第56話 チュールちゃんの潜在能力
クラーケンが消え去って以降は、それまでの大時化が嘘の様に穏やかな海面となった。
翌朝を迎えてマリアとチュールちゃんと一緒に朝食に向かった。
食堂に行くとサンチェスさんが『ラビットホーン』のメンバーと何かを話してた。
俺はちょっと気になったので、マリアに聞いて貰おうと思って、みんなで朝の挨拶をしに行った。
「サンチェスさん、ラビットホーンの皆さん、おはようございます。朝から何の話で盛り上がってるんですか?」
「おはようマリア、テネブルとチュールちゃんもおはよう。話題は当然テネブルとマリアだよ」
「実際問題として、テネブルがマリアの従魔である以上、マリアの実力はBランクの俺達の実力よりも、数段上のレベルにあるって事を話してたんだ」
「そんな、私なんて『ラビットホーン』の皆さんに比べたら、全然だめですから比べないでください」
「マリアちゃん? テイマーって言うのは従魔が言う事を聞いてくれる以上は、従魔の実力がテイマーさんの実力なんだから、謙遜する事は何も無いんだよ?」
「あ、マーブルさん。それなら尚更です。うちのパーティって言うか私はテネブルが私の言う事を聞いてくれるんじゃ無くて、私がテネブルの言う事を聞いて動いてるだけですから」
「……そ、そうなんだね。でも冒険者ギルド的にどう判断するんだろうね? 昨日のクラーケンなんかは、単独でAランクの魔物だし、実際それを殆どテネブル一人で倒しちゃってるから、テネブルの実力って既にAランクを超えてSランクの領域なんだよね。それを使役してるマリアちゃんのランクがCって言う訳にはいかないと思うよ?」
「そうじゃの、わしもテネブル君にはそれだけの実力があると思う。マリアが自信を持ってテネブルと共に冒険者として表舞台に出る事を望めば、すぐにでもAランクの推薦状は出せるがの」
「あの、テネブルが質問があるみたいなんですけど……」
「ん? なんじゃ?」
「Aランクに私がなったとして、それはCランクの今の現状と何が変わって来るんですか?」
「そうじゃな、まずBランク以上だと冒険者として国外で活動できることは知っておるな?」
「はい」
「Aランクになると、騎士爵の爵位を持つものと同等の扱いを受けれるようになり、国外に出ても賓客扱いになる。冒険者ギルド内でも当然扱いは別格だ。ギルドに納品するときの買取価格は二割増しになり、逆にギルドから物を買う時には二割引きになる」
「デメリットは無いんですか?」
「基本的には無いが指名依頼が増えてしまうから、断りにくい依頼なども入ってくることかの」
「そうなんですね。じゃぁBランクで止めておくのが一番自由なのかな?」
「え? 上がれても上がらないって事? 私達なんかAランクに上がれることを夢見て、ずっと頑張ってるのに……」
「あ、決して魅力が無い訳じゃ無くて、私は冒険者の仕事も好きだけど、孤児院の子供達を育てて行く事がもっと大事な事なんです。だからある程度自由が利く立場が良いなと思ってて」
「ふむ、じゃがそれはシスターがちゃんとやってくれるのではないか?」
「勿論そうなんですけど、チュールちゃんの件でも思ったけど、親を亡くした子供達って国中に沢山いるじゃないですか? その中で一生懸命生きて勉強もしたいって言う頑張ってる子供達には手を差し伸べてあげれる制度を希望の里だけじゃなくて、全国的に広げて行けるような活動をしたいんです」
「なんかマリアって凄いこと考えてるんだね」
「あの……今のも私なんて何を目標にして、何をすればいいのか全く分かって無かったんですけど、テネブルがアドバイスしてくれたんです」
「そうなんだ……テネブルって猫だけど、うちのゴーダなんかよりよっぽど人格が出来てるよね。ゴーダ何てやらしいことしか考えて無いからね」
「あ、テネブルも結構おっぱい大好きですよ?」
「へーそーなんだ。じゃぁ私のおっぱい揉み放題で、私の従魔にならないかな?」
「あ、なんか却下だそうです。求めるサイズにちょっと不足してるそうです」
「失礼だね……」
焦ってランクを上げる必要もないけど、ギルドとの取引価格はチョット魅力なのかな?
◇◆◇◆
朝食を終えてマリアとチュールちゃんの三人で船室でゆっくりしていた。
「チュールちゃんは、今いくつだっけ?」
「十三歳です」
「え? 精々十歳くらいだと思ってたよ」
「凄い年下にみられることが多いんですよぉ」
「ちょっと憤慨してる様で、折れた耳がパタパタ動いていた」
かわいすぎるぜ……
「チュールちゃんは自分の才能は解ってるのかな?」
「え? 才能ですか? 私まだ成人の儀とかやって無いですからそう言うのはよくわかんないです」
「ねぇマリア。今はマリアは自分のステータスなんかは見れるんだよね?」
「うん、解るよ」
「それってさ、成人の儀を済まさないと見えない物なの」
「そうだよ成人の儀の時に一人ずつに身分証が渡されてそれを手にしたら見えるようになるんだよ」
「そうなんだ」
「もしかして、テネブルってチュールちゃんのステータスまで見えてたりするの?」
「うん」
「それって凄い事だよ。鑑定スキルを持ってるサンチェスさんのような人でも、人物鑑定は出来ないはずだから」
「そうなんだね、魔物の弱点なんかも普通は見えないの?」
「そっちはね鑑定じゃ無くて、シーカー系の能力で看破って言うのが有って、それだと把握できるみたいだよ? ゴーダさんなんかだと持ってると思うよ?」
「へー、ゴーダさんだと、その能力で女性のバストサイズとか看破してそうだね」
「出来るのかな? 何か本当にしてそうだね……」
「それはそれとしてチュールちゃんね、恐らく薬師になれるよ」
「本当? それって凄い事だよ。職業は適正が見えてからみんな決めるんだけど、本当は早くから修業を始めればそれだけ能力が伸びるんだって。例えば薬師の子供だから薬師の適性があるのかと言えば、それは全く運次第で他の職業の適性がある事の方が多いって聞いたよ」
「そうなんだ、じゃぁ代々職業を引き継ぐ人って少ないの?」
「それはね、さっきの話に関係するけど、子供の頃って結局家の仕事を手伝う事が多いから後天的にその職業の適性が芽生えてたりして、成人の儀の時には元々なのか後から身に付いた能力なのか解らないんだよね」
「うーん、何か問題があるの?」
「そうだね、先天的なスキルの方がより上位の能力を覚えやすいらしいとは聞いた事があるけど」
なるほどなぁ、でもこの世界ではJOBシステムは今のところ見かけないし、それに代わるものが恐らく称号なんだよな。
チュールちゃんには『癒し手』と言う称号と、スキルには錬金と調合が有るから正しく学べば立派な薬師に育ってくれる筈だ。
王都でアルザス先生に学び方を聞いて見たいな。
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