第27話 無意味
始発の時間になって、私たちはイチくんの家を出た。
遠回しな告白をしたところで、無意味だとわかっているけど、それでも奈那を好きでいるイチくんが、もし奈那を好きで居続けることに疲れたなら私の元で羽を休めてくれればいいと、都合の良いことを考えてしまう。
私ならあなたを支えることができるかもしれない。
自分の愛する人が自分の目の前で他の誰かを愛していることの辛さを一番理解できるのは私だから……。
いつもの朝焼けに胸を焦がしながら、先に歩道橋の上で立ち止まったのは蒼斗くんだった。
「これ、俺の好きな曲なんだ」
そう言うと蒼斗くんはイヤホンを片方私に渡して、もう片方を自分の耳につけた。
スマホで見せてくれたその
『疲れきった心休めて』
『きっとこの傷は癒える』
自分のことを言われている気がして、気づけば涙が溢れだしていた。
蒼斗くんはそんな私に何も言わなかった。
曲が終わってからも、ただただ私たちは朝焼けを眺めていた。
***
家に帰ると、私はさっき蒼斗くんが聴かせてくれた曲をもう一度聴きながら、気づけば眠っていたようだ。
さっきの出来事がまるで嘘みたいに思えたけれどちゃんとした現実だった。
ふとスマホに目を向けると、1件のメールが届いていた。
「美愛ー!イチくんに聞いたよ! 美愛と蒼斗くんの会話聞こえてたって。やらかしたね」
奈那からだった。
蒼斗くんとの会話の内容を奈那に話してはないので、きっとイチくんが奈那に連絡したのだろう。
『やらかした』
という言葉からして、イチくんの反応は良くなかったのだろうとまた落胆する。
でも、もしも奈那が事実を湾曲して、メールをしてきた可能性があるならば、その奇跡を信じてみたくなる。
「やっぱり聞こえちゃってたかー。しょうがないね」
私はやらかしたフリをして、奈那に返信をした。
たった1度、2人で会うことを断られたからと言って、遠回しに告白するというこんな方法でしか進めないと思っている私と、遠回しな告白を聞いて、私には何も言わずに奈那に相談するイチくん。
お互いに本人同士で向き合う勇気なんてなくて、こんなときにやっぱり奈那という存在が間に立ってしまう。
自分のことを棚にあげて……。
だけど、少しだけ情けないと思う。
笑っちゃうよね。
「何やってるんだろ」
私の呟きはため息となって消えた。
こんな弱虫な私はイチくんを責める資格なんてない。
今の私が周りからどう見えていようと、どんなに醜くても惨めだと思われても、それでも私はイチくんが好きだ。
この告白が無意味でも構わない。
私の気持ちが伝わっているのなら、都合の良い女でも構わない。
あなたになら、利用されても構わないから、それでも傍にいさせてほしい。
馬鹿げているかもしれないけど、本気でそう思った。
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