第66話 飛鳥とデート
久しぶりの晃子との会話は思ったよりも全然抵抗なく出来た。
だが、晃子は俺に若返ったって言う表現を使ったけど俺から見た晃子も自信に満ち溢れた輝いた女性に見えた。
晃子が俺に飛鳥を預けて帰った後で改めて飛鳥に声をかける。
「父親らしいこと全然してやって無くてスマン」
「パパ? 折角なんだから楽しく過ごしたいし謝るのは禁止ね」
「ああ、スマン」
「ほらまた、今度スマンって言ったら罰金だよ一回一万円」
「たけぇなおい」
「言わなきゃいいだけだから」
「何処か行きたい所とかあるか?」
「そうだねパパ免許は持ってるよね? ドライブしたいな。ママ免許持って無いから車のお出かけに憧れてたんだ」
「そうか、よしレンタカー借りに行くか。ちょっと聞いて来るから待っててくれ」
「うん」
俺は今日の最終で帰るつもりで来ていたからホテルとか予約していなかったんだけど、この後、飛鳥と行動できるなら帰るのは明日にしようと思い、ホテルのフロントで今日の宿泊が出来るかを確認すると、比較的安い部屋はすべて埋まっていてスイートなら空きがあると言われ、一泊二十万ほどだったが頼んでおいた。
フロントで予約を入れた後でホテルのコンシェルジュにレンタカーを頼んだ。
すぐに用意出来て出来るだけ若い女の子が喜びそうなのを値段関係なしで紹介して欲しいって頼むと、ちょとだけ『このエロおやじが』的な空気が流れたけど、そこはホテルのコンシェルジュだ。
にこやかに案内してくれた。
三十分ほどでホテルのエントランスまで回してくれるという事だったので、もう少し飛鳥と話しながら待つことにした。
「飛鳥お待たせ、レンタカー頼んだらさ、このホテルのエントランスまで回してくれるらしいから、もうちょっとだけ待ってくれ」
「うん、全然いいよ。どんな車借りたの?」
「ドライブを楽しめるような感じの少し良いのにしたぞ。久しぶりだしな。まぁ来てからのお楽しみだ」
「へぇ、パパって九州に帰ったんだよね? お爺ちゃんの所なんでしょ?」
「ああ、ごめん飛鳥。お爺ちゃんな、二か月前に亡くなったんだ」
「そうなんだ……あんまり覚えてないけど、まだそんなに歳じゃ無かったよね」
「六十五歳だった。肺がんで治療を断ったんだって」
「今度お墓参り行くから、その時は泊めてね」
「ああ、いつでもいいぞ」
そう言ってるうちにスマホに着信があってレンタカーが届いたと言う知らせだった。
会計を済ませてホテルのエントランスに向かうとコンシェルジュの頼んでくれたレンタカー、真紅の『ランボルギーニアヴェンタドールS』のシザードアが跳ね上がった状態で駐車していた。
「パパ! これまじなの? すごおーい」
「母さんが免許持ってたら毎年三台くらいは楽に買えるだろ?」
「そんな問題じゃ無いし……」
レンタカー業者から鍵を受け取り、初回利用だからデポジットを頼まれたので、百万円渡しておいた。
返却時には何も問題なければ七十万円は帰って来るはずだけどね。
「飛鳥、何処行きたい?」
「取り敢えず原宿かな」
「OK」
そう言ってホテルマンとレンタカー業者に頭を深く下げられながらドライブはスタートした。
深々としたバケットシートは身体を包み込むようにがっちりホールドしてくれるけど、いかんせん車の前方の視認性は全くないな。
左ハンドル車なので右前方は殆ど見えない、出来るだけ右折はしたくないな。
原宿に付くと飛鳥が車を道端に止めさせて、シザードアを跳ね上げタピオカドリンクを買いに行く。
流石に原宿でもランボルギーニのシザードアはめっちゃ目立って人が遠巻きに写真撮りまくってる。
買いに行くのは飛鳥の役目で俺はハンドルキーパーで待ってるだけだがな!
それをクレープとケバブで繰り返して、やっと満足したようだ。
「パパ、ありがとう。メッチャ快感だったよ。原宿はもう満足したから、ちょっと海まで行きたいかな?」
「どっち方面が良い?」
「レインボーブリッジとかどう?」
「良いぞ、何処でも飛鳥の好きな所に行ってやるぜ」
「あ、また ぜって言ってる」
「小説じゃ無いからOKって事にして置いてくれ」
「いいよ! 私は別に嫌じゃ無いからね」
原宿から港区方面に抜けてレインボーブリッジを渡り、お台場でショッピング。
絵にかいたようなデートコースだな。
我が娘ながら明るく美しく育ってくれてる事に感謝だ。
「飛鳥、欲しい物は無いのか?」
「そうだねぇ、結構ママが何でも買ってくれるから特別欲しいってものも無いんだけど、お財布でも
お台場のアウトレットモールにで、ルイヴィトンのPORTEFEUILLE SARAH(ポルトフォイユ・サラ)と言うモデルの財布をプレゼントした。
「これ前から素敵だと思ってんだ。パパありがとう」
「食事は流石に飛鳥と二人だとフルコースも変だし、希望を聞いてカジュアルなイタリアンで済ませた」
何処に行ってもランボルギーニは悪目立ちしすぎて、インスタ女子たちが沢山近寄って来るけど、今日は気分が良いし、快く写真撮って貰ったさ。
俺と飛鳥の2ショット写真もアヴェンタドールをバックにインスタ女子たちにお願いして撮影して貰った。
俺的にはスマホカメラで十分なんだけど、自分たちの一眼レフで撮影した後に
「後でラインで送らせてもらうからID交換お願いします」と言われると、ちょっと飛鳥の視線が気になったぞ。
辺りが暗くなって来たので再びレインボーブリッジを渡り、きらびやかな夜景を楽しみながら元麻布の晃子のマンションに送り届けると「パパ、もう少しだけお話しできるかな?」と言われた。
「明日も学校休みなら、今日は俺の取ったホテルに泊まるか? スイートだからベッドも別々だし問題無いぞ?」
「凄いね、パパってそんなお金持ちなの?」
「久しぶりに会う娘の前だから精いっぱい恰好付けてるだけさ」
そう言って再びランボルギーニでホテルに戻った。
エントランスにつけキーをベルボーイに預けると駐車場まで回してくれるみたいだ。
ランボルギーニだしベルボーイの子もちょっと顔が引き攣った気がしたからチップを少し奮発した。
フロントでカードキーを受け取り部屋へ上がると、流石にスイートだけあって見晴しも最高だった。
部屋に入ってソファーに腰を下ろすと、飛鳥が口を開いた。
「パパ、あのねママとは一週間前くらいに話したんだけど、私パパと一緒に暮らしたいって思ってるの」
「え? お昼見た感じだと仲良さそうで安心したんだけど違ったのか?」
「仲は良いよ。好きな物も買ってくれるし、生活面では全然不満は無いんだけどね」
「それならなんでだ?」
「ママの小説って恋愛物で結構濃厚な展開なのも多いでしょ?」
「そうらしいな」
「私もママの小説を読むのは大好きなんだけど……私がママの子供って知ってる人は、やっぱりそう言う目で見て来る人もいるんだよね。ママが乱れた性生活してるんだろ? お前もどうせそうなんだろ? ってね」
「ああ、やっぱりか。晃子は自立した大人で独身なんだから今更俺が何か言う事も無いが、それでもし飛鳥がつらい思いをする事があるなら話が別だと思ってた」
「あのね、ママは昨日までちょっと心配してたんだよ。飛鳥がパパの所に行きたいなら、それは自由だよ。ただ……パパは余りお金稼ぐのが得意な人では無いから、今まで見たいな贅沢は出来ないよ? 欲しい物なんかはママに言えば買ってあげるけど、家事なんかは飛鳥も手伝わないといけないし、大変だと思うよ? って」
「まぁ……そう思って当然だな。頼りがいの無い俺しか知らないだろうし」
「パパって何が変わったの? 勿論テネブル先生がパパだって知った時は超びっくりしたけど、今日一緒に過ごしたパパは、前のパパじゃ無いよね? そんな筋肉質で凄い引き締まった身体だって服の上から解る感じで、高級ブランドのサマースーツ着こなして、颯爽とランボルギーニ運転して、このホテルのロイヤルスイートに泊まるとか何処のセレブ社長だよ?」
「ああ、まぁ男には色々あるんだ」
「その色々が聞きたいのに」
「お昼も言ったけど今、俺は香織と一緒に爺ちゃんの所に住んでるけど、いいのか?」
「それって私がお邪魔虫になっちゃう?」
「いやそう言う関係では無いから気にしなくていい」
「パパ? ママが去り際に言ってたでしょ? パパから連絡があった時にそんな話が出るかもしれないってママは言ってたの。今までと同じとは言わなくても飛鳥が困らない程度にやっていける自信があるから連絡して来たんだろうって」
「そうか、流石に心理描写が持ち味と言い切るだけの事はあるな。俺との短いメールのやり取りで気付くとか」
「でも、もう一度確認。香織お姉ちゃんって全く気が無い訳じゃ無いよね?」
「ああ、それは飛鳥の言うとおりだ。この先出来れば一緒になれたらいいかな? とも思ってる」
「でも年齢も一回り下だから香織が一時の気の迷いとかだったら取り返しがつかないし、今はそう言う関係では無く一緒に過ごしてみて、それでもお互い一緒に居たいと思えればの話だ」
「へぇ、パパ。何だか今日はパパの事いっぱい見直したよ」
「そうか?」
「うん、すっごく格好いいよ」
飛鳥が寝入るのを待って俺はスマホを取り出すとメールのチェックを始めた。
香織からも来ていた。
『久しぶりの再会を邪魔したら悪いからメールしとくね。シャッターの業者さんから連絡来てたけど私が進めて置いて良いかな? 暇になったら返事お願いします』
ああ忘れてたな。
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