らなかった。

 一度部屋へ戻り懐中電灯を取り出して倉庫へ戻った。


 階段の先を照らして見るが何かあるようには見えない。


(降りてみるか)


 石造りの階段を足元を照らしながら、一歩ずつ慎重に降りて行った。

 降りた先は真っ暗だが、ある程度の広さはある部屋の様だった。


 懐中電灯で壁を照らしてみると今降りて来た階段を背にして右側、正面、左側にそれぞれ扉が有った。


(どうしようかな。進むべきか辞めるべきか)


 だが、ここでは好奇心が勝利した。

 懐中電灯で床を照らしながら部屋の真ん中まで進むと部屋が急に明るくなった。


 真っ暗の状態から急に明るくなった事で、眩しくて目を閉じてしまった。


 次に目を開けた瞬間そこには人の姿が現れていた。


「だ、誰だ?」

「この部屋に人が訪れるのは、実に百四十七年ぶりだ。儂はお前を知っているが、お前はわしが誰かは解らんじゃろうのぉ」


見た目的には俺と同年代程度か? 雰囲気的にずいぶん昔の人物の様だ。


「わしはお前の高祖父に当たる。儂から見ればお前は玄孫やしゃごじゃの」

「爺ちゃんの爺ちゃんって事か? 生きてるはずは無いよな?」


「何故そう思う? お前の書いてるラノベとか言う本の中では、別に不思議な事でも無かろうに?」

「生きてるのか?」


「いや、わしの存在はこの部屋の中だけでしか実体化できぬからの。生きてるとは言い難い」

「でもこの部屋の中ではいつでもこうやって話せるのか?」


「いつでもと言う訳には行かぬな。この世界では魔素が足らぬから、わしが実体化するには、異世界から魔素を集めて来てもらわねば叶わぬのぅ」

「魔素ってどうやって集めるんだ? てか爺ちゃん名前はなんだ?」


「ご先祖様の名前くらい知っておけ。馬鹿孫が」

「今時高祖父の名前知ってる日本人なんて何人もいないと思うぞ?」


「まぁ良い、総司と言う名じゃ。魔素の集め方はな魔物を狩って魔石を手に入れれば良い。ある程度集めて貰えれば色々俊樹の役に立つようなことも出来るぞ?」

「魔物なんて何処に居るんだ? 現代日本で見た事なんかないぞ?」


「今見えておる三つの扉、どれでもよい俊樹が選べ。選んだ扉によって運命が変わる。どの扉も退屈はせぬぞ」

「ちょっと待て総司爺ちゃん。魔物が居たとして俺、戦い方とか解んねぇし、戦ったことも無いぞ? 武器だって持ってないし」


「この三つの扉の先は、それぞれの世界で生きていくために最低限必要な物が用意してある家の中じゃ。扉を開けたタイミングでお前の姿が決定する。心配せずともここにはいつでも戻って来れるし、姿が変っていてもこの部屋に戻れば元に戻れる。例え死にかけていたとしても、死んでいなければこの部屋で自分の姿に戻れば傷は癒える。どうじゃ簡単そうだろ? 早速行ってこい」

「気軽に言うなあ爺ちゃん。魔石集めたら俺のメリットは?」


「小説のネタになる! じゃ不足か?」

「総司爺ちゃん。もうちょっと俺が生活に困らないようなアイテムにして欲しいぜ」


「まぁ良かろう魔石はわしが責任もって買い取ってやる。それだけの価値はあるでのぅ」

「爺ちゃん現代日本で通用するお金とか、どうにか出来るのか?」


「まぁ騙されたと思て行って見ればよいさ。気に入らなければわしに魔石を渡さねば良いだけだ」

「釈然とはしないが、俺も絶賛ニート生活中だしな小説のネタにでもさせて貰うぜ」


「魔石を持ち帰ったらその足元の魔法陣の中に置けばよい、そろそろ魔力切れだ……頼んだぞ馬鹿孫」


 そう言い残し総司爺ちゃんの姿は消えて行った。

 マジかよ…… これって異世界転移系の小説みたいな世界って事だよな?

 まぁそれなら俺の得意分野かも知れないか?


 伊達にラノベ読み漁ってたわけじゃ無いしな。

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