第40話 思い出作り

そして次の週末、蒼斗くんとの約束に間に合うように支度をして、待ち合わせの場所に向かった。

友達と言えど、こういうお出かけは久しぶりで気持ちも明るくなる。

余計なことを考えず、今日はとことん楽しもうと思った。

電車から窓の外を眺めると穏やかに晴れて、春の訪れを感じる。

そのとき、新着メールを知らせるようにスマホが震えた。


(蒼斗くんかな?)


そう思ってメールを開いた。


「今度の金曜日久しぶりに休みなんだけど、美愛ちゃん定時で上がれるかな?」


突然のイチくんからのメールにまた高鳴る鼓動……。

イチくんはシフト制で夜遅くまで仕事をしていることが多く、土日休みの私と滅多に休みは合わないので、みんなで集まるときもイチくんの休みの日に合わせて、私は仕事帰りにイチくんの家に行くことが多かった。


「メールありがとう。金曜日なら多分定時で上がれると思う」


また会える。

お礼ホワイトデーだってわかってるけど、それでも嬉しくて、やっぱり今日も私はこの恋に躍らされている。


そしてまた窓の外を見る。

穏やかな春の日……。イチくんと初めて出逢った日もこんな風に晴れていた。

もうすぐ出逢って1年なる。


「良かった! 金曜日、仕事が終わったら俺の地元に来れるかな?」


「うん。仕事が終わったら連絡するね」


私はこう返信をするとある決心をして、スマホを鞄にしまった。


***


蒼斗くんとの待ち合わせの駅につき、改札を出ると、私は蒼斗くんの姿を探した。


「美愛ちゃん!」


名前を呼ばれて声の方を向くと、見慣れた笑顔がそこにあった。

白シャツにパーカーを羽織り、いつもと変わらない彼は手を振りながら私の方へと近づいてくる。


「久しぶりだね」

「久しぶり! 蒼斗くん元気そうだね」


私たちはそんなことを話しながらショッピングモールが立ち並ぶ通りの方へと歩きだした。

そして、1件のイタリアンのお店の前で立ち止まった。

おいしそうなピザやパスタの食品サンプルが並んでいる。


「ここ、おいしそうだね」


蒼斗くんが呟く。


「お昼、ここにしようか?」


そうして私たちは店内に入ると、少し悩んでからピザを注文した。


ピザを食べながら、私たちは蒼斗くんの大学の話、お互いの大学時代の話、家族の話、なんてことない話をする。

だけど、どの話題もイチくんや奈那がいるときにはしづらい話ばかりだ。

蒼斗くんとは育った環境が似ていて、話が尽きることはない。

蒼斗くんといると自然体でいられる。


「あーピザおいしかったなー」


店を出るとお腹をさすりながら蒼斗くんが言った。


「おいしかったねー」


そんな蒼斗くんの様子に思わず笑ってしまう。


「あ、服見たいな。買い物付き合ってくれる?」


蒼斗くんはそう言うと、私たちはファッションフロアに向かった。


なかなか入る機会のないメンズフロアは新鮮だった。

蒼斗くんが好きだというショップに入ると、蒼斗くんは商品棚の服を広げる。


「あ、これいいなー」


蒼斗くんが手に取ったのはバイカラーのパーカーだった。


「これ可愛いね!」


私がそういうと蒼斗くんは店員に声をかけ、鏡の前で試着した。


「いいじゃん! 似合ってるよ」


こう見えて、私はお世辞は言わないタイプ。


「ほんと? じゃあこれにしようかな。これ買います」


近くにいる店員にそう言うと、蒼斗くんは即決で買い物を済ませた。


「オシャレな美愛ちゃんに似合ってるなんて言われたら買っちゃうよねー」


店を出てから蒼斗くんが笑った。

オシャレだなんてお世辞でも嬉しいものだ。


「ほんと似合ってたし、いいお買い物ができてよかったね」


私はそう言って微笑んだ。


それから私の買い物に付き合ってもらったり、ショッピングモールを回り、海が見えるカフェに入ったり、時間はあっという間に過ぎて行った。

気がつけば日が暮れてきて、私たちは駅に向かった。

デートスポットと言われてるだけあって、ハートの形やピンクに色づいたライトアップが輝いている。

そんな雰囲気にしばし私たちは沈黙になった。


「私ね……」


私は俯いて口を開いた。


「ん?」


不思議そうに蒼斗くんが私を見る。


「私、イチくんに告白しようと思って」


来る途中、電車から見える景色を眺めながら決心したこと。それはイチくんに想いを伝えるということだった。


「ついに! がんばってね、美愛ちゃん。応援してるよ」


蒼斗くんのその一言は背中を押してくれたようだった。


「ありがとう」


そして私たちは駅に着いた。


「それじゃあまた」


「うん。またね 」


改札に入ってそう言うと私たちは別れた。

私は蒼斗くんの後ろ姿が人混みに消えていくのを見送って、駅のホームへ続く階段を降りた。

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