第48話 テネブル危機一髪
香織が日本へ戻って行き俺達は早朝に宿を出発した。
相変わらずの布陣で進むが時折魔物が出る他はいたって平穏な道のりだ。
今日のマリアは香織のコーディネートした現代社会の女の子のような格好をしている。
ピタッと張り付いた様なスニークジーンズは綺麗なブルーで、冒険者としての動き易さに重点を当てたストレッチ素材の物を選んである。
ブラの上に重ねてあるのはグレーのTシャツで、その上に白いボートネックのセーターを着ている。
真っ赤の髪の毛と青緑の瞳でなかったら、普通に現代日本にいる感じだな。
ただしこの格好だと装備的な防御力は無いから、その辺りは要改善点だよね。
ポイントガード的な防具は必要かな?
この世界には存在しない格好で、向こうの世界ではいたってカジュアルだけど、こっちでは十分に珍しい。
『ラビットテール』の二人の女性やサンチェスさんの従者の女性もマリアの格好に色々質問してた。
「そんなにピタッと張り付いたズボンって動けるの?」
「女の子のズボンって珍しいけど、そんな感じなら恰好いいし、なんかいいよね」
「そのセーターもそんなに目の細かい編み方してあるのって高そうだよね」
「下のシャツの手触りが凄い良いし、何だかマリアちゃんの胸のあたりが昨日より全然大きく見えるのは何で?」
「えっと……あのこれはリュミエルに習った格好で、服もリュミエルが用意してくれたから私良く解んないんです」
「あれ? そう言えば今日はリュミエルどうしたの?」
「なんか用事があるから、明日合流するって言ってました」
「そうなんだ。マリアの従魔って本当に不思議だよね」
「私もそう思います」
「その可愛い猫人属の子は?」
「昨日知り合いになって、孤児なので一緒に連れて行って、ファンダリアで暮らさせようと思います」
「そうなんだ、マリアちゃん面倒見もいいんだね」
「チュールって言います。よろしくお願いしますお姉ちゃん達」
「きゃあぁあ可愛い。耳がピクピクって動いたよ」
中々チュールも馴染めたようで良かったぜ。
車内での会話に聞き耳をたてながら順調に進み、夜を迎えたので野営の準備を始めた。
今日も勿論俺がホカ弁をみんなに出す。
マリアと女性従者の人にチュールちゃんも手伝ってスープの準備もしてる。
なんか今日の気分は親子丼かな? と思ってどんぶり型の容器の弁当を選んだ。
たっぷりの玉ねぎと鶏肉とふわっとした卵の乗った美味しそうな親子丼は、インベントリから取り出した時には、まだ熱いくらいだった。
他の人達も、蓋を開けてみてまだ食べた事のないおかずを求めて、みんなで交換し合ってる。
みんなの反応を見る限りでは、タルタルソースのかかったチキン南蛮や、のり弁が人気上位の様だな。
もしかしてこの世界はマヨネーズも無いのか?
俺はドンブリ型の容器に顔を突っ込んで、一口食べてみた。
「旨いなぁ異世界で親子丼とかシュールだけど、うまいは正義だぜ」
と言った瞬間に急に呼吸が苦しくなった。
体中から力が抜け、立っているのも困難だ。
丼を置いてある横にばったりと倒れた。
「キャァ。どうしたのテネブル? ねぇ起きてよー」
マリアが叫んだけど、俺の身体は既にピクピクけいれんを始めてる。
駄目だ、これは俺死んじゃうのか?
理由はなんだ?
あ……玉ねぎかも、そう言えば犬猫に玉ねぎは絶対にダメだって前にテレビでやってた気がする。
マリア……早く……キュアを掛けてくれ……
俺の意識が飛びそうになった時に、マリアが漸くハイヒールとキュアを立て続けにかけてくれた。
助かった。
チェダーさんやサンチェスさんも心配してのぞき込んでたけど、俺が起き上がってホッとしてくれてた。
「マリアごめん。つい人間の体のつもりで玉ねぎ口にしちゃった、猫特有のアレルギーだ。本当にごめんな」
「テネブル、もうぅ死んじゃったかと思ったじゃん。他にも食べたらダメなのってあるの?」
「ニンニクとかニラとかネギ類は全部だめだったと思う。後この世界にあるかどうかは知らないけど、チョコが駄目かな?」
「チョコって言うのはこっちには恐らくないと思うよ聞いた事無いから」
「そうか、みんなに伝えて置いてね。ただの玉ねぎ中毒だから安心してって」
マジ死ぬかと思ったぜ……
気を付けなきゃな。
弁当屋さんでネギニンニク抜きで、別に注文して置こう。
そう言えばまだサンチェスさんに時計見せて無かったな。
マリアに声をかけて事前知識を仕入れておこうかな?
「マリア、ちょっといいかな?」
「どうしたのテネブル」
「この世界では時間はどうやって知ってるの?」
「各街の教会の塔に機械式の時計が有って、毎日お昼に日時計の影に合わせて調整してるんだよ」
「へーそうなんだ、持ち歩けるサイズの時計とかは無いの?」
「私は聞いた事無いけど、もしかしたら貴族様たちなんかは持ってるかもしれないけどね」
「そっかぁ、ちょっと一緒にサンチェスさんの所へ行って見よう。馬車の中でお話がしたいって伝えて」
「うん解った」
サンチェスさんを馬車の中に呼ぶと、俺は買って来た時計をインベントリから取り出した。
「テネブルが言うにはこれは、手にはめて使う時計らしいです。ずっとはめていれば時間も殆ど狂わないって言ってます」
「ほぉこれも素晴らしい品物だな。これは商品にしても良いと思ってるのかい?」
「はい、そうですけど値段が凄い高い見たいです」
「ああ、それは問題無い一億ゴールドと言っても出す人間は出すじゃろう。貴族は欲と見栄だけで生きておる者が殆どじゃからな」
「それは凄く高級品で一千万ゴールドでの販売で、需要がある様なら機能は同じで百万ゴールドくらいの商品は用意できるって言ってますよ。その時計はサンチェスさんに差し上げるので、見本にするなり使うなり自由にして下さいですって」
「こんな高価な物をくれるのか? ありがとうなテネブル」
「スクロールのお礼もかねてだって言ってます。女性用のもあるからこれも渡して置きますって言ってます」
「ほーこれも素晴らしいな、確かに最初のじゃと女性にはちと重いかもしれないがこれなら問題無いな。ありがとう増々商売の幅が広がって喜ばしい限りじゃ」
その後はまた見張り番に着く事になった。順番は一つづつずらして、今日はマリアと俺が中番になる。
その間にマリアにこの世界の月と曜日の事を聞いてみた。
月は基本新月が一日で次の新月までが一か月この世界では正確に三十日で変わるんだって、一年も十二カ月で三百六十日だそうだ。
曜日は火、水、地、風、光、闇の属性に合わせた六曜日なんだって。
曜日表示は使えないけど、日付表示はあってもいいかな?
デイジャスト機能までありなら時計の種類の選択肢増えるよね!
俺たちがスクロールで身に着けた特殊属性の氷と雷は水と風の派生属性だって言ってたな。
それぞれの基本属性を高めた人が五十人に一人くらいの割合で覚える可能性もあるそうだ。
かなり珍しい物だったんだな。
「スクロールは何で宝箱から出るの?」って聞いたら、はっきりと証拠があるわけじゃ無いんだけど、ダンジョン内で亡くなった冒険者が持っていたスキルがスクロールとなってダンジョン内に任意の場所に、現れる可能性が高いと言われている様だ。
そのルールが本当だとしたら、希少属性の持ち主は属性を教えると、暗殺される危険性とかありそうだな? と思ったぜ。
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