第12話 金貸しざまぁ
「シスターミザリー、今はこの孤児院の土地と建物は誰の名義になってるのかな?」
「母の名義です」
「そうか、キャロルちょっとこの書類にサインをしてくれ」
そう言ってサンチェスさんは古い煤けた様な書類を差し出して来た。
「どういう事だい?」
「なに金貸しの連中に此処は俺の土地と建物だって事にして俺が対応してやる。人の土地の話に口を出せばなんか言うやつも出て来るが、俺の土地なら問題無いからな」
「それで古臭い紙にしたんだね」
「そう言う事だ」
ママが書類にサインをして、ここの土地建物は法律上は二十年も前からサンチェスさんの物だった事になった。
「ミザリー、お金を借りた時の証文はあるかい?」
「はい、持って来ます」
「ああ、これは最初から騙す気満々の証文だな。今ここに書かれている文字の殆どが魔法のインクで書かれていて、一週間以上経つと文字として浮かび上がる物だ。今は法律が改正されてこのインクで書かれた証文は無効だとはっきりと王都でも決められている」
「今後もうお金を借りることは無いだろうけど、空白の多い書類はサインをしたら駄目だよ?」
「はい、申し訳ありません」
「それでも金を借りた事は事実だから、元金と法定内の利息はきちんと払いなさい。遅れてる様だから遅延損害金を合わせると百五十万ゴールド程の計算になるな」
「あの……恥ずかしながらそんなお金を私は持って無いんです」
そうシスターが言った時に、門の方が騒がしくなって金貸しの連中がやって来た。
「さぁここの建物は明け渡して貰おう。ガキとババアはさっさと出て行かせてそこの乳のでかい女とシスターはここに作る買収宿で働いて貰うからな。昨日の時点では借金の合計は千五百万ゴールドだったが今日はさらに複利と俺らの出張費で増えて千六百万ゴールドだ。さっさと払うか出て行け」
金貸しの連中がニヤニヤしながら、こことシスターを手に入れたつもりで居た。
「お前たちは何の根拠で私の土地を寄越せだなんだと騒いでおるのだ」
「誰だ? お前は」
「ここの地主のサンチェスと言う者だが?」
そう言った時にはいつの間にか、馬車からサンチェスさんの護衛であろう、強そうな男たちが四人降りて来ていて、サンチェスさんの後ろに控えていた。
「馬鹿な事を言うな。ここはこのババアと娘が昔からやってる孤児院だとこっちは知ってるぞ? 言い掛かりは寿命を縮めるぞジジイ」
「馬鹿な事を言ってるのはお前らの方だ。大体金貸しは商業ギルドの許可証がないと出来ないのは常識だ。非合法の金貸しには返す理由も存在せんな」
「なんだとこっちには証文もちゃんとあるんだ、どんな法が有るのか知らないが、個人が善意でお金を貸して、それが証文に約束された内容なら違法では無い筈だ」
「確かに商売でなく個人の善意で貸したのであればお前らの言い分は正しいな。しかし証文が違法の物だった場合は話は別だがな。商売で無いと言い張れるのは、対象者が三人以下の場合だと国が定めておるし、もしそれがバレた場合はお前らは捕まるし当然貸した事実も無効になる。お前らがこの街の百人以上の人に対して法外な利息で貸し付けてるのはとっくに調べておる」
「あーもう面倒臭いな。もういい。この土地がジジイの物だって言い張るなら土地もどうでもいい。そこの女二人だけ売り飛ばせば元は取れるからそれで勘弁してやる。お前らその女二人をさっさと捕まえて売り飛ばしに行くぞ」
「往生際が悪いな。それで引かないならしょうがない。証文は見させて貰ったが、国が違法と定めた魔法インクで書かれた詐欺の道具だと判明しておるから、お前達を捕まえて突き出せばお前らは犯罪奴隷として鉱山送りだがそれで構わないんだな」
「本当に面倒くさいジジイだな。取り敢えずこいつらをぶちのめして女だけは攫え」
金貸しの親玉がそう言った瞬間に、護衛の四人はサンチェスさんとアルザス先生を庇う様に立ち塞がった。
分が悪いと思った金貸し連中は、マリアとシスターに向かって来たが、ミスリルエッジを咥えた俺が立ちはだかり、マリアの手に触れた瞬間に、俺は金貸し達の手を切り飛ばした。
六人いた金貸し達全員の手を切り飛ばした所で、サンチェスさんが口を開いた。
「今のは私が証言するが、この女性達を守ろうとした、正当防衛だから自業自得だな。シスターミザリー私は商売を守る立場の人間として、たとえ違法であっても借りたものは返さないといけないと思っておる。私が計算した正当な返済額は今すぐ払いなさい。百万ゴールドの元金に対して五十万ゴールドの利息が法定内の上限ですから、それだけを払いなさい」
「あ、あの……」とシスターが言い出した時に、マリアが百五十万ゴールドをポンとシスターに手渡した。
「それで払ってシスター」
金貸し達は切り飛ばされた腕を抑えてのたうち回ってる。
「おいお前ら金は返したんだ。さっさと帰って治療しないと死んでも知らんぞ?」
「おい助けろ。助けてくれ。死にたくない」
「ほう。腕がないままの治療なら一人五万ゴールドだ。腕があったほうが良いなら一人五十万ゴールドで治療してやろう」
そう申し出たのはアルザス先生だった。
この爺ちゃんもなかなかやるな。
「わしの治療は普通だと一人百万ゴールドじゃから格安だぞ?」
「解った、それで構わないから治してくれ」
「後でごねられても困るから先払いじゃ」
「今はこの百五十万ゴールドしかない」
「じゃぁ三人だけじゃな」
そう言いながら先に下っ端の方から三人治療した。
「何で俺から治さないんだ」
「お前から治すと後の三人の事は知らんと言い出しそうだからな」
「おい、直ぐにアジトから金を持ってこい百五十万ゴールドだ」
治療された三人は慌てて走って消えて行った。
サンチェスさんが金貸しに「金を払ったのにまだ証文を貰って無いな早く寄越しなさい」と意識が朦朧としてきている金貸しに追い打ちをかけている。
「そろそろ死んでしまいそうだから、まだ金は届いて無いが先に治療だけしてやろうか? 但し証文をちゃんとこっちに渡してからだがな」
アルザス先生の一声で漸く証文を渡してきた。
約束通りに残りの三人を治療してやると。その場から三人が逃げ出そうとする。
「言い忘れておったが金を払わんと明日にはその腕は又離れて血が噴き出すぞ?」
「そんな魔法があるもんか、適当な事を言うなジジイ」
「信用せずに死ぬのはお前の勝手じゃわしはどっちでもいい」
金貸し達は逃げ帰ったが、五分後に金を持って現れて、きちんと残りの百五十万ゴールドを持ってきた。
びびってたんだな!
「なんじゃ持ってきたのか? お前らの予想が当りじゃったのに、そんな便利な魔法があるなら覚えたいぞ」
だが俺には解る。
このアルザスって爺ちゃん本当に明日になったら腕が取れる治療してたんだ。
だって……ラーニングしちゃったよ、あいつらが金払った時にアルザス先生が解いた魔法。
『魔法消去』:発動者が他の魔法と同時に使った場合、指定した時間で魔法が無効化される。
発動前であれば術者がキャンセルできる
何で最初に覚えた魔法が、こんな使い道無い魔法なんだよ!
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