第55話 船上が戦場で洗浄が大変

「サンチェスさん大丈夫ですか?」

「わしは大丈夫じゃ、『ラビットホーン』とマリア達は済まんが船長さんの指示に従って協力してやって貰えるかな?」


「「はい、了解しました」」


 まだ事態は飲み込めて無いまま、サンチェスさんの指示に従い船長室へと急いだ。

 すでに乗客の冒険者や船員が集合していた。


「クラーケンが現れました。現在はまだ船体には取りつかれていませんが、まっすぐにこちらに向かってきています。はっきり言ってこれだけの人数で何とかなる相手とも思えませんが、このままではほかの乗客たちも私たちも、飲み込まれてしまうだけです。冒険者の皆様方に撃退をお頼みしたいのですがお引き受けいただけますか?」

 チェダーさんが「俺達は護衛任務の途中だから、護衛対象を守るためならどんな敵でも相手にするぜ」と勇ましく発言した。


 筋が通ってて恰好いいなと思った。

 クラーケンってどんなのだろうと思って、俺はマリアの胸から降りて、甲板へと向かった。


「でっけえなぁ」


 この世界でのクラーケンと呼ばれる魔物は巨大なタコだった。

 見た目では恐らく船と変わらないサイズだから百メートルくらいはあるだろう。


 こんなのに船を抱え込まれたら簡単に沈没しそうだよ。

 さらによく見ると、クラーケンは巨大なクジラと争っていた。


 このクジラも全長は六十メートルくらいありそうだ。

 

 こんなでかいの、どうやって討伐するんだ?

 そう思いながら見ていると他の冒険者も甲板に上がって来た。


「チェダーさん、この中ではあんたが一番ランクが高い。指示を頼む」

「解った。相手が相手だけに直接攻撃では殆ど効果が望めない。魔法を発動できるものは何人いる?」


 チェダーさんの問いかけに手を上げたのは、十六人の冒険者のうちの五人だけだった。


「厳しいな。だがやらなければあいつがこっちに来てしまうと、全員生きては戻れない。やってやるぞ」

「「「おお」」」


 結構ヤバい状況だけど、チェダーさんは達観した様に冒険者たちに檄を飛ばし、鼓舞した。


「おい、テネブル。はっきり言ってかなりヤバい。何とかならないか?」


 そう小声でチェダーさんにささやかれたが、子猫サイズの俺に百メートルのタコって厳しくないか?


「がんばる」とは返事しておいたぜ。

 当然「ニャア」としか聞こえないけどな!


「マリア、雷魔法は発動できるか?」

「うん、大丈夫サンダースピアって言うのが使えるから」


「恐らく弱点は目の周りに集中してる筈だから、その辺りを集中して狙ってくれ、他の遠距離攻撃が出来る人達にも、チェダーさんに伝えて攻撃指示を頼むな」

「解った、テネブルはどうするの?」


「俺は、襲い掛かって来る足を何とかする」


 クラーケンと争っていたクジラが力尽きたようで、姿が見えなくなった。

 すると当然の様にさらに大きな獲物に見えるであろう、この船にまっすぐに向かって来た。


 うわぁ。メチャ気持ち悪いな。

 でもこれって美少女がぬめぬめにされたりして襲われるのがお約束っぽいような気もするよな? って不埒な妄想が頭をよぎった。


 意外にこの状況になっても、余裕があるな俺。


 船の側まで来たタイミングでチェダーさんの指示が出て、一斉にクラーケンの顔の中心部分に攻撃が始まった。

 全く効いて無い訳では無さそうだけど、勢いは止まらず船に吸盤がびっしり張り付いた脚が伸びて来る。


 魔法を使えないメンバーで、なんとか伸びてきた足に斬り付けるが、歯が立たない様だ。

 俺は、ミスリルエッジに氷を纏って、伸びて来た足に斬り付けた。


「スパン」五メートルほどの長さで切り飛ばした足の断面は凍り付いて船の上に転がった。

「テネブル凄い!」 マリアが大声で喜んだ。


「マリア、よそ見するな。脚は八本もあるんだぞ」


 俺の声がフラグになった様に、他の脚が一本伸びてきてマリアに絡みついて来る。


「クソッ距離が遠いぜ」


 必死でマリアの元へ駆け寄るが、脚の先で器用にマリアを巻き付け大きく持ち上げた。

 チェダーさんとゴーダさんが必死でマリアを掴んだ脚に斬り付けるが、べとべとのの粘液に阻まれて、満足に攻撃が届かない、それどころか脚の粘液が甲板上に飛び散って、ローションプレーの危ない乱交パーティでもしてるみたいな状況だ。


 冒険者たちは全員ぬるぬるで立ち上がる事も出来ずに、船の上で滑りまくってる。

 何人かが必死でロープで自分の身体を船の策に固定し始めた。

 俺はようやくマリアを捉えた脚に辿り着き今度は十メートルくらいの根元の位置を斬り飛ばした。


 マリアは何とか解放されたけど、これは人に見せられない姿だな。

 全身ネチョネチョで服はぴったりと張り付き、なんか相当ヤバイ感じだ。


「マリア、水魔法で洗い流せ。恐らく今のマリアの魔法の威力じゃ、こいつにとどめはさせないから、みんなが動けるように、サポートと回復に徹してくれ

「うん解ったテネブル」


 俺はその後も何故か女性ばかりを狙い絡みつこうとするタコの脚を、一本ずつ斬り飛ばして行く。

 八本目の脚を斬り飛ばし、どうやって止めを刺そうか迷ってた時だった。

 突き出した口の様に見える器官から、真黒な墨を盛大に吐きかけて来た。


 「やばい視界が遮られた」


 それと同時に、クラーケンの頭部分は、水中に逃げ込もうとした。


「逃げてくれるなら、その方が助かる」


 そう思ったけど、その時やられたと思ってた、でかいクジラが水中からまっすぐ飛び出して来て、ほぼ頭だけになってた、クラーケンを「バクッ」と一気に飲み込んだ。


 そのままクジラが離れて行き空高く潮を噴き上げた。

 お礼言ってるのかな?


 何はともあれ船上の危機は過ぎ去った。

 それと同時に波も穏やかになって行き、残されたのはクラーケンの巨大な脚が八本だ。

 長さはバラバラだが結構な量はある。


「これ食べれるのかな?」


 そう思って鑑定してみると「加熱すれば大丈夫」と表示された。

 今度たこ焼きパーティでもしよう! と思いながらインベントリに収納した。


「皆さんありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 船長さんを先頭に、船員さん達がみんな並んでお礼を言ってくれた。

 代表して、チェダーさんが返事をする。


「当然のことをしたまでです。殆どテネブルが一人で片づけてくれたから、俺らはただ見てただけです」

「チェダーそれは違うぞ、俺達はローションプレーを楽しんだだけだ」

 

 そう堂々と言い放ったゴーダさんの頭を、マリボさんとマーブルさんの二人が思いっきり叩いていた。


 サンチェスさん達も上がってきて、みんなの無事を喜び、その日は船長のおごりで盛大なパーティとなった。


 マリボさん達が俺の活躍を大げさにサンチェスさんに伝えて、サンチェスさんから声を掛けられた。


「テネブル、お前は何でそんなに強いんじゃ? まるで伝説に伝え聞く剣聖の様な強さじゃな」


 マリアに通訳して貰いながら返事をする。


「剣聖さんってもしかして賢者と一緒に居た人ですか?」

「そうじゃ剣聖『晋作』殿だ。今は子孫の方が東方の島国にいらっしゃるはずじゃ」


 ふーん、なんだか少し目的のヒントに辿り着いたのか?


 あ、そう言えばせっかくの今の戦闘シーンって写真撮れたのか?

 マリアに確認してみた。


「回復と洗浄を始めてからのは少し撮ってるよ。鯨さんとか」


 うーん、一番欲しいのはネチョネチョマリアだったが、しょうが無いな!

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