第81話 ビューティサロンの開店とシエルの戦闘

 俺達は、いよいよ翌朝に迫った美容室の開店に合わせて、孤児院の女の子達を連れて、町中の花売りの女の子達から、花を買い占めて店の入り口を飾り立てた。


「リュミエルこのお店の解放式の窓なんだけどさガラスをはめ込んだらもっとお洒落に見えないかな?」

「私も思ってたけど、鏡が千五百万もするんだったら、ショーウインドウのガラスなんて一体どれだけの価値になるのか想像もつかないから辞めておいた方が良いかな? って思ったの」


「ああ、確かにな壁一面のショーウインドウなんてこの世界じゃ三億くらいの価値になりそうだ」

「でも、オープン前のお店の雰囲気って心がワクワクするよな」


「そうだね、テネブルももう少ししたら、小説やラジオデビューでワクワクできるよ!」

「いや……それは心臓がバクバクしかしないぜ」


「明日はオープンを見届けたら、お昼には戻りたいね」

「ああそうだな。俺も小説の推敲とかで結構忙しくなりそうだしな」


「あ、テネブル、少しだけ狩りに行きたいけど良いかな?」

「そうだったな。すっかり忘れてたぜ。リュミエルはお化粧の方をもう少し見てやっててくれ。俺は、シエルと一緒に西門出た辺りの、初級の魔物を少し狩ってみるよ」


「シエル、いくら弱い敵でも魔物なんだから気を付けなさいよ?」

「はーい」


 俺はシエルと二人で、西門から出かけて薬草畑の横を通り抜けて、魔物の気配がある草むらへと向かった。


「シエル、武器の使い方は大丈夫か?」

「うん。練習したんだよ!」


 そう言って首を上に振り上げるとくちばしで、笛をがっちりと咥えた。

 ワイルドラットLV4に向かって圧縮空気を打ち出す。

 切れ味の無い、風属性攻撃の様な感じかな?

 中々微妙な武器だなと思ったが、命中した瞬間にワイルドラットがばたりと倒れた。

「え? 今の攻撃のどこにそんな威力がったんだ?」

「えーとね、私少しだけ、空飛びながら練習してたんだけど、この笛から飛び出す空気は私のレベル×100gの空気を圧縮して打ち出すみたいなの。今だと2.5㎏の空気の塊を直径5㎜サイズで打ち出して、私視力と運がメチャ高いでしょ鼻の孔とか目とか狙っちゃうと、ほぼクリティカルになって顔の内部で圧縮された空気が一気に広がる感じみたいだね」


「えぇ、それってメチャ凄いじゃん。空気の2.5㎏ってほぼ2.5立方メートルだから、そんなの頭の中で一気に膨張したら、脳みそなんかぐっちゃり潰れそうだな」

「私もちょっとチートかな? って思ってた」


「射程はどうなんだ?」

「それもね、LV×一メートルで伸びてるみたいだね。最初はどうしようもないと思ってたけど。今だと十分使えるよ」


「透明化と合わせて使えば最強のアサシンになりそうだな」

「状態異常もね、今睡眠と、混乱を使えるようになってるから、これを攻撃に乗せて飛ばせるみたいだね」


「属性を手に入れたら無敵っぽいな。どの属性がいいかな?」

「それもね、私なりに考えてみたんだけど、空気は質量が少ないから土属性で足りない質量を補えないかな? って思うんだよね」


「シエルって俺より全然考えてるなぁ。でも出来るだけ怪我をしない事を第一に行動してくれよ?」

「大丈夫だよ。もう少し練習してていいかな?」


「ああ、暗くなるまではいいぞ……ってそう言えばシエルって鳥目はどうなんだ?」

「あれ? パパ結構俗説信じてるんだね!」


「あれは人間に対しての病名だよ。暗い所で目が見えにくくなる人の病名なんだって、別に鳥が夜見えにくい訳じゃ無いんだよ」

「ええ!? そうなんだ。俺知らなかったぞ。この年まで鳥は夜、目が見えにくいって信じてたよ」


 そんな感じで親子の時間を、狩をしながらのんびり過ごした。

 夜ご飯は、リュミエルがホカ弁を用意してくれてたのを、シエル用に一口大にマリアにカットして貰ってた。

 俺と、リュミエルは減塩のネギ抜き弁当を弁当箱に顔突っ込みながら食べた。

 ガツガツ食べながら尻尾を激しく降るリュミエルがとても素敵だぜ!


 この世界のビューティアドバイザーの食事風景がこっれて言うのが、なんだか楽しく思える。

 今日はもう新しいお屋敷で、チュールちゃんも一緒に食事して、お風呂にも入ったけど。獣人って尻尾と耳だけがモフモフで尻尾の付け根のすぐ下は普通にお尻の割れ目なんだなぁって思いながら眺めてたら、「テネブル変態」ってシエルにボソッと呟かれた。


 娘に言われると結構傷つくぜ……


 翌朝は、九時からのビューティーサロンの開店だったけど、綺麗にお化粧をした商業組合の受付嬢さん達をモデルとして店の前に立ってもらったりしたから、街中の女性が興味深く集まってきて、大盛況なスタートを切った。


 リュミエルもマリアの横に待機してお客さんの要望に応えたメークのコツを女性スタッフたちに伝えながら、忙しそうにしてた。


 シスターも大盛況なお店の様子に、嬉しそうにしてたよ。

 その様子を確認したサンチェスさんも、既に王都への出店を視野に入れて、色々と考えてる様だった。


 お昼過ぎまでを忙しく過ごした後は、俺とシエルとリュミエルの三人は、マリアに帰る事を告げて、転移門を広げて拠点へと帰還した。


 今回は二泊もしたから、帰って小説を書き貯めるのも大変だな。

 

 青い扉をくぐって、爺ちゃんの所に戻ると今回アルザス先生から仕入れた情報を総司爺ちゃんに伝えた。


「爺ちゃんただいま。まずは頼まれてたアダマンタインとヒヒイロカネ、それと仙桃だよ。それと今回は魔石も結構多いからな」


「ほー凄い量じゃな六十キログラムもあるじゃ無いか。金属が五億円。仙桃が一千万円、魔石が六百万円じゃな。中々いい稼ぎになっておるの」

「爺ちゃんありがとうな。ちょっと気になる情報を仕入れて来たんだけど、どうしたらいいのか聞いて置きたくてさ」


「ほう、俊樹がその辺りの事を聞くとか珍しいな。何があったんじゃ?」

「帝国の城で一月前に勇者召喚が行われたらしいんだ。一年かけて勇者を育てて魔神封印の為の旅に出すって言ってたけど、一年くらいで何とかなるもんなのか?」


「なんじゃと? 魔神の封印は勝手に解ける物では無いんじゃぞ? ただ二百年経てば封印を解除する事が出来ると言うだけの話じゃ。わしらはその為に誰にも封印の場所を告げる事無く、この世界へ戻って来たのじゃが、今回の召喚はまさか、新しい勇者パーティに封印場所を見つけさせて、解放させるつもりでは無かろうな?」

「えぇ? アルザス先生から聞いた話と大分ニュアンスが違うな。魔族の魔神崇拝による実力差が起こらない様に魔神の復活を阻止さえる為の召喚って言ってたけどな?」


「俊樹、帝国はちゃんとリョウマの子孫が帝位を受け継いでおるのか?」

「え? アルザス先生はそう言ってたぞ?」


「もう、王都へは転移門が使えるのじゃな?」

「ああ、使えるぜ爺ちゃん」


「少し帝国まで様子を見に行って貰えぬか、次に俊樹たちが向こうに行くまでにリョウマの子孫である事を調べる事が出来る、あかしを用意して置く。それと恐らくじゃが今回の勇者召喚はこの世界から呼ばれておらぬはずじゃ。もしこの世界から渡ったのであれば、わしが気付くはずじゃからな。勇者パーティのメンバーも調べられれば調べて置いて欲しいのじゃ」


「何処までできるか解んないけど、シエルにリュミエルが居る今なら何とかなると思うぜ」

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