第89話 博多の夜

「奥田、これは三台ともレンタルナンバーでの登録って言う事で良いのか?」

「そうだな、そう言えばレンタカーって『わ』しか取れないのか?」


「ああ、法律上は『わ』と『れ』が使って良い文字なんだが、運輸局が採用しているのは『れ』は北海道と沖縄だけだな」

「そうなのか。パッと見でレンタカーって解ると借りた方としてはちょっと寂しい感じするよな。特にかっこつけたい時は」


「まぁ決まって無いと乗り逃げ盗難が多発してしまうと思うぞ?」

「それもそうか」


「具体的にレンタカーショップをやるとして、場所とか決まってるのか?」

「そうだな。国道三号沿いに三百坪のでかい倉庫買ったから、そこで構わないだろ?」


「マジで凄いなお前。奥田が直接やるわけじゃないんだろ?」

「そうだな、信用できる人材に任せようと思ってる」


「それも当てはあるのか?」

「まだ本人には頼んでないけど、きっと受けてくれると思うし、香織の伝手でも人手は何とかなると思うよ」


「俊樹兄ちゃん? 昨日言ってたなんでも屋さんの事?」

「そうだな、俺には鮎川以外こっちに伝手は無いしな」


「じゃぁ赤城先生経由で、少し話を持ち掛けてみるね」

「ああ、頼んだぞ」


「なんか、パパ凄いね」

「飛鳥に凄いって言われるとマジで嬉しいぜ」


「今日は青木さんと飲むんでしょ? 私は飛鳥ちゃんとレンジローバーでドライブ楽しみながら帰るね」

「ああ頼んだぞ。気をつけてな」


 香織と飛鳥を見送った俺は、鮎川に電話をしてみた。

「奥田君。赤城先生から連絡があってすぐこっちに見えられて、無事に契約は終わったよ」

「そうか、お疲れ様。明日の朝は時間大丈夫か?」


「奥田君の用事なら、他の用事は全部断るよ」

「ありがたいけど、ちょっと重いぞ? 明日は取り敢えず支払いと、また鮎川に頼みたい事が出来たんだけど、あ、鮎川今日はこの後時間取れるか?」


「うん大丈夫だよ」

「それならさ、新幹線で博多に来てくれよ。ちょっと話したい事も有るし」


「うんいいよ二時間くらいはかかるよ?」

「むしろ丁度いいぜ」


 俺は鮎川との電話を終えると、青木の店の女性スタッフにランボルギーニを手に入れる手段があるのかを確認した。

 やっぱりランボルギーニだとシザードアが良いからそれだけを条件に探して貰った。


 本当に欲しいのは子供の頃の憧れだったカウンタックだけど「カウンタックはもう部品が手に入らないから、レンタル使用を考えるなら、無理です」

 と言い切られちゃった。


 そうだな完全に趣味で乗る人じゃ無いと維持なんか出来ないよなカウンタックは。

 結局少し安くて部品が手に入りにくい物より、新しい車の方が維持費が安く済むから、お薦めです。


 との口車に乗せられて、八年落ちのアヴェンタドールを三千万で買う事にした。

 東京での飛鳥とのデートの時に借りた車だな。


「おい奥田、総額で今日の追加購入分だけで一億だぞ? 俺は嬉しいばっかりだが、マジでいいのか?」

「今更だ、俺は人生を思いっ切り楽しむって決めたからな」


「まぁ奥田がそう言うなら、構わんけど」

「今日のお前の歓迎会だが、俺は女性を一人呼んだから、もう一人誰か居ないか? バランス悪いだろ?」


「ちょっと待っててくれ、今アヴェンダドール売りつけた子に聞いて来るよ」


 いかにも高級車売ってますな雰囲気を持った中々の美人さんだったな。


「OKだ奥田、十九時までの営業だから、それからでいいか?」

「それでいいぞ、俺はその時間まで暇つぶしに行くから、お前の車貸してくれよ」


「ああ解った。俺のって言うか支店長用の営業車なんだけどな」


 そう言って渡された鍵は、AMG SLSクラスのガルウイングの車だった。


「こいつもすげぇな。迫力が半端ない」

「だろ? AMGは玉数が結構多いから、新車価格を比べたら買い得なモデルが多いんだぞ」


「そうなんだな。次はベンツも考えとくよ」

「楽しみにしてるよ」


 俺はAMGに乗って、博多の街を一通り流してみた。

 やっぱり勢いのある街感が半端ないな。

 何て言うか、小倉と空気が違うと思った。


 しかし、この二か月程で俺の生活は激変しちまったな。

 会社辞めるきっかけを作ってくれた親父に感謝だ。


 次に戻って来たら丁度四十九日だし、飛鳥と香織を連れて墓参りに行こう。

 葬式の時に納骨まで済ませちゃったから、今更四十九日と言っても特別する事も無いんだけどな。


 明日の昼からは一度マリアの所に顔を出して、ビューティショップ関連の経過と、冴羽に頼まれた帝国の勇者召喚の件での探りを入れる必要があるな。


 ちょっと急ぎだから飛鳥にひとっ飛び帝国まで飛んで貰おうかな。

 転移門を使えば俺達もすぐに乗り込めるしな。


 十八時前には鮎川が博多駅に到着したのでAMGでピックアップして、近場のカフェで時間を潰した。


「奥田君。今日も凄い車乗ってるね。私をわざわざ呼んだのは単純にデートにさそってくれた訳じゃ無いよね? その方が私は嬉しいけど」

「おっと結構ぐいぐい来るな。ほら、あそこの倉庫でさ、高級車専門のレンタカーショップやろうと思って、鮎川に責任者引き受けてもらえたらな? とか考えたわけだ。俺は小倉に居ない事も多いし、基本的に仕事したくないけど、鮎川は仕事嫌いじゃないだろ?」


「えぇ? そんな仕事、私やった事無いし大丈夫かな?」 

「面倒な事は全部今日会って貰った赤城先生経由で、人を集めるから出来る範囲の事だけやってくれればいいさ」


「そうなんだ、高級車って奥田君が乗ってるようなレベルの車を貸すんだよね?」

「そうだな」


「魅力的ね。出来るかどうかは解らないけどやってみたいわ」

「そうか、話が早くて助かるぜ。車の仕入れ先のメインになる奴と今から食事に行くから鮎川も付き合ってくれ。今日はそいつの博多への赴任祝いなんだ」


「あら、そうだったのね。そんな席に呼んでくれるとか、結構大事に思われてる?」

「俺は自慢じゃ無いが友達少ないからな。こっち帰って来ても鮎川以外の同級生達に連絡してない程度にな」


「そうなの? 結構友達多いイメージだったけど」

「俺が仲良かった連中は、みんな大学から東京や大阪へ行ったきり帰って来てないからな。地元に残ってるやつで連絡を取りたいと思ってるやつがいないんだ」


「そうだったんだ」

「そろそろ主役を迎えに行くかな」


 そう言って青木のショップへ戻り車を返すと、青木と受付の木村さんと言う女性を伴いタクシーで中洲へと繰り出した。


「「「かんぱーい」」」

「青木、昇格おめでとう。これから長い付き合いになりそうだからよろしく頼むな」


「支店長、私もよろしくお願いしますね。初日から一億越えの契約取るとか凄いですね。一瞬で虜になっちゃいましたよ」

「あーそれは俺の実力じゃない。奥田の理不尽な現金の暴力に屈した結果だ」


「青木、その表現だと俺が悪い事したみたいじゃ無いか」

「青木さん初めまして、奥田君の同級生で、しがない不動産屋の鮎川です」


「あー鮎川さんが奥田の言ってた、信用できる人って事なのかな? 同級生って聞いてたけど、めちゃくちゃ若くて綺麗じゃないですか。よろしくお願いしますね」

「流石営業マンは口がうまいわね。騙されないわよ?」


「青木さんが連れて来た女性の方の方がよっぽど若くて綺麗じゃ無いですか」

「彼女は、今日俺のアシストで奥田にダメ押しで三千万のランボルギーニ売ったから、そのご褒美招待ですよ」


「私は支店長も奥田さんも直球ど真ん中ストライクですよ。是非誘ってくださいね。いつでもOKですから」

「おいおい随分積極的だな。そんなんじゃ簡単に襲われちゃうぞ?」


「奥田さんや支店長がものに出来るなら、逆に私が襲っちゃいますよ」

「凄いな博多の子はみんなこんなノリなのか?」


「そんな訳無いじゃないですか。私がこんな事言うのもお金持ちな渋い人限定ですから。同年代の男の子なんかと付き合うと絶対何年かしたら若い女に逃げちゃいますから、特にお金持ってると。流石に十歳以上、上だとそのリスクは回避しやすいって言う綿密なリサーチの結果です!」

「そうなんだね、はっきり言われると悪い気はしないのが不思議だ」


「はい、それもリサーチの結果です」

「青木はこれから鮎川と関わる事も多くなると思うから、仲良くしてくれよ」


「お前に言われなくてもこっちから、ぐいぐい行きたくなる程、俺の好みのタイプですよ鮎川さんは」

「お、鮎川もててるぞ」


「ちょっといい気分ね。これからよろしくお願いしますね青木さん」

「こちらこそ」


 その日は大いに盛り上がって日付が変わるまで四人で中洲の街を遊び歩いた。

 お開きになった後はちゃんと木村さんも青木も別々のタクシーに放り込んだぞ。


 俺は鮎川と一緒に、長浜市場の側でラーメンを食べて、そのままタクシーで小倉まで一緒に戻った。

 この流れで博多に泊まると、理性的にヤバそうだったからな。


 タクシーの中で鮎川に小声で「意気地なし」って言われたけど聞こえない振りしたぜ。

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