第41話 決戦日は今夜です(前編)

今日は私の22歳最後の日。

23歳の誕生日を迎える前に、自分にけじめをつけたくて……ある決心をした。


***


金曜日は黒石部長が定時で上がることが多く、私も比較的早く上がれることが多い。

幸い相良さんも取引先から直帰の予定だった。


「お疲れさまでしたー」


おっとりした口調が営業部全体に響いた。


「お疲れさまでした!」


室内にいる社員が全員席を立ち頭を下げた。

私は黒石部長が会社を出るタイミングを見計らっていた。

黒石部長は上がってからもトイレで化粧直しをすることが多いので、少し時間がかかりそうだ。

金曜日はデートの約束でもあるのだろうか。


しばらくして、私は荷物をまとめた。


「お先に失礼します。お疲れさまでした」


毎日のことだけど、誰も聞いてないとわかっていながら一応こう言うと私は会社を後にした。


「お疲れさま。今仕事終わったよ。19時頃着くと思う」


私はイチくんにメールをした。


「お疲れさま。気を付けてね」


イチくんからの返信に今日会えることも夢ではないんだと再認識しながら、歩く……。

イチくんに会えることに対する高鳴る鼓動と、自分で決めた決心に対する緊張で私の心は忙しない。

電車から見えるいつもの景色。

いつだって、この景色を見ながら心を弾ませて……。私は今日もあの人に会いに行く。

その駅が近づく度に心臓が跳ね上がりそうになって、私はゆっくり深呼吸した。

そしてその駅に着くと私はいつものように改札を出て、いつもイチくんの車が停まっている場所でイチくんの車を探した。


(あ、メール来てる)


スマホを見る余裕もないくらい、緊張してたんだ。

イチくん、遅くなるのかな?

そしてメールを開いた。


「美愛ー! イチくんに聞いたよ。今日イチくんに会うんだってね! 楽しんできてね」


奈那からだった。

イチくんからしたら私と会うことを奈那に言うことに意味なんてないのかもしれない。

だけど、もし意味があるとしたらやっぱり……。

振り向いてくれることのない奈那の気を引きたいから?

イチくんの気持ちが見えない。

だけど、私は……。

この見えないモヤモヤを抱えて立ち止まっているわけにはいかない。

この結果がどうであろうと、私は前に進むしかない。

そうして顔を上げると、イチくんの車がこちらに来るのが見えた。

2人きりで会える。それだけのことでも私にとっては大きな1歩……。

私はこの想いを抱きしめてイチくんに笑顔で手を振った。


「ごめんね、待ったよね?」


イチくんはいつもと変わらない。

気を遣いすぎるくらいに優しいところ、落ち着いた話し方、吸い込まれそうな程にキレイな瞳……。

私はこんなイチくんの全てに恋をした。


「ううん。ちょうど着いたところだったよ」


私はまた少し躊躇いながら助手席のドアを開けた。


「お仕事お疲れさま」


いつもと変わらない笑顔を向けるイチくんに、やっぱりこの人のことが大好きだと思い知らされる。

そして車はゆっくり走り出す。

運転するイチくんの横顔を助手席ここからずっとずっと眺めていたいと思った。



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