黒猫な俺の異世界生活とおっさんな俺の現代生活が楽しくてたまらない!

TB

第1話 ニートな俺

『もう終わったの?』

『あー迎えに来てくれ』


『五分で着くわ』

『解った』


五分後に俺を迎えに来たポルシェ992ターボSの運転席から、高級そうな装いを身に纏ったスタイル抜群の女性が降りて来て俺に口付けをした。


「お酒臭いね」

「それなりに飲んだからな。家に戻ってくれ」


「解ったわ」


 ポルシェに乗り込むと、独特のエンジン音を響かせてその場から走り去った。



 その光景を眺めて口をポカーンと開けたまま「マジかよあいつ」と七~八人の飲み会帰りの男女グループがため息の様に呟いた。



 ◇◆◇◆ 



 今日は二十年ぶりに参加する同窓会だ。

 小倉の街のちょっと高級な居酒屋に集まった中学時代の同級生は三十人程だった。


 俺の中学生時代のクラスの同窓会で、クラスの人数が四十人だったから、結構集まりは良い方だよな。


「おい俊樹、きさんなんしよんや?」


 そう声を掛けて来たのは三浦と言う男で、決して機嫌が悪かったり怒っている訳では無い。

 俺が小倉で過していた当時、小倉の街の挨拶は俺の周りでは朝昼晩を問わず「なんしよーん」だった。

 大学進学の時に初めて違う土地に住むようになってから、これは普通じゃないという事を知ったぜ。


 先程の「きさんなんしよんや」と言う言葉は、「あなたはどうやって過ごしているの?」と言う問いかけだ。


 他の街で暮らす人から見れば、綺麗な言葉では決してないが、その街で暮らす中では別に気にならないもんだ。

 

「俺は今ニートだな。家に閉じこもってネット眺めて過ごしてるぞ」

「まじか? いい歳こいてなんしよっとや? まだ先は長いんちゃけ体の動くうちは働けよ? 俺人材派遣系の会社で働いちょーから、その気が有れば連絡して来いや?」


 そう言って、無理やり名刺を渡して来た。

 俺の周りで飲んでいた連中も、俺のニート発言で少し優越感に浸った視線になったのを見逃さなかったぜ。


 まぁ事実だし別に構わないがな。


 同窓会も終わり二次会の誘いも受けたが、ニート発言以降の俺に対する態度が少しムカついたし、帰ることにした。


 そして冒頭のシーンに戻る。


 ◇◆◇◆ 


 さかのぼる事半年程前の事だ。


 梅雨時は、じめじめして気分もちょっと鬱になるぜ……


 俺こと『奥田 俊樹おくだとしき』四十二歳、バツイチ。


 名古屋で自動車関係の部品工場で働いていたが、親父が鬼籍に入り葬式の為に北九州に戻った。


 お袋は俺が大学生の頃に亡くなっていたし、俺には兄弟もおらず親戚も少なく、親父の葬式は寂しいもんだったぜ。


 葬儀場での葬式を終え、実家へ戻って家を眺めていた。

 親父の唯一の兄弟である妹母娘だけが一緒に来ている。


 俺が高校生までを過ごした実家は、祖父の時代からの建物で、築八十年を超える骨とう品だ。

 内装は若干のリフォームがしてあり水回りなどは問題無く使えるが、売りに出しても、建物の撤去費用の方が高くつくような物件だな。


「俊樹兄ちゃん。この家どうするの?」


 そう聞いて来たのは、親父の妹の娘で『相田 香織』従妹だな。

 確か俺より一回り下だったから今年で三十歳か……


「ああ、そうだな。俺も名古屋での生活にも疲れたし、もうそろそろこっちに戻ってきてゆっくりしようと思ってたから、この家で暮らそうと思う」

「そうなんだ。純二伯父さんが生きてる間に帰ってきて上げたらよかったのに……」


「そうだな…… でもそんなに具合が悪くなってたのに、俺には別に連絡もして来なかったしな。一人での生活をそれなりに謳歌してたんだと思うぞ」

「そうなの?」


「母さんが死んでからは『綺麗なお姉ちゃんが居る店に飲みに行っても怒られないとか夢の様な生活だ』ってまじで言ってたからな」

「そうなんだぁ…… 結構イメージと違う所あるんだね」


「俺がさ、離婚してちょっと落ち込んでた時なんか、親父と二人でキャバクラに行った事有るぞ。親父のおごりでな」

「へぇ仲は良かったんだね?」


「まぁな別に喧嘩するような事が無かっただけかもしれないけどな」

「そう言えば俊樹兄ちゃんとこの娘さんってそろそろ高校生くらいなの?」


「ああそうだな。二年生かな? 飛鳥あすかが中学生になってからは一度も連絡も貰った事無いから、今会っても顔も解らないかも知れないな。女の子の成長は想像もつかないからな」

「そっかぁ、晃子さんは再婚したの?」


「どうかな? 連絡とって無いし解んないぜ」

「てかさぁ、離婚の原因は何だったの?」


「俺も良く解んないけど向こうから切り出して来たし、引き止めるだけの情熱が無かったのかな。あいつは売れっ子作家だったし、俺より全然稼いでたからな。そう言う香織はどうなんだ? そろそろ結婚とかしないのか? 由美伯母さんも早く孫の顔が見たがってるだろ?」

「中々居ないのよねぇ、私に贅沢させてくれる様なお金持ちの男って。ここまで頑張って待ったんだから、今更妥協したくないよ。婚活はそれなりにしてるんだけどね」


「そうか、まぁ頑張れよ」

「あと十年後くらいに行き遅れてたら、俊樹兄ちゃんに引き取って貰おうかな?」


「お前は見た目だけは、伯母さん似で綺麗なんだから、頑張ればきっと相手は見つかるさ」

「ふーん、俊樹兄ちゃんは別に喜んではくれないんだね?」


「香織のオムツ替えをした事のある俺にとっては恋愛対象にはならないぜ」

「え? 私のオールヌードをとっくに見てたの?」


「オールヌードって…… 確かに間違いは無いが、何処にもエロさが無いだろ?」

「だって十二歳離れてるんだから、私の裸で股間膨らませたりしてそうだよ? 小六とかメチャ興味持ち始めるころでしょ?」


「馬鹿な事言って無いでもう片付けも終わったし、そろそろ俺も一度名古屋へ戻るから帰れよ」

「解った。こっちで暮らすならたまには食事くらい連れて行ってよね」


「ああ。偶にはな」

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