第47話 息抜き
その翌日、相良さんは出勤していたが、顔色はまだ青白くとても元気そうだとは言えない。
「相良さん、大丈夫ですか……?」
私が心配そうに尋ねると、相良さんは待ってましたと言わんばかりに、まるでダムが決壊したように話し出した。
「大丈夫じゃないわよ! 一昨日の夜、結婚式に出席したら、同じテーブルにいた人みんな食中毒になって、昨日朝一で病院行って薬もらってきても治らないし」
それは災難だ……。だけど、相良さんは相槌を打つ間も与えてくれなかった。
「そんなの許してもらえるわけないと思ったからまた病院に診断書もらいに行ったのに、
相良さんの剣幕に圧倒されながらも、相槌を打つタイミングを逃していた。
「そういうわけで、まだ本調子じゃないから今日は私に話しかけないでちょうだいね、よろしく!」
言いたいことだけ早口で言い終えると、相良さんは自分のデスクへと戻っていった。
私はなるべく相良さんに迷惑をかけないようにと気を張って過ごした。
***
いつも以上に相良さんがピリピリしていて、1日がとても長く感じられた。
会社を出ると張り詰めていた糸が切れたように、更にどっと疲れが出た。
「ちょうど、研修が終わったところなんだけど、集まれる人いるかな?」
蒼斗くんからのグループメールが届いていた。
ちょっと気分転換したい。
「私も今終わったところ!」
私はすぐに返信した。
「私も参加しまーす」
奈那からもすぐに返信が来た。
「そしたら奈那たちの地元に行くね」
私はそうメールを送ると、奈那たちの地元駅へと向かった。
イチくんは来れるだろうか……?
***
「ごめん、今日は仕事で遅くなりそう。みんなで楽しんできて」
イチくんからの返信があったのは、奈那たちの地元駅に着いた頃だった。心の端っこで会えることを期待したが、今は息抜きしたい気分だったので、とことん楽しもうと思う。
「美愛ー!」
改札を出ると手を振る奈那が見えた。
私も奈那に手を振った。
「イチくん来れなくて残念だったね」
奈那は悪戯をする子どものように笑いながら言った。
「うん。でも今日は発散したい気分だから!」
そして少し遅れて蒼斗くんがやってきた。
「ごめんね、時間あったから着替えて来ちゃった」
蒼斗くんは、この間一緒に出掛けたときに買っていたパーカーを着ていた。
「やっぱりその服似合ってるね」
「この服、サークルのメンバーにもすごい好評だったんだよね! 美愛ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
蒼斗くんがそう言うと、奈那がそんな私たちの様子を不思議そうに見た。
「あ、こないだ美愛ちゃんに買い物付き合ってもらったんだ」
そんな様子の奈那に、蒼斗くんが軽く説明した。
「ふーん。いつの間に」
奈那は私たちに聞こえるか聞こえないかくらいのトーンで不機嫌そうに呟いた。
そして私たちは居酒屋へと向かった。
「お疲れさまー」
いつものように乾杯すると、私はジョッキに注がれたビールをぐいっと飲んだ。
「蒼斗くん、社会人はどう?」
お酒を飲みながら奈那が言う。
「うん。まだ研修だからわからない部分もあるけど、同期もいいヤツが多くて、楽しくやってるよ」
蒼斗くんは充実してるようだった。
「それなら良かった」
私は蒼斗くんの言葉に微笑んだ。
「美愛ちゃんは営業部どう?」
私は蒼斗くんの問いに一瞬言葉を詰まらせた。
「いろいろ大変なところだよ」
そして私はざっくりと今の営業部の説明をした。
もちろん昨日と今日あった相良さんの出来事も……。
「本当に大変なところだね……」
蒼斗くんが呟いた。
「だから今日はとことん発散しようと思って」
「うんうん!飲みましょ」
私の後に奈那がこう続けると、私はまた手元のビールを勢いよく飲んだ。
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