第85話 瓦蕎麦
鮎川を後ろに乗せてスタートした。
ルートは、まず高速に乗って下関まで行く。
下道だと関門トンネルを通る事になるから眺め的にイマイチだからな。
高速で関門大橋を渡る景色はメチャ気持ちいぜ。
途中めかりのパーキングエリアでトイレ休憩をして、橋を見上げながら缶コーヒーを飲む。
バイクツーリングの時は、レストランで食事したりするより、こんな風に景色を楽しみながら、缶ジュースや弁当を楽しむ方が俺的に正義だと思ってる。
鮎川も楽しそうにしてくれてるからいいだろ?
めかりのパーキングエリアを出発した後は、下関インターチェンジで降りて、海沿いの国道191号線のルートを選択する。
単純に速いだけなら、山道の県道ルートの方が早いんだけど、やっぱり海沿いは気持ちいいしな。
そんなに飛ばす事も無く運転したが、目的地の川棚温泉には十時過ぎには到着した。
まだ気温が上がり切る前に付いたので一安心だ。
「鮎川どうだった? バイクの後ろは怖いとか無かったか?」
「うん、全然大丈夫だよ。楽しかった。海をずっと眺めながら来る事が出来て、なんだかすがすがしい感じがしたよ」
「そうか、それなら良かったぜ。バイクは車と違って、目線が高くなるから後ろに乗ってると景色は楽しめるんだよな」
「そうだね。新鮮な感じがしたよ」
「まだお昼ご飯には少し早いから、先にゆっくりと温泉につかりに行こうぜ」
「了解、どうする? 貸し切り温泉のある所で一緒に入る?」
「馬鹿、お前それは駄目だろ?」
「へぇー真面目なんだね。じゃぁ普通に別々に入ろうか」
俺はチョット残念だったかな? と思いつつ日帰り温泉のある有名旅館へと向かった。
一時間ほどのんびりと温泉につかり、鮎川と合流して名物の瓦蕎麦を堪能した。
焼けた瓦の上に炒めた茶そばが乗っていて、牛肉を煮込んだものと、葱、錦糸卵がたっぷりと乗っていて、紅葉卸が添えてある。
特別に美味しいって言うのではないけど、なんとなく川棚温泉に来たらこれなんだよな。
コース料理で頼んだので、結構お腹も一杯になった。
食後にコーヒーを飲みに喫茶スペースに移動して鮎川に聞いてみた。
「鮎川ってさ、これから先何がしたいとか目標とかあるのか?」
「そうね、もう四十二歳だし、恋愛ももう一回はしたいと思うけど、なんかまた失敗したくないな? って思うと中々一歩が踏み出せないんだよね」
「そうなのか? 見た目だって全然若いし言い寄る奴はいるだろ?」
「まぁそれなりにはね。でも私って一応不動産屋の社長って肩書があるじゃない?」
「うん。そうだな」
「言い寄る人が、みんな少しお金目当てな感じに見えちゃったりして、中々、あ、この人なら! って思えないんだよ」
「そっかぁ。お金持ってる人の贅沢な悩みなのか?」
「別にお金持ちじゃ無いんだよ? 土地の価格なんてどんどん下がってるし、両親がやってた頃に高いお金で購入した土地や物件が不良債権で残ってて、今更買った時の値段ではとても売れないし、だからと言って所有してると固定資産税掛かるし、結構キツキツだよ」
「そうなんだな。積極的に商売っ気を出したりはしないのか?」
「今更頑張っても一人じゃ知れてるしね。全部物件処分して銀行借り入れとかを相殺させたら、一人で残りの人生を過ごす程度なら十分って言う程度だよ」
「勿体ない感じもするけどな」
「奥田君はどうなの? 随分羽振り良さそうじゃない? 仕事してる風には見えないけど」
「俺は、まぁ気楽に楽しんでるよ、ネットに小説投稿するくらいしかしてないな」
「え? 意外だね。奥田君が小説書いてるなんて」
「そうだろ、俺も意外だ」
「なにそれ」
「じゃぁ鮎川は、時間的には今結構余裕ある感じなのか?」
「そうだね」
「少し俺の用事頼まれてくれないか?」
「どんなの?」
「俺が通販とかで購入した品物を、受け取ってくれるだけでいいんだけど、結構な量が届いたりするからさ」
「それくらいなら全然かまわないけど、何処に届くの?」
「もう一軒くらい倉庫持って無いか?」
「あるけど、大きいよ? 三百坪の物件で、売るなら一億五千万円ほどになっちゃうかな、貸しても月五十万円くらいになっちゃうよ。国道沿いで立地は良いし駐車スペースも広いしね」
「場所は近いのか?」
「丁度奥田君の家と私の家の間くらいの場所だよ」
「ああ、なんか大きな倉庫あるな。あそこか」
「前は倉庫改装型のリサイクルショップをやってたんだけど去年潰れちゃってね。でもショップやってた時に内装とかをしっかりお金かけてあったから、外見の割に中は綺麗なんだよ」
「へぇ、じゃぁさそこ俺が買うよ」
「え? 聞いてた? 一億五千万だよ? 荷物の受け取りに使うだけでその金額とか、あり得無くない?」
「でも、そこ買ったら鮎川が俺の雑用手伝ってくれるだろ?」
「私ごと引き取って欲しいかもだね」
「まあ仕事上の手伝いって言う意味だったら喜んで引き取るよ」
「女としては魅力ない?」
「魅力はあるさ、でも俺も先週から娘も引き取ったし、今は女性との付き合いは考えられないからな」
「そうなんだ、でもさ、奥田君そんなにお金あるなら、あの家建て直せばいいじゃない?」
「あそこは、あのままが良いんだ」
「良く解んないけど拘りがあるんだね」
「倉庫の契約はすぐでも出来る感じか?」
「明日手続きすれば、出来るかな?」
「俺は明日はチョット朝から博多で用事があるから、うちの会社関係を面倒見てくれてる行政書士の先生と手続きを進めて置いて貰えるかな?」
「構わないけど、うちの会社関係って奥田君の会社なの?」
「ああ……一応俺は表に出たくないから社長は従妹にしてるけど、まぁそんな感じ」
「何か凄いね、私も少し頑張って女として見て貰えるようにしなきゃね。中々こんな良物件なさそうだし」
「さすが不動産屋だな男も物件扱いかよ。支払いは手続きが終ったら現金で払うからな」
「現金って、女一人の所に一億五千万も置いて行く気なの? 馬鹿じゃ無いの?」
「ああ、駄目か……じゃぁ振り込みにしたほうがいいか?」
「別に駄目じゃ無いけど、直接銀行の中でのやり取りにして欲しいな。そのまま預けるから」
「解った。じゃぁそれで」
「温泉に入って、瓦蕎麦食べて、一億五千万の商談纏めるとかどんな展開なの? 意味解んないよ」
「きっと俺の側に居たら今からもっと色々楽しい状況になるさ」
「そうなんだ? 期待しとくね」
俺達は再びバイクにまたがり北九州へ向かった。
「それじゃぁ、また今度出かけような、明日新しい車が届くから、そいつでドライブもいいかもな」
「どんな車なの?」
「見てのお楽しみにしとくかな」
鮎川を家に送り届けると時刻を確認する。
十六時か、まだ約束の時間には早いな。
感想の確認でもしとくか。
そう思って家に戻ると俺のパソコンのキーボードの上にSDカードが置いてあった。
SDカードをパソコンに差し込みデータを開くと、飛鳥が頑張ってキャプチャーしてくれた大量の画像データが有った。
今まではマリアが写真を撮る関係上、マリアの画像はシスターが一緒に居る孤児院での画像が殆どだったけど、このデータの中には、マリアが回復魔法を使う姿や、俺やリュミエルと一緒の姿なんかも沢山あって超嬉しかった。
すぐにラインで飛鳥にお礼のメッセージを伝えて早速イラスト化の作業を行った。
一息付いた所で時間を確認すると十七時半になっていたので聞いていた冴羽の連絡先に電話を掛けた。
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