第19話 祝賀会
すっかり秋も深まり、ひんやりとした夜風が通り抜ける。
こんな季節には人肌恋しくなる。
そして切なさが一層こみあげてくる。
そんな切なさを抱いて、今日も私は遠い存在のあの人を想う……。
そんなタイミングで1通のメールが届いた。
「無事に内定決まりました! 飲みましょう!」
蒼斗くんからの報告だった。
「よし! 祝賀会やりますか!」
イチくんがそう返信すると、次の週末私たちはイチくんの家で集まることになった。
***
「蒼斗くん、おめでとう!」
「おめでとー!」
私たちは乾杯した。
「ありがとう。いやーほんと決まって良かった」
蒼斗くんは要領の良いタイプだと思う。
頭も良くて、でもそれを決してひけらかしたりしない。
「これから仕事が始まるまで思いっきり遊ぶぞー!」
蒼斗くんは張り切っていた。
やっぱり蒼斗くんがいるだけで、私は余計なことを考えずにいられる。
「美愛ちゃんは仕事どうなの?」
蒼斗くんの問いかけに
「最近はわりと早く上がれてるかな。」
こう答えると、私はさっき買ってきた唐揚げを食べた。
「美愛、仕事人間だもんね~」
横から奈那が意地悪そうに言う。
悪気がなくても、悪意を感じてしまう。
「そんなんじゃないけど」
私だって好きで働いているわけじゃない。
「でもさ、男女問わず、頑張ってる人ってかっこいいよね。目の前のことにちゃんと向き合うって意外と難しいんじゃないかなー」
蒼斗くんの一言にまた救われる。
「俺もそう思うよ。手抜きするのって簡単だけど、美愛ちゃんはいつも全力で向き合ってるって感じする。なかなかできることじゃないよ」
イチくんの言葉はまた重みを増す。
私の頭の中のイチくん語録コレクションに追加。
「そんなかっこいいもんじゃないけどね……」
二人の言葉に戸惑いながら、私は苦笑いした。
私はそんなできた女ではない。
その横で奈那が一瞬ムッとした表情を浮かべて、お皿の上の唐揚げを頬張った。
4人でいる時間が楽しくて、いつまでもこんな日々が続いていくと思っていた。
だけどそれが少しずつズレ始めていた。
イチくんは気付いていないだろう。
あなたが好きなあの子に傷ついて、
だけど、あなたは何も知らない。
傍にいられるだけで幸せなのに、
幸せにはいつも副作用がついてくる。
幸せを感じるのと同じくらいかそれ以上の切なさが胸を締め付ける。
ねぇ、どうしたら私はあなたに近づくことができるの?
あなたの目に私だけが映る日は来るのでしょうか…
答えなんてわからない。
だけど、その見えない答えの先に想いを馳せながら私は今日もあなたを嫌いになることなんてできないまま。
そしてこの夜が更けていく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます