第77話 山賊討伐完了

 イザベラは迷わず氷魔法の最上級魔法であるアブソリュート0絶対零度を発動する。


「ラーニング出来なかった…… 最上級は確率も低いのかな?」


 辺りはどんどん気温が下がり、落とし穴に流れ込んだ毒の水も全て凍り付いていた。

 俺とリュミエルは毛皮を着てるから大丈夫だけど、マリアはぶるぶる震えだした。


「リュミエル巨大化して、マリアを包み込め」

「了解」


 リュミエルが全長三メートルほどになりマリアを包み込む。

 イザベラがここで初めて武器を取り出した。


「生粋の魔術師かと思ったら、違ったんだね」

「そうだな、だがイザベラの体格であんなデカい槍を使うなんて意外だな」


 イザベラが取り出したのは全長四メートルにも達する長槍だった。

 槍の反対側には真っ赤な魔石が嵌ってる。


「あの魔石は、火属性の魔石だよね? 氷使いのイザベラさんはどう使うんだろ?」

「うん。気になるけど今は黙って見守ろうぜ」


 それに対して、グラーゴは緑と白色の2つの刃を取り出した。

 双剣使いだ。

 風と光の属性を持つ剣だ。

 どちらの属性も、敏捷に大幅な補正が加わる、速度特化型のスタイルだろう。


 グラーゴが先手を取ってイザベラに怒涛の攻撃を仕掛ける。

 イザベラは、長槍を器用に扱い、グラーゴの攻撃を受け止める。


 凍り付いた空間の中で、灼熱の魔石を装着した槍を振り回すと、大量の水蒸気が発生していた。

 グラーゴの風の刃が水蒸気を吹き飛ばしながら、更にイザベラを追い詰める。

 イザベラは槍を振るいながら、ダイアモンドダストを唱えた。


『ラーニング成功だぜ』


 キラキラと輝く氷の結晶が、グラーゴを切り刻むが、グラーゴも光の刃から「サンシャイン」と言う光魔法を発動した。

 氷の結晶の中で、乱反射をしながらイザベラに襲い掛かる。


 どっちも、結構な深手を負ったようだが、次の一手はイザベラだった。

 サンシャインの攻撃で全身を貫かれながらも、グラーゴの関節を後ろ手に決めると、凍らせた毒の池に槍の柄を突っ込んだ。


 一気に猛毒を含んだ水蒸気が舞い上がる。

 イザベラは顔をグラーゴの背中に押し付け呼吸を防ぐが、関節を決められたグラーゴは、そのまま毒の蒸気を吸い込んだ。


 勝負ありだな。


「マリア、キュアを発動しろハイヒールもだ」

「テネブル解ったよ」


「リュミエルは風魔法で蒸気を吹き飛ばせ」

「了解」


俺は息を止めてグラーゴの側に駆け寄り、反撃出来ない様に双剣を収納した。

イザベラはマリアのハイヒールで全身の傷が瞬く間に塞がった。


「グラーゴ、かつて同じパーティで過した友としてお前を見送ってやる」


 すでに自らの仕掛けた毒は、ダイアモンドダストで切り裂かれた全身から吸い込まれていて、結局一言も発する事無く、グラーゴは息を引き取った。


「何も聞けなかったか……」

「マスターは、グラーゴに目的があったと思ってたんですか?」


「解らない、だが奴をここまで変えてしまった根底にあるのは、人身の売買を合法化させるような、悪しき習慣があった事だと思っている」

「奴隷制度や人身売買は無くすことが出来るんですか?」


「国の制度を変えさせるのは、時間は掛かるだろうが私はそれに取り組みたいと思う。きっと叶うはずだ」


「マリア、俺達の世界でも昔は奴隷制度があったらしいけど、今は世界中で表立っての奴隷取引は禁止されているから、強い意志があれば出来るはずだぞ?」

「へぇ、テネブルの世界は凄いんだね」


 俺達は一軒だけ残った中央の建物に向かうと、そこには十人程の未成年とみられる女性達と、かなりの量の金貨が有った。


 部屋自体は金属製の板で内側が覆って有ったが、別段牢屋にもなっておらず、女性達の健康状態もよさそうで、衣服も普通の衣服を身に付けていた。


「あの……グラーゴ様は死んでしまったのですか?」


 女の子達の代表格の子が口を開いた。


「ああ、山賊としてファンダリアギルドが討伐をした」


 その言葉を聞くと、女の子達のすすり泣く声が聞こえて来た。


「グラーゴはあなた達に酷い事はしなかったのか?」

「はい、大事にして頂いていました」


「あなた達以外の者はどうなったのだ?」

「希望をする土地へ連れていかれて、解放されていたはずです」


「いったいどういう事だ?」

「グラーゴ様は他の山賊の人達はみんな過去に過ちを犯して行く当てのないやつらだからここで面倒を見ているが、本当にやり直す気持ちのあるやつらは、みんな他の国でやり直せるようにしてやるんだ。っていつも仰ってました、ただし期待を裏切ったり再び犯罪を犯せば俺が直接出向いて、首をはねるぞって言ってましたけど」


 何だかよく意味が分からないと思ったが、その話を聞いている時にシエルから念話が入った。


『冒険者の人達が山賊の集団を、全員捕まえちゃったよ』

『そうか、けが人とかは出なかったか?』


『山賊たちも取り囲まれたら全員武器を捨てて降参したから、両方けが人は出ていないよ』


 俺はマリアを通じて、今の報告をイザベラへ伝えた。


「一度全員をこの拠点へ連れてくるように伝えてくれ」

「了解、俺がひとっ走り言って来る」


 そうマリアに伝えさせて、俺はシエルに念話で場所を聞きながらチェダーさん達の元に走った。

 到着してから思ったが「俺が来ても話伝わらねぇじゃん!」必死でチェダーさんに「山賊のアジトにみんなで移動してくれ」って身振り手振りで伝えた。


「ウニャニャニャアニャア」って長めのセリフになったぜ。

 ちょっと時間は掛かったけど、何とか伝わって、総勢百五十人のメンバーで山賊の拠点まで戻った。


 シエルは、俺の頭の上にとまって、一緒に戻った。


「テネブル、山賊のお頭って倒したの?」

「俺は見てただけだがな」


「そうなんだ。でも結局今回はテネブルは人を殺さないで済んだから、私はちょっと嬉しいかな」

「俺はシエルが怪我をしなかった事が一番うれしいぞ」


「ありがとうパパ」


 こうして山賊討伐は当初の予定よりは全然スムーズに一日で決着を見せた。

 山賊たちは寛大な措置が取られ、森を貫く通商路の工事に付く事を条件に、通商路開通後も森の魔物から商人や旅人を守る護衛任務を斡旋して貰える話が進んだ。

 当然反対の意見も出たが、実際一般人はこの山賊から被害にあった者が一人も存在せず、逆に人さらい達から違法奴隷を買い上げて、解放をしていた活動が明らかになり、森に入ってからの罪状としては精々、辺境伯領の不当占拠くらいしか無かったのだ。


 ただ全員がこの森に辿り着くまでは犯罪者で、それなりに指名手配など掛かっている人間の集まりだったのだがイザベラが責任を持って「我が友が与えた更生の機会を私が引き継ぐ。ただし裏切れば私自らが首を刎ねる」と伝えた。


 捕らわれていた女の子達も、通商路開通工事に携わる元山賊や工事の人達の、食事の世話や洗濯をする下働きをしたいと言って来たので、山賊の拠点があった場所に、工事用の小さな村落が出来る事になった。


 工事資金には、グラーゴが貯め込んでいたお金も使われる事になり、当初の予定よりも大人数で取り組む工事となった。

 因みにグラーゴが貯め込んでいた金貨も、主な出どころは森の魔物を狩った素材の売買による物で、犯罪者だった山賊たちは国内では売る手段が無かったので、森を抜けて獣人国で売りさばいて貯えていたそうだ。


 ファンダリアに戻るとアルザス先生も無事に王都の自宅とファンダリアの屋敷を転移門で繋ぐ事が出来、仙桃を持って戻って来ていた。


 これで俺達の商売と、王都から先への冒険も一気に進みそうだな。

 その日はマリアの家に泊まって、おっぱい枕で眠りについたぜ。

 シエルはリュミエル用の小屋に一緒に入ってリュミエルの上で休んでた。


 森の高レベルの魔物を大量に狩ったから、俺のレベルも70に届きシエルも一気に25まで上がった。

 リュミエルは45、マリアのレベルも33になった。

 次はチュールちゃんと薬草づくりの時間が欲しいかな。

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