第2話 楽しい日々の始まり?
そしてその日はやってきた。
電車で15分程の奈那の地元の駅に着いた私はあたりを見回していた。
「美愛ー!」
向こうの方に大きく手を振る奈那が見えた。
「奈那ー!」
奈那を見つけた私は奈那の元へと駆け寄った。
「もう着いてるみたいでね、あっちの方に車停めてるみたい」
そういうと奈那は車があるという方向に歩き始めた。
「なんか緊張してきたな」
それもその筈だ。奈那にとっては気心しれた地元の友達だけど、私は初対面なのだから。
「いい人たちだから全員緊張しなくていいよー!」
奈那のその一言に安心したけれど……。
「あ、あの白い車!」
私の緊張をよそに、路肩に白いワンボックスカーが停まっているのが見えてきた。
私たちが車に近づくと運転席から背の高い男の人が降りてきた。
黒髪の真面目そうな人。
奈那が「いい人だから」と言うのも納得だ。
「は、はじめまして! 一瀬美愛と申します! 今日は急にお邪魔してすみません。よろしくお願いします」
ギャルみたいとか言われる私だが、実際は小心者で人見知り。
意外と真面目なんだ、とか驚かれることも……。
いや、意外とってめっちゃ失礼なんだけど!
彼もそんな私に少し驚いた様子だったが、
「はじめまして。
と言うとニコッと笑った。
一夜さんが私より5歳年上だと言うことは事前に奈那から聞いていた。
今まで年上の男の人と接点がなかった私にとっては5歳年上の一夜さんがすごく大人に見えた。
「あ、中にもう一人乗ってるから」
そう言うと一夜さんは後部座席のドアを開けてくれた。
そういう然り気無い仕草がより一層、一夜さんのことを大人の男性だと感じさせた。
「お邪魔しまーす」
奈那と私が車に乗ると、
「こんにちはー! 奈那ちゃん、久しぶり!」
金髪の男の子がぺこっと助手席から顔を出した。
一夜さんとは真逆で遊んでそうな……でも、話しやすそうな印象だった。
「彼は
と、奈那が紹介してくれた。
「えー!?」
「えー!?」
思わず心の声が出てしまったが、それは私だけではなく蒼斗くんも同じだった。
お互いにお互いを自分より年下だと思っていたのだ。
「あははー俺ねほんとは社会人1年目の年だけど、1浪してるから大学生なんだよね。今年くらいしかこんな髪型できないしさ」
頭をかきながら蒼斗くんが言った。
「そうだったんだ。私も職場がわりと髪型とかいろいろ自由で……」
お互いに若く見えるのは髪型のせいだけではないと思うが、髪型のせいだということにした。
そんな私たちに一夜さんと奈那が笑った。
私と蒼斗くんもつられて笑った。
***
車は長閑な田舎道を進む。
私の斜め前には運転する一夜さん。その隣に蒼斗くん。私の隣には無邪気に笑う奈那。
思えば、私も今の彼氏と付き合ってから3年近く……。
こんな風に他の男の人たちと出掛けたりしたことなんてなかったから、久しぶりのこの感覚に心を踊らせている。
奈那と一夜さんと蒼斗くんは奈那が高校生の時のバイト仲間だったようで、道中ではその頃の思い出話に花が咲き、私はそれを楽しく聞いていた。
「ごはん食べる前にちょっと遊んでいこうか」
そう言うと一夜さんは河原の近くに車を停めた。
「足元気をつけて。大丈夫?」
一夜さんが奈那に手を差し出した、
「ありがとう。大丈夫」
奈那は一夜さんの手を使わずに車から降りた。
私はその様子を見なかったフリして
「風が気持ちいい~」
うーんと背伸びした。
「ちょっと地元から離れるだけでこんなに空気違うんだな」
蒼斗くんが続けて言った。
「まぁ俺らの地元も田舎だけどな」
一夜さんが言うとみんな笑った。
そして私たちは川の冷たい水に手を入れてキャーキャー言ってみたり、石で水きりしたり、河原で写真を撮ってみたり、しばらく遊んだ。
ふいに一夜さんに目を向けると、視線の先には無邪気に遊ぶ奈那がいた。
(わかりやすいなぁ)
今日初めて会ったのに、一夜さんの気持ちが奈那にあることはバレバレだった。
当の本人は気づいてるのか気づいていないのか私には分からないけど、こんな風に純粋に誰かに愛されている奈那が少し羨ましいと感じた。
「あー腹減ってきたなー」
蒼斗くんがお腹をさすった。
「そろそろご飯にしよう」
そう言うと私たちは車に戻り、一夜さんはまた車を走らせた。
***
お洒落な外観のカフェに入り、窓側の席に座るとほんのり木の香りがした。
おいしそうなメニューを見ながら悩みに悩んだ末に注文した料理を食べながら、私たちはお互いのことを話した。
「美愛、イチくんたちと今日初めて会ったとは思えないね」
イチくん。奈那は一夜さんのことをそう呼んでいた。
「ほんと初対面とは思えないよなー」
蒼斗くんもそう言った。
「そう思ってもらえたら嬉しい」
私はなんとなくそう返して笑った。
少しは溶け込めているのかな?
それなら嬉しいと思う気持ちに嘘はない。
***
河原で遊びすぎたのか、車が帰路を走っている頃にはもう日が暮れかけていた。
「美愛ちゃん、家どの辺? 送っていくよ」
ミラー越しに一夜さんが言った。
「私以外みんな地元一緒ですし、待ち合わせた駅でおろしてもらえれば大丈夫ですよ」
私はこう返したが、事前に奈那から私の家のだいたいの場所を聞いていたのだろう。
「あそこらへんならそんなにうちと変わらないから大丈夫だよ。近くなったら道案内してくれる?」
一夜さんの言葉に甘えることにした。
「家に帰るまでが遠足ですからね」
奈那が学校の先生ぶって言った。
それから30分程して、私の家に到着した。
「今日はありがとうございました。楽しかったです!」
「俺も楽しかったよ。ありがとう」
一夜さんが会ったときと同じ笑顔で言った。
「ねーねー、またこうやってみんなで集まろうよ!」
奈那がまた無邪気に言う。
「いいね! 俺もこうして遊べるの今年くらいだからなー!」
奈那の提案に蒼斗も乗り気だ。
「じゃあまた連絡します!」
一夜さんがこう言うと、私はまたみんなにお礼を言って、車を降りた。
そして車を見送りながら奈那に視線を送っていた一夜さんのことを思い出していた。
奈那に彼氏がいることを一夜さんは知っているのだろうか……。
今日の楽しかった記憶の端っこで、奈那を思う一夜さんの気持ちを考えながら、私は胸の奥が痛むような感覚を覚えるのだった。
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