第33話 一騒動

 昼食後も順調に魔物を倒しながら街道を進んで行った。

 馬車の中には女性従業員が二人とマリア、マリボさん、マーブルさん、サンチェスさんだけだ。

 他の男性従業員は荷馬車の方に座っている。

 

 サンチェスさんと、マリアが話していた。


「マリア、今回の王都行きでは他にも私がまだ見て無いような商品があるのかい?」

「はい、商品に関してはテネブルより、このリュミエルの方が詳しいみたいですよ? 特に女性に向けた商品では」


「ほーそうなのかそれは楽しみじゃな、リュミエルもよろしく頼むぞ」

と声を掛けてくれたサンチェスさんに対して、「解りました、女性用品なら任せて下さい」と返事をしたけど、当然そこに聞こえる音は「ワゥウバウバウアォ」だった。

 

 マリアはテネブルに頼まれた写真を、馬車の客室の窓から撮っていた。


「マリア? さっきから何をしてるんじゃ?」

「えーとテネブルに頼まれてこの魔導具で絵を切り取っています」


「絵を切り取る? 意味が良く解らないな。少し見せて貰っても良いか?」

「えーとボタンが沢山あるから触らないで下さいね? 私も解らなくなっちゃうから」


 そう言いながらカメラをサンチェスさんに見せたけど、ボタンを触らないでって言って有るから良く解らなかったみたいだ。

「不思議な魔導具じゃな? どうやって使うのじゃ」

「サンチェスさんの写真を一枚撮りますね」


 そう言ってサンチェスさんを撮影して、背面の液晶で見せてあげると、サンチェスさんが驚いた。

「凄いなこんなに詳細な絵が一瞬で描けるとは、これは売り物では無いのか?」

「テネブルに聞かないと解りませんけど違うと思います」


「そうか、残念じゃな。しかしそんな珍しい物は、王都で貴族などには見せない様に気を付けなさいよ。貴族どもは平気で理不尽な事を言い出すからな」

「はい。気を付けます」


「マリアちゃん……」

「どうしたの? リュミエル」


「それね……フラグだよ……」

「ぇ? 何? フラグってどう意味なの」


「言った言葉が、悪い出来事として起こる可能性って言う感じかな?」

「ええ、そんなの困るよ。どうしたらいいの?」


「目立たないようにするしか無いよ。今日は私は次の街に付いたら、一度戻るからね」

「え? リュミエル戻るってファンダリアに?」


「いえ、自分の家にかな」

「戻って来れるの?」


「それは大丈夫だけど、方法とかは教えられないから気にしないでね?」

「そんなの……気にするなって言う方が無理じゃない?」


「マリアちゃん、今回はシスターも居ないし、お化粧の方法を広めるためにはマリアちゃんとサンチェスさんの所の女の人に覚えて貰わないといけないから、ここで練習しながら行きましょう」

「そうだね。よろしくねリュミエル先生」


 それから馬車の中では念話でリュミエルがマリアに伝えながら、鏡を一枚出して女性従業員二人とのお化粧教室が始まった。

 今回はネイルまで説明したけど、綺麗に塗り重ねた付け爪を張るだけの形で案内したから、簡単だったよ。


 美しく変身した女性従業員たちは大喜びしていたよ。

 サンチェスさんも目を見張っていたから、きっと上手くいくよね?


「マリアちゃん? お化粧はリュミエルに習いながらしているのかい?」

「はい、そうです」


「リュミエルも凄いんだね」

「女性の嗜みです」と言ったけど、聞こえるのは「バウワンワン」だった。


 でも褒められた時のリュミエルは短い尻尾が左右に大きく揺れながら、舌を出して「ハァハァ」言ってるから、喜んでるのがとってもわかりやすい。


 ◇◆◇◆ 


 一方の俺は相変わらず街道沿いに現れる魔物の気配を察知しては、とどめを刺して、インベントリに放り込む作業を続けてる。

 すでに六十匹を超えていた。


 街までは後一時間と言った所でちょっと高級そうな馬車が路肩に停まっているのが見えた。

 チェダーさんとゴーダさんの表情が硬くなり隊列を止め、サンチェスさんへと話をしに行った。


「恐らく強盗です。相手の人数が解りませんがどうしましょうか?」

「そうじゃな、ラビットホーンとマリア達で切り抜けられそうか?」


「人数次第ですが、十名程度なら困る事は無いかと思います」

「そうか、あの馬車の人員も心配じゃから、悪いが見て来て貰えるか? どうせこっちから見えてる以上は、向こうからも見られているからな。引き返したとしても危険には変わりがない」


「了解です。まずうちのパーティで出ます。マリア達はサンチェスさんの護衛をしかっりと頼むぞ」

「解りました」


「あれ? テネブルは?」


 俺は既に草むらを走り、止められた馬車の側まで来ていた。

 子猫が走っていても強盗達が気に留めたりしないだろうしね!


 すると、馬車は馬の脚が斬られて死んでいて、剣戟の音が聞こえていた。

 馬車の中の気配を探ると、人の気配が二人分はある。

 まだ生きてる様だ。


 恐らく護衛が戦っているのだろう。

 俺は、剣戟のする方へと近寄る。


 五人の盗賊と二人の騎士らしき人物が戦っていた。

 既に地面に倒れ伏せている人数も盗賊側が六人、騎士側も二人倒れていた。


 戦っている騎士の息は荒い。

 この調子では、後五人の盗賊の方が優勢だな。

 でも状況的に間違は無いだろうけど、貴族が平民の男たちを襲っているだけの可能性も無いとは言えないから、手助けは話を聞けてからかな?


 念話でマリアに話しかける。


『馬車の中の人を先に保護して。後、リュミエルにこっちに来るように伝えて』


 俺とリュミエルが遠距離通話できる念話器を渡して無かった……


 チェダーさん達のパーティが先にこっちに走り寄って来ていて、その後を大型化したパグが凄い勢いで走って来る。

 でかいパグって迫力あるんだな……

 初めて知ったぜ。


 マリアがサンチェスさんに伝えたようで、男性従業員たちが停車している馬車に向かっている。


 俺は騎士さんが危なかったら飛び出そうと準備してたが、飛び出す前に先にチェダーさん達が辿り着いた。


「俺達は冒険者です。相手は強盗で間違いありませんか? それと助は必要ですか?」

 と叫んだ。


「そうだ。済まないが頼む」と騎士の人から声が掛かって五人の強盗達を取り囲むように展開した。

 マリボさんが魔法を唱え、マーブルさんが弓を番える。

 チェダーさんが大きめの盾を構えて、突入してその後ろをゴーダさんが、死角になるような感じで、追走する。


 へー流石Bランクパーティだな。

 突如現れた救援に強盗達はちょっと動きが止まったが、切り抜けるしか無いので騎士への攻撃が一層激しくなって、一人の騎士が斬り付けられその場に倒れた。


 その時ゴーダさんが、チェダーさんの後ろから飛び出し騎士を斬った一人を倒した。

 それとほぼ同時に、マリボさんとマーブルさんからの攻撃もそれぞれ一人ずつを倒し、残った二人にチェダーさんが大型の盾を構えたまま突っ込んだ。

 そのままの勢いで、残った二人を押し倒した。


 チェダーさんたちも想像以上に強いかも。

 その時になって凄い勢いでリュミエルも突っ込んで来たけど、既に相手は居なかった……


 と思ったが甘く無かった。

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