第35話 ラーニング祭り
俺は静かに盗賊の手下の方に回り込む。
一気にトップスピードまで上げ、手下の一人の首筋を切り裂いて距離を取った。
「あぁ? 何だ。敵襲か? まさかあいつらしくじりやがったのか? 使えねぇ奴らだな」
チェダーさんが、盾を構えて突っ込んで来た。
あと一歩で、もう一人の手下に突っ込むと思った瞬間に、チェダーさんの身体が、姿を消した。
落とし穴だ。
そういや土魔法使いだったな。
完全に敵も臨戦態勢で、チェダーさんが落とし穴に落ちたから、状況は厳しい。
「ケッ馬鹿めが、この落とし穴の中は、竹やりが仕込んである今頃串刺しだ。もう一人の奴も降参して出て来な。素直に言う事聞けば仲間に入れてやってもいいぞ? 俺の力はそこら辺の冒険者など、全く相手にならんからな」
ヤバイ、チェダーさんを失ってしまったら後味が悪い。助かってくれよ。
そう思い落とし穴の中が確認できる場所に移動をしようとした時だった。
落とし穴の中から、剣が回転しながら飛んできて、もう一人の手下の胸に突き刺さった。
「クソッ、何故
盗賊頭はそう言いながら、でかい二つの斧を構え、落とし穴の方に向かった。
俺はそのタイミングを見逃さずに、後ろから回り込み、左腕を狙った。
「馬鹿めが、一度姿を現した相手にこの俺様が油断などする訳なかろう」
俺の背面からの奇襲は、あえなく防がれ、裏拳のような状態で俺の身体よりも巨大な斧が襲い掛かって来た。
とっさに地面を蹴り飛ばし、高く舞い上がったガ、このガンジャーと言う男は俺の動きについて来た。
裏拳状態で振り抜いた斧を、そのままの勢いで俺が飛んだ方向へ投げ飛ばして来た。
俺は空中で一回転して、紙一重で斧を躱す。
完全にガンジャーが俺の方に注意を向けた瞬間に、チェダーさんが無傷で落とし穴から飛び上がって来た。
手下の胸に突き刺さっていた剣を手に取り、ガンジャーに対峙した。俺も真後ろに位置どる。
その時俺の優れた聴覚が風切り音を捉えた。もう一度ジャンプすると、足元をガンジャーが投げた斧が通り過ぎた。
ラーニングが発動した。
【ブーメラン】
武器を投擲した際に、自分の手元に戻って来る。攻撃対象及び障害物に命中した場合は、効力が消える。
斧術で獲得できるスキルなんだろうな?
俺のエッジでも使えるのか?
再び両手に斧を構えたガンジャーが口を開く。
「アサシンJOBの人間かと思えば猫か、すばしっこいはずだ。それならこいつを喰らえ」
再びラーニングした。
【隷属術】
対象を隷属させる事が出来る。
対象者が隷属術を持っている場合は無効化できる。
どうやら、先にラーニングが有効だったようだ。
俺は隷属されなかった。
「クソッ、なんで隷属できねぇんだ……まあ隷属できないなら、ぶっ殺すだけだがな」
チェダーさんが、斬りかかるが斧で弾かれる。
そして両手を広げ回転を始めた。
そのまま竹とんぼの様に舞い上がる。
【ジャイロ】
自らが回転しながら、空中遊泳が可能となる。
但し空中では魔法以外の攻撃方法が使えない。
これはもう一つ来るぞ。
「来たあああ」
使えそうな魔法を始めて手に入れる事が出来たぜ!
【ストーンバレット】
小石を毎秒六十発の速度で打ち出す。
回転しながら
「厄介な攻撃だな……」
盾のないチェダーさんは被弾しながらも、剣をガンジャーに向かって投げつけた。
命中はしたが、激しい回転により弾き飛ばされた。
俺は早速ラーニングしたてのストーンバレッドで狙い撃つ。
ガンジャーと違って俺は回転してないので、毎秒六十発の石つぶてが全てガンジャーに叩きこまれる。
ガンジャーが落下して来る。
その下には自らが掘っていた槍衾の落とし穴が待ち構えて居た。
「グゲェエエエ」と言う叫び声をたてながら全身を竹やりで貫かれて、ガンジャーは倒れた。
「チェダーさん大丈夫?」
と聞いて見たが、当然「ニャンニャニャ」としか聞こえないぜ……
でも、きっと通じたんだろう。
「テネブルありがとうな。俺は大丈夫だ。アダムさんを呼んでくるからちょっと待っててくれ」
恐らく、ガンジャーが死んだことで、隷属術が解けたのであろう女性達が騒がしくなった。
みんな怪我はなさそうだ。
ちょっと服装が殆ど下着のような格好だが……
落とし穴の中で死んでるガンジャーを見ると、腰のあたりに鍵の束をぶら下げていた。
俺は、ガンジャーの上に飛び降り腰から鍵を奪った。
その横には、チェダーさんの盾が有った。
「チェダーさん咄嗟の判断で盾を下向きに構えて、その上に着地したんだな。凄い判断力だぜ」
ガンジャーの死体の上から、盾を収納して上へと飛び上がった。
そのタイミングで丁度アダムさんを連れて、チェダーさんが戻って来たので、落とし穴から回収した盾をチェダーさんに返してあげた。
女性達が口々に助けてと言っているが、先に女性たちを解放するとお宝を探すどころの状態じゃ無くなりそうだから、先に奥の方にある鍵付きの扉に向かった。
俺は口に咥えた鍵の束をアダムさんに渡す。
扉を開けるとかなりの量の宝物が有った。
「テネブルさん、旦那様から、荷物が出たらテネブルさんにお願いするよう言付かっております」
「了解だ」と言ったが「ニャニャン」って聞こえたぜ。
鍵付きの宝箱が何個かあったが、面倒だからそのままインベントリに放り込んで行った。
部屋が空になった事を確認して、女性達の入った牢の前へ行く。
下着姿の女性達が「助けて」と懇願するが、このまま出してこの格好で外歩かせるのってどうなの? と思ったけど、アダムさんが丁寧な物腰で、恥ずかしくない様に出来る限りお守りしながら、お連れしますのでと伝え、ここに捉えられていた八名の女性を連れて外に出た。
俺達に嘘を付いた男の元に行くと、既に木に縛られたままの状態で、鳥型の魔物に両目と内臓をつつかれて、息絶えていた。
俺は、その位置からマリアに念話して、「女性を八名救出したが、恰好が下着だけなんだ。強盗が出たあたりまで八名分の服を持って来てくれないか?」
と頼んだ。
「了解、サンチェスさんに伝えて、直ぐに服を用意して貰って迎えに行くね」
「リュミエルに背中に乗せて貰えば早いからね」
「解ったよ頼んでみるね」
そして俺達が二十分を掛けて街道まで戻ると既にマリアとリュミエルが二人で待っていた。
草むらに入って女性達に服を着てもらい街へと向かう。
口々にお礼を言って来るが、この先彼女達ってどうなるんだろうな?
少し街に向かって歩いていると、サンチェスさんが差し向けた、搭乗用の馬車が来たので助かったよ。
体力の落ちた女性達を歩かすのは厳しかったからね。
全員で乗り込んで漸く一息ついた。
それから四十分ほどで最初の街バルバロッサに到着した。
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