第28話 2人きりの夜

あの告白から程なくして大晦日。

年越しはサークルの仲間と過ごすと言っていた蒼斗くんと別れた後、イチくんの部屋で奈那と3人で過ごしていた。


「明けましておめでとう!」


「今年もよろしくお願いします」


どことなく他人行儀で、私たちは新しい年を迎えた。


アイドルに興味がない蒼斗くんがいないので、イチくんと奈那は心置きなくアイドルの話で盛り上がっている。

私もアイドルは好きな方。

だけどイチくんが好きだというアイドルについては只今猛勉強中。


可愛い女の子は同性から見ていても癒されるものだし、そんな可愛いらしい女の子を見て、少しでも近づけるように努力する。

それ以前に元が掛け離れているというツッコミはひとまず置いといて、メイクやファッションを研究してみたり、私はそういう視点でアイドルを見たりするのも好きだ。

そのおかげもあり、接点がほとんどないイチくんともこういう話題では繋がれている。


「この曲いいよね」


BGMに流していたイチくんが好きなアイドルの曲が耳に止まる。


「うん、俺もこれ好きだな」


別れの曲なのにキャッチーというか、耳に残り、一人でいるときも思わず口ずさんでしまう。


「別れの曲だけどね」


奈那が冷静に水を差す。


「それじゃあ私、そろそろ帰るね」


夜も更けて、また明日予定があるからと奈那が帰る。

彼氏との約束でもあるのだろうか。

私と2人でいるときは堂々と『彼氏』という存在を明かすのに、イチくんといるときは『彼氏』というワードを一切出さない。

それでも、イチくんと少しの間2人きりになれるのだから奈那に感謝しつつ、奈那を見送った。


奈那が帰る日は決まってイチくんは早く寝てしまう。

蒼斗くんと家族の話をした夜も、遠回しの告白をしたあの夜も……。

そして今だって、コタツに横になりあっちを向いている。


『やらかした』


のは本当だったみたいだ。

私はイチくんのその姿を見て実感する。


「美愛ちゃんはそっちで寝てね」


1度こちらを向いて部屋の端を指差して、突き放すようにこう言うと、彼はまたあっちを向いた。


私だって、こんな見た目だけど、男の人を襲ったりなんてしない。

こう見えても、付き合っている人じゃなければ関係を持たないと決めている。


でも生真面目なイチくんにとって見れば私は獣のような女に見えるだろうか。

イチくんが、もっと普通の男の人だったら、私たちは寄り添って眠っただろうか……。

でも、こんな生真面目なイチくんだからこそ、私は好きになってしまったんだろう。


私はあっちを向いて寝ているイチくんの後ろ姿を見つめていた。

まだ起きてるかな?

寝てるフリしてるのかな。

そんなことを考えながら、この部屋で2人きり、私は眠ったような眠っていないような曖昧な夜を過ごした。


ずっと望んでいたはずの2人きり……。

ずっとこうなることを夢見ていたはずなのに

こんなにも切ない夜があるということを私は思い知らされる……。


あの子には敵わない

あなたには届かない

2人きりの夜がこんなに苦しいなんて

知らなかった……。

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