第36話 子爵家にて

 俺はチェダーさんと共に盗賊の本拠地で、盗賊のお頭との戦闘を経て無事に盗賊達のお宝も手に入れて街へと戻った。


 結構な数の人間を今までに殺してしまっているが、人間ではレベルが上がらない様だ。

 恐らく魔石を所持してない事が理由だろうね?

 でももし人間でもレベルが上がるとかになると、辻斬りだらけになってカオスな展開になるから少し安心したぜ。


 サンチェスさんが取った宿は結構高級な宿でお風呂もあった。

 サンチェスさんは、お風呂場を貸し切りにしてくれていたので、保護した女性達をサンチェスさんの女性従者とマリアが協力して身ぎれいになって貰った。


 女性達はみんな十代半ばから二十代半ば頃までの年齢で人属四人、獣人二人、エルフ二人の内訳だった。

 全員が街道で襲われて拉致されたそうだ。


 その時に一緒に居た旅の連れの人は、みんな殺されてしまったと言っていた。

 本当に理不尽な世界だな……


 サンチェスさんは、この後、助け出した貴族令嬢の実家である、この街の子爵家に呼ばれていて、その時に手助けをした『ラビットホーン』のメンバーとマリア、俺、リュミエルも一緒に呼ばれていた。


 従者の人達と助け出した女性達は、この宿で食事をするように伝えて馬車に乗り込み子爵家へと向かった。

 

 門の前に着くと門番が丁寧に頭を下げ俺達を迎え入れた。

 屋敷の前には先程戦闘をしていた騎士たちが四人揃って並び、その奥に馬車の中に居たであろう十歳くらいの女の子とその専属侍女らしき人と、髭を生やした威厳のありそうなナイスミドルな感じの男性、いかにも奥様と言った装いの優しそうな表情をした三十歳前後の女性が立っていた。


「私が当子爵家の当主アンソニー・フォン・バルバロッサです。この度は我が娘アリサの窮地を救って頂き大変ありがとうございました。今日は心ばかりの宴をご用意しておりますので、お寛ぎください」


 とても貴族とは思えないような、丁寧な挨拶をしてくれた。

 助け出した女の子は本当にお人形の様な可愛い女の子だった。


「助けてくれてありがとうございます」


 って、丁寧にお礼も言って来た。

 きっと親の教育が良いんだろうね!


「これはご丁寧に痛み入ります。私はファンダリアの街で商業ギルドのマスターをしておりますサンチェスと申します。私共は王都へと向かう旅の途中でして、街道に巣くう盗賊どもは私達の仲間の為にも許すわけにもいかないので手助けをしたまででございます。お嬢様にお怪我が無い様で本当に良かったと思っております」


「おお、ファンダリアの商業ギルドのマスターだったのですか。それは知り合いに成れたことを大変喜ばしく思います。どうぞお気楽にしていかれて下さい」

「子爵様はバルバロッサの姓を名乗られているという事は、ここのご領主様の血縁という事でございましょうか?」


「その通りです。父がこの街の領主の伯爵で私は次男です。しかし商業ギルドのマスターともなられますと、流石に護衛の方々も精鋭ぞろいでなんですね。うちの騎士たちもそんなに弱くは無いはずなんですが、それを窮地に追い込んだ盗賊どもを、苦も無く撃退するとは素晴らしいですな」

「ファンダリアの街の優秀な冒険者達です。今後もこの街に来ることもあるでしょうから、その時はよろしくお願いいたします」


 一人ずつにちゃんと握手をしながら、お礼を言っていた。

 中々出来た人のようだね。


 俺とリュミエルは流石に屋敷の中には入れないので、門の外で待つ事になった。

 まぁしょうが無いな……


 でも騎士のリーダーの人が話し掛けて来た。


「本当は誰が一番強かったのか俺はちゃんと判ってるからな。ありがとうニャンコとワンコ」


 そう言いながら、俺とリュミエルの頭をなでてくれた。

 俺は「ニャァ」って返事しておいたぜ。

 リュミエルは、舌を出して尻尾を振りながら「ハァハァ」していた。


 なんか、日本での香織とイメージ違いすぎだろ?


 途中でマリアが俺達を気にして、ごちそうを取り分けて持って来てくれたぜ。


「ありがとうマリア」

「本当はあなた達が一番活躍したのに、ゴメンネ」って俺に謝って来た。


「大丈夫だよマリア、俺とリュミエルは猫と犬だから気にしなくていいよ」


 と言って、お皿に入った御馳走をガツガツ食ったぜ。

 中々日本で人間の姿だと、この態勢で皿に顔突っ込んでご飯食べるとか経験できないから、ある意味新鮮だよな?


 俺がリュミエルの食べる姿を眺めていると「なんか恥ずかしいから見ないで!」って言われたぜ。


 ◇◆◇◆ 


 屋敷の中ではサンチェスさんと、子爵の会話が行われていた。


「それでは、盗賊団は壊滅させて捕らわれていた女性達も保護しているという事ですか?」

「そうですな、盗賊団のため込んだ宝物も預かっております。被害者の遺族の方に正しい方法で戻して頂けるようにお願いできますか?」


「あなたは……言わなければそのまま自分の物に出来るのに、何故それを私に報告されたのですか?」

「子爵様なら盗賊のため込んだものを正しく活用して頂けると私が思いましたので」


「もし私が、その宝を自分の為に利用したとしたら?」

「それは私の見る目が無かっただけでございます。今は宿の方に置いてありますので、明日出立前にお届けに上がります。助け出した女性達もその時に連れて参りますので後の事はよろしくお願いします」


「分かりました。この国の法にのっとり被害者への返済を行い、それによって上がった利益に関しては王都からお戻りになる際にお立ち寄りくだされば、お渡しいたしましょう。女性達に関しては本人たちの希望を聞き、出来る限り希望を叶えてあげようと思います」

「よろしくお願いします」


 ◇◆◇◆ 


「マリア、テネブルとリュミエルだっけ? あの猫と犬はどうやって仲間にしたんだ? マリアの回復魔法も凄いけど、あの二匹のペットの強さっておかしく無いか?」

「えーと……私がEランクだった時にCランクパーティのジョニー達のパーティに騙されて山賊に売られちゃった時に、何故か助けてくれたんです……テネブルが。それからそのまま一緒に居てくれて、リュミエルはテネブルの彼女? なのかな??」


「え? 猫の彼女が犬なのか? それおかしく無いか? ってそれよりもマリアは運が良いって言うか、そんな出会いであんな凄い猫が従魔になるとか羨ましいぜ。まじで俺達のパーティに入ってくれないか?」

「えっと、それはテネブルに聞かなきゃ分からないって言うか、私は取りあえず人間だから、私がテネブルを連れているような感じですけど、本当は私の方がテネブルに連れて歩いて貰ってるだけだから……」


「あーそうなんだな……なんとなく分かる気がする。ん? って言うかマリアってもしかして、テネブル達と話せるのか?」

「あ、はい。話せます。普通に人の言葉で会話できますよ。念話だけど。後テネブルもリュミエルも私達の言葉はちゃんと理解できてますので……」


「そうなんだな。道理で動きが的確だと思ったぜ。これからは俺達もテネブルは人間と同じだと思って接するよ。気に入って貰えれば一緒に行動してくれるかもしれないしな」

「よろしくお願いしますねチェダーさん」


 ◇◆◇◆ 


 子爵の家での晩餐を終えて、宿へと戻った俺達はサンチェスさんからも労いの言葉を貰い、それぞれの部屋へと入り就寝をする事になった。


「マリア、テネブル、私は明日まで一度家に戻るね」

「ああ、気を付けて行って来るんだぞ。車は好きに使って良いからな」


「リュミエル、気を付けてね元気で帰って来てよ」

「大丈夫だって! テネブルも車助かるよ、じゃぁ行って来るね」


 そう言って香織は転移門を広げて日本へと戻って行った。

 明日はどんな冒険があるのかな?

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