第64話 編集さん

 俺は朝まで掛けて小説を書きあげたり写真のラミネート加工をしたりでそれなりに忙しく過ごした。


 感想もちょっと期間が開いてたもんだから凄い数がたまってた。

 

『テネブル先生いつも楽しく拝見しております。クラーケンってイカの魔物の事じゃ無いんですか? ちょっと違和感を感じたので』 しまだ

『あの世界ではタコの魔物なんです。呼び名に関してはこの世界の常識を無理に当てはめる必要も無いので、向こうの呼び名のまんまですねぇ』 テネブル


『ヌルヌルのイラストがちょっとグロいんですけど、作者様の個人的な趣味ですか?結構、マニアックですね! でもドストライクです!』 狸穴

『共感頂いて嬉しく思います! 私的にも直球ど真ん中です』 テネブル


『チュールちゃんの着替えシーンのイラスト希望です。後、脱いだパンツの匂いの描写とか無いんですか?』 イエスロリータ出来ればタッチも

『かなり人として駄目な方向性に進んでらっしゃいますね! でも嫌いじゃないです』 テネブル


『スクロールって簡単には手に入らないんですか? お金稼げるならすぐ色々手に入りそうですけど?』 iida634

『王都で調べたいとは思ってますけど、まだ盗賊の宝箱以外からは見て無いですね!』 テネブル


『いつも楽しく拝見してます。特に感想欄を。最近ちょっと感想の返信が少なくて寂しいです』 わんちゃん

『ちょっとネタを仕入れに出かけてたので!王都遠いですから!!』 テネブル


『テネブル先生ってまさか本当にあっち行って来てますか?』 じゅん

『少なくとも執筆中は完全に魂が向こうの世界にある前提で書いています』 テネブル



 他にも沢山の感想があるけど、俺が本当に行って来てるのでは? 的な夢のある意見も結構増えて来たな。

 やっぱり読者的にも、ファンタジー世界って存在して欲しい願望でもあるのかな? まぁあるんだけどな!


「香織おはよう」

「おはよう俊樹兄ちゃん。もう行くの?」


「ああ、一睡もして無いからこのまま新幹線の中で寝ながら行く事にした」

「そうなんだ。気を付けてね。駅まで送って行くね」


「ありがとう。助かる」

「でも俊樹兄ちゃんさ、どんどん見た目若返ってるよね?」


「そうか? まぁレベルアップの恩恵は少なからずあるだろうしな。爺ちゃんだって五十五歳には全然見えないだろ?」

「そうだね、私も効果出てるかな?」


「香織は元々綺麗だったし、解り難いよな」

「ありがとう」


 なんか香織がちょっと顔を赤くしてたけど、別にお世辞で言ってる訳じゃないのは確かなんだけどな。


 992で駅まで送ってもらうと、早朝の新幹線は自由席でも十分に空席が有ったので早速シートを倒して眠りについた。


 元が貧乏性だから一人の時なんかは、お金があるからグリーン車でって感覚にならないのが小市民だよな。


 四時間程経過して目が覚めると既に静岡を過ぎていた。

 スマホでラインをチェックしていると青木から連絡が入っていた。


『車いいのあったか?』

『勿論だ最高のSUV用意したぞ』


『お? どんなのだ?』

『レンジローバーだ。最新型のロングホイールベース で SVAUTOBIOGRAPHY5リッターⅤ8スーパーチャージドで565 PSのを選んだ』


『凄そうだな、値段も』

『まぁな否定はしない。フルオプションで三千四百万程だが、予算気にするなって言ったから、俺の理想形でオプション組んでみたぞ』


『遠慮無しだな。だがそれで構わない。納車楽しみにしてるぜ』

『ナンバーの希望はあるか?』


『そうだな一桁ナンバーが取れたら頼む』

『任せろ』


 青木とのラインでのやり取りが終わるころには東京駅に到着した。

 出版社の杉下さんに連絡をした。


「今東京駅で、ここからタクシーで向かいます」

「了解しました。晃子先生はお昼過ぎに見えられるご予定ですから、午前中はガッツリ打ち合わせできますね」


「ってもう十時過ぎてますけどね」


 出版社に到着して、会社の受付に行くと予想してたより全然こじんまりしてて、ちょっと意外だった。

 結構有名な出版社だと思ってたんだけどな?


「会社思ったより小さいって思いませんでしたか? 初めまして杉下です」

「あ、よく言われるんですか? 初めまして、奥田です」


 杉下さんから名刺を貰うと、「中、結構散らかってますから、外でコーヒーでも飲みながらお話ししましょう」と言って、ビルの一階に入っている喫茶店へと移動した。


 席に着くと早速杉下さんが話し始めた。


「先生の作品なんですがはっきり言って、文章だけだとかなり改稿をお願いする部分があるのは確かなんですが、それを補って余りある要素がありますから、ぶっちゃけて売れるか売れないかの話であれば確実に売れます」

「いきなり厳しいご意見ですね。改稿はやっぱり必要ですか?」


「いや、誤字脱字と句読点の推敲だけして頂ければこのまま行こうと思ってます」

「随分大雑把ですけど大丈夫ですか?」


「こちら側からの提案は、とにかく強い部分を目立たせる! ですね。ちょっと簡単なレイアウトを作ってみました」


 そう言って出されたレイアウトは、俺の小説を縦書き修正して、見開きで右側文章、左側イラストの状態で一冊全て仕上げて、新書版よりも一回り大きな四六版と呼ばれるサイズで、一巻の文字数を九万文字程に削減して作ると言う話だった。


 通常このサイズで発行される小説は十五~二十万文字程の内容になるという事なので、かなり特殊な感じだ。


「私としては全然異存はないですけど、どういう風にしたらいいですか?」

「先生の作品が現状一話二千文字で二つのイラストで構成されていますが、先程の案だと二千文字に対して三枚のイラストが必要になりますので、それをご用意する事は可能ですか?」


「十分対応できます」

「先生、あのイラストは写真のイラスト化加工ですよね?」


「おっしゃる通りです」

「どこであんなシチュエーションの写真が撮れるのですか? 参考までにお教えいただけると嬉しいですが?」


「それは内緒ですね。私の強みはそこだけですから」

「まぁそうでしょうね、簡単に教えて頂けるとは思っておりませんでした。通常ですと挿絵のイラストレーターに支払う報酬などの経費が掛かりますし、ラノベ作家さんのデビュー当初の印税は五~八パーセントの間になるんですが、先生の場合ですと十パーセントを最初の段階で約束しましょう。かなり破格な条件ですが、それだけ私達にも売れる確信がありますから」


「ありがとうございます。私の方は異存はないので具体的に何をすれば良いかを教えて頂きますか?」


 それから二時間ほどの間に大体の必要な事を教えて頂き『一に推敲二に推敲三四も推敲五に推敲』と言うありがたいお言葉を頂いて、杉下さんとの初回ミーティングを終えた。


 この出版社から出されている売れている作品、売れなくて続刊が出せなかった作品などを目の前に並べられて説明されると納得せざるを得ない意見も沢山あったので、俺としては収穫の多い時間だった。

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