第1話 平凡な日々
「今日も1日おつかれさまー!」
そう言って仕事終わりの乾杯をしたのは、私
昔から何かとギャルっぽいとかちゃらそうとか言われていた私とは真逆で奈那は黒髪でおとなしそうな外見の女の子。
そんな私たち2人がこうしてお酒を飲んでいる光景を周りは不思議に思うだろうか……。
社会人になって、慣れない仕事に残業の日々……。
父親の勧めで入社したマーケティング関係の会社。
右も左もわからない。
アフター5で遊び放題!合コン三昧……。
学生時代耳にしていたそんな生活、存在するの?
OLってもっとキラキラしたものだと思ってた。
「あーあ。仕事辞めて結婚して専業主婦になりたいなー」
もちろん結婚がどんなものかなんてわかっていない。
でも、ウェディングドレスに身を包み、最愛の人と愛を誓い、みんなに祝福される。そんな幸せなイメージは結婚への憧れを一層強くするのだった。
「でも、美愛の彼氏バンドマンじゃん」
奈那の一言で一気に現実に戻される。
昔からおとなしそうな顔をしてぐさりと核心を突いてくる。
私は大学時代の同級生と付き合っていて、一緒に大学は卒業したものの、彼は進学の道を辞め、ミュージシャンを目指してフリーターとなったのだ。
バンドマンだって成功する人もいるのだろうが、きっとそれは氷山の一角だということは私にだってわかっている。
そんな将来の見えない彼氏では結婚なんてもう夢の中の夢でしかない。
「そういう奈那は彼氏とうまく行ってるの?」
「うーん……」
私の問いかけに表情を曇らせる奈那。
私たちは結局、外見は違えど中身はどこかで似ている。
だからこうしてバイトを辞めた後だって関係が続いているのだ。
日常に大きな不満はないけれど、それでもお互い何か煮え切らない毎日を過ごしている。
忙しなく過ぎていく日々の中に忘れ物をしたような感覚が残る。
いつからか強がることを覚えて本当の自分の気持ちなんて言えなくなっていた。
自分の気持ちに嘘を重ねて、結局その場をやり過ごしている。
私ですらこんな日々を過ごしているのに……。
奈那は多分、私よりも寂しがりやな女の子だと思う。
女の私でさえ、どこかほっとけないそんなオーラが奈那にはあるのだ。
「ねぇ、美愛?」
話題を変えるように明るい声で奈那が言う。
「地元の男友達にドライブに誘われてるんだけど、美愛も行かない?」
それは唐突な誘いだったが、私に断る理由はなかった。
「楽しそう! 行く!」
二つ返事でOKした。
今思えばこの時の私は、こんな平凡な日々のどこかに光を求めていたのかもしれない。
この誘いが私の光になるかどうかは別として……。
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