第79話 不穏な情報

 ファンキーなアロハシャツとバミューダパンツの装いから普段の魔法使いの格好に着替えて来たアルザス先生が戻って来たのでサンチェスさんと三人で転移門をくぐると、王都のアルザス先生のお屋敷へと移動した。


「おお、一瞬で王都へ来れるなど、これはまさに画期的な事じゃな。この門はテネブルが用意した物なのか?」

「サンチェス、この門を用意して来たのは確かにテネブルじゃが、作ったのは賢者オキタ様だという事じゃから、あまりり大っぴらには出来ぬ理由も察してくれ。テネブルもサンチェスが使う分には駄目と言わぬが他の者には秘密で頼むぞ」


「うむ、解った。わしは少しだけ王都の商業ギルドで次回のオークションの件を話して置きたいが、それは構わぬか?」

「行って来るが良い。わしはここでテネブルと少し話しながら待っておるでな」


 サンチェスさんが、王都の自分のお店と商業ギルドで用事を済ませてくる間に、俺はアルザス先生と、隣の錬金工房を買って、チュールちゃんが錬金術師の修業を始める事にしたことを伝え、チュールちゃんが困った時には相談に乗ってあげて欲しい事等を頼んでおいた。

「マリアとチュールちゃんがお隣さんであれば、わしも安心じゃな。後はオキタ様と一刻も早くお話が出来る様になり、失われた古代魔術エンシェントマジックを復活させて、魔法史に名を刻みたいものじゃ」

「アルザス先生ならきっと出来ますよ。俺がアルザス先生に聞いて置きたいのは、他の三人の勇者パーティのメンバーとは面識があったんですか?」


「ああ、挨拶だけはした事が有るが、親しく会話をした訳ではない。わしが先程着ておったアロハはタカスギ殿がオキタ様に土産で買って来たものを、恥ずかしくて着れないと言って、わしに下さった物じゃ」

「そうなんだ、あんな身軽な格好が好みだったら、言ってくれれば用意するからね。今度ファッション雑誌でも持ってきておくね」


「それは楽しみじゃな。他の三人なんじゃが、タカスギ殿は東の倭の国に子孫の方がいらっしゃるぞ。勇者サカモト殿は隣の帝国の皇帝家の始祖じゃから、現在の皇帝は、サカモト様のひ孫になるな。大魔導師キヨカワ殿はケモミミに取り付かれたお方じゃったから、獣人国に色々と足跡を残されておる様じゃが、子孫の話は聞いた事が無い」

「そう言えば、賢者ソウシって子孫はいないの?」


「オキタ様は血縁者はいらっしゃらないが、帝国の建国には随分協力なされていたようじゃから、帝国へ行けばこの国よりも多くの勇者様たちの足跡を見れる筈じゃ」

「ここから帝国へはずっと平地で続いてるんだよね?」


「そうじゃな。マリアがBランクであれば護衛任務を受けて行けば、問題無く入国出来るはずじゃ」

「それなら、今度は帝国に一度行って見たいな。前にアルザス先生が勇者パーティーが魔神の封印に向かったって言ってたじゃ無いですか?」


「ああ、確かにそう言ったのぅ」

「魔王じゃ無くて魔神なんですね?」


「魔王は魔国の王の事じゃから今も普通に存在しておるな、帝国とはずっと戦争を続けておるが、種族が違うだけで有って世界の脅威と言うのとはちと違うんじゃ」

「魔神と言うのは?」


「主に魔国で崇められておる神じゃな。魔神が存在していると魔族は加護の力でその力を倍以上に発揮する事が出来るのじゃが、その為には大勢の生贄を捧げる必要がある。現在の帝国と魔国の争いも、もし魔神が復活すれば帝国を含めた魔国以外の国は、かなり厳しくなる」

「あの? 魔神の加護を受けれるのは魔族だけなの?」


「いや…… 種族関係なく忠誠を誓い生贄を毎年捧げれば加護は得られる。生贄の生命力の強さがそのまま加護の大きさに関わるから、不幸な事件が後を絶たず殺伐とした状況になるのじゃ、魔国以外では魔神崇拝は禁忌とされておる」

「魔神は倒されたわけじゃ無くて勇者たちに封印されているだけなの?」


「そうじゃ、しかし封印は二百年しか持たぬ。帝国では再び勇者を召喚して魔神の新たな封印を行う準備を進めておる、それを阻止したい魔国との争いが激化してるのじゃ」

「え? それってもう召喚されてるって事なの??」


「その通りじゃ。しかし育つまでにはまだ時間がかかるはずじゃ」

「どんな勇者なんだろ? 当然先代って言うか、前の勇者パーティと同じ世界から来てるんだよね?」


「わしも召還に関しては詳しい事は解っておらぬのじゃ。エルフと人族、獣人族、ドワーフの国王家にそれぞれ伝わる宝具が必要で各王家が集まって召還の儀式を行う事になっておるのじゃが、勇者サカモト殿が帝国を起こした時に、この王国に伝わっていた聖剣宝具『ラグナロク』がそのまま帝国に引き継がれて、この国からは今回の召喚に関しては、帝国からの通達があっただけなのじゃ」


 めっちゃ気になる情報を聞いちゃったよ。

 これは流石に爺ちゃんに確認取らなきゃ、俺の対処出来る範囲を超えてるな。


「爺ちゃんが今、魔法金属を集めたりしているのは、何かの伏線があるのかな?」


「どうじゃろうな? オキタ様は自分たちの世代で果たせなかった、魔神の討伐を行いたいと思っているのかも知れぬ」

「えーと……魔神に対抗する神様っていないのかな?」


「この国や帝国が国教にしている聖教教会の主神ベノーラ様が記される、アカシックレコードを読み解けば倒せるはずじゃとはオキタ様は仰っておられたが、その為には世界中に存在するダンジョンの踏破が必要になる」

「何で、そんな面倒な手段を取ったんだろ? 今の魔神が封印されてる間にアカシックレコードを開示したら、倒せるんじゃないの?」


「それは、わしにも解らん。オキタ様ならもしかしたら何か気付いていらっしゃるのかも知れないが」


 結構色々な核心に触れる話を聞けたけど、どうやら俺達の存在は、新たな勇者パーティとは違うイレギュラーな存在の様だ。

 俺達以外に現れる勇者が、果たしてどんな存在なのか非常に興味深いけど、俺のやるべきことは何なんだろう? まさか勇者たちの活躍を文章にして伝えるのが役割だったりしてな?


 そんな事を思っていたら、サンチェスさんも戻って来たので、次回納品分の注文を書いた紙を渡された。

 結構な量になるけど、腕時計のきらびやかな宝飾物を求める注文なんかも有ったから、俺は詳しく無いし、香織にちょっと頑張って貰うかな?


 それから俺達はファンダリアへと戻り、明日に控えたビューティーサロンの様子を見た。

 サンチェスさんが「この様子なら明日の開店が楽しみじゃな」と頷いていた。

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