第96話 魔神さんごめんなさい

 翌日、戻って来てから二十四時間が経過して俺達はテネブルの世界に向かう事にした。

「奥田さん、私と大島も伺ってみても構わないですか?」

「ああ、俺は構わないんだけど、どんな姿になるか解らないよ?」


「そうなんですか?」

「爺ちゃんはどう思う?」


「ああ、そちらの女性大島さんは特別な加護を身に付けているから、恐らく人の姿で顕現出来るが、冴羽さんは危険だな。単細胞生物にでもなってしまうと、与えられる知識のキャパが大きすぎて、細胞ごと弾け飛ぶ可能性が高い。止めておきなさい」

「そ、そうですか。残念ですが仕方ありません。杏は行って来るか?」


「私は戦えないし、行っても役に立てないからこちらで冴羽さんと一緒に待っていますよ」


 結局、俺と香織と飛鳥。

 岩崎さん、翔君、心愛ちゃん、希ちゃん、TBのメンバーで向かう事になった。


「俊樹、ちょっと体を借りるぞ」


 爺ちゃんが俺に宿ると、みんなで青い扉を潜って、テネブルの世界へと渡った。


「マリアと合流したいから、一回家に行くね」


 みんなで歩いてマリアとチュールちゃんの家になっている錬金工房へ向かった。


 丁度、隣のアルザス先生が玄関の前に居た。


『おいアルザス。お前は未だに古代魔法が使えないのか?』


「はっ? 誰じゃ?」

『わしじゃよ、総司じゃ。ちょいと用事があって、今はテネブルの身体を借りておる。お前の身体を貸すなら、わしが古代魔法の使い方の手ほどき位してやるぞ』


「ほ、本当ですか! ソウシ様、再びお会いできる日を楽しみにしておりました。どうぞこの体でよろしければご自由にお使いください。最近は仙桃の摂取を始めたので随分若返れていると思います」

『それでは借りるぞ。ん…… 加齢臭が激しいな。もっと仙桃を食え三食他の物を食うな』


「ソウシ様それでは逆に倒れてしまいます」

「という事でアルザスの身体を借りるからテネブルは自由にしてくれ」


「解ったよ爺ちゃん。アルザス先生、爺ちゃんを頼むね」

「こやつが先生など後千年は早いわ。わしが体を借りておる間に一通りは使って見せるから、それで覚えれなかったら、お前のセンスが無いだけだから諦めろ」


「頑張りますが、一回は厳しいです」


 マリアとチュールちゃんも仲間に加え、庭で飛行船を取り出して乗り込んだ。


「なんと、空飛ぶ船とは素晴らしい。この技術もお教えいただけますか?」

「アルザス、ちっとは静かにしておれ」



「でだ、総司さん。何処に向かえばいいんだ?」

「岩崎さん。まずは、このまま川沿いに下って港町まで行って貰おう」


「解った」


 マリエラの街の上空まで来ると「そのまま海を南に向かって貰うと激しい海流に囲まれた島が見えるはずだ。その島の奥深くに封印が施されておる」


 総司爺ちゃんの指示通りに岩崎さんが、飛空船を飛ばすと言葉通りに渦潮が見えて来た。

 渦潮の周辺には、大型の海洋型モンスターの姿が見える。


「クラーケンが、あんなに沢山いるなんて……」


 前回の船の上でクラーケンにネッチョネチョにされたマリアが、ちょっとびびってる。


「爺ちゃん、ちょっといいか?」

「どうした俊樹?」


「この島ってさ、爺ちゃんが作った転移門が王宮と繋がれてる島だよな? 前にアルザス先生がそう言ってたぞ?」

『なんと、アルザスそれはいつ頃からの話だ?』


「私が情報を伺ったのは百年ほど前です」

「この島に封印をしてある事を知っているのはわしら四人だけだった」


「それって爺ちゃん達の誰かが意図的に情報を流した? って事か」

「偶然の一致を考えるのは難しいな」


「だとしたら……誰だ」

 ハチロウなのか、シンサクなのか、もしくはリョウマか。


「でもここに来るための転移門は王国の王族しか使えないって事だから、王族の誰かが、魔族と繋がって魔神教を崇拝してるのか?」


「国同士で色々な思惑はあるだろうが、俺達がやるのは魔神を倒すって言う事だけは協力するが、後の国同士の争いは一切関わりあいは持たないぞ」

「岩崎さんそれで良いと思います。魔神の対処だけはよろしくお願いします」


 上空からこの島を見ると大きさ的には直径一キロメートル程度の島だ。

 木々は生い茂っているが森という程では無く、中央部分に祭壇が設けられていた。


「この祭壇は爺ちゃん達が作ったのか?」

「封印場所を隠しておるのに、そんな目立たせるような事をする訳が無かろう。転移門を設置した連中が作ったんだろうな」


「王家全体なのか、その中の一部の勢力の行いなのかは解らないけど、きな臭さしかないよな」

「まぁ魔神を倒してしまえば、どっちでも関係ない事だ。やるぞ」



 爺ちゃんが、キーアイテムを使い封印を解くと、魔神と呼ばれる巨大な敵が現れたが、その巨大な敵の姿を見た、俺とリュミエル、シエルの三人はぶっちゃけ「あ、これは無理。死んだな……」と思う程に圧倒的な存在だった。


 だけど、四人の英雄とTBの力は、その存在を遥かに凌駕した。

 正に圧巻、戦闘自体は五分も掛からずに終了し、この島そのものも地図上から消え去った。


 そうなると周辺の海流にも変化が起き、島の周辺に渦巻いていた渦潮も消え、この近海に潜んでいた魔物達も散り散りになった。


「あーこれだと海洋船舶に被害出ちゃうかもね?」と翔君が言いだして、G.Oに乗り込んだみんなでアフターサービス的に、クラーケン達を狩ってくれたけど、正直…… 俺にこの強さを手に入れる事は無理だな! 


 翔君のアイテムボックスに取り敢えず入れられた魔神の残骸は、宇宙空間へと持ち出され、心愛ちゃんが全力で宇宙空間へ投げ捨て、永遠に宇宙をさまよう事になるだろう。


 帝国に戻り、魔神討伐を一応報告すると、帝国皇帝が感謝の言葉を伝えて来た。


「勇者様方、この度は本当にありがとうございました。出来れば我が娘を娶りこの国に勇者様の血を残して頂けたいのですが、もしくは女性勇者様方に私の子供を産んでいただく事でも……」

「エロ爺死ね!」


「希……もっと言って良いよ」

「俺達も自分の世界に嫁待たせてるからパスって事で、それじゃぁ帰るから、もう召喚とかしちゃ駄目だよ。結構迷惑だから」


 その場で送還の術式が発動されて、四人とTBは帰って行った。

 何か、すぐ遊びに来そうな気がするけどね。

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