第3話 決断

一夜さんたちと会った日の夜、一夜さんと蒼斗くんからメールが来ていた。


「今日はありがとう。また集まろうね」


と一夜さん。


「同じ年だし、よろしくね!」


と蒼斗くん。


それぞれに返信をした。


楽しくて時間が経つのも忘れるなんて久しぶりのことだった。

今日が楽しかったというただそれだけのことで明日からの仕事も頑張れそうな気さえしていた。


ベッドに仰向けになり、ぼんやり天井を眺めた。


寂しがりやの奈那が一夜さんのことを好きになれたら、世界で一番幸せになれるだろう……。


だけど、必ずしもみんなが自分のことを好きでいてくれる人を好きになれるとは限らない。

世の中はうまく行かないものだ。


そんなことを思いながら私は目を閉じた。




***



「おつかれさまでーす!」


あの日から1週間程経った頃、私は職場の先輩の送別会に出席していた。


「改めて、綾果ちゃん結婚おめでとう」


上司が花束を渡す。


「ありがとうございます」


幸せそうな先輩。

寿退社して、めでたく専業主婦に…

まさに私が憧れているシナリオそのもの。


「綾果さんはどうして旦那さんと結婚しようと思ったんですか?」


幸せいっぱいの先輩からは自然と笑みがこぼれる。


「初めて会った時に、直感で思ったかな。私、この人と結婚するって」


よくビビっとくるとか、そういうの聞くけど、ほんとにあるんだなー。


「えー素敵!」


きっと見えていないだけで、幸せはいつだってすぐそこにある。

それを掴むか手放すかは自分次第。



「はいはーい! 私も1年後、綾果さんに続きまーす! そして寿退社します!」


私は酔った勢いで、何も決まっていない自分の未来に謎の宣言をした。


「っていうか美愛の彼氏バンドマンでしょ?生活できないだろ!」


先輩方からの厳しいツッコミ。


「それに美愛まだ若いんだから結婚しなくていいでしょー! もっと遊びなよ!」


そうだそうだと先輩方から野次が飛んだ。


もし私が今も彼氏のことが大好きなら彼の仕事なんて関係なくて、今が幸せならそれでいいと思えるんだろう。

だけど、いつからか私の望む未来の中に彼はいなくなっていた。


ちゃんと終わりにしなくちゃいけないことはとっくにわかっている。

でも情っていうのかな……。

長年一緒にいた居心地の良さとか、ふとした思い出が邪魔をする。


今だってここにある現実に目を背けながら私はジョッキに残ったビールを飲み干した。




***


「あー綾果ちゃん幸せそうだったねー」

「ですよね、ですよねー! 指輪が眩しかったなー」


先輩たちが盛り上がっている。


「おつかれさまでした」


「帰り気をつけてね」


先輩たちと別れた駅のホーム。


私はスマホを取り出して、メールを打ち始めた。宛先は彼氏。


「今度の休み会えるかな?」


もう私の胸の内は決まっていた。

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