第16話 予感的中
また1週間の始まり、毎日見る朝の風景に電車のアナウンス。
私は電車を降りると会社に向かった。
ほんの数日前にイチくんが言ってくれた言葉を思い出す。
その言葉が原動力になって、また今日も頑張ろうと思うのだ。
我ながら本当に単純だ。
「美愛ちゃん、弱音とか吐かないから」
その言葉を思い出しては、私のことを見てくれているんだと嬉しくなる。
でもね、私は強くはなれない。
本当はすごくすごく弱くて。
でも、奈那みたいに可愛くはなれないから、
なんとか一人で立っている。
そんなフリをしている……。
***
「先週で案件も一段落したし、今日は定時で帰りましょう」
朝のミーティングで上司が言った。
定時で帰れるなんて久しぶりだ。
そんなメリハリがまた仕事の意欲を掻き立てる。
仕事内容は大変ではあるけれど、幸いなことに私は上司に恵まれていると思うのだった。
私はデスクに向かった。
頭の片隅で、久しぶりの定時上がりに何をしようか考えるとワクワクする。
次いつ会えるかわからないその日のために新しい服を新調しに行こうか……。
仕事が終わったらイチくんは何をして過ごすのだろう……。
でもまだ月曜日、さすがに月曜日から誘うのは気が引ける。
数日前に会ったばっかりだし。
奈那だって、バイトという立場だとはいえ、忙しいだろう。
(定時で上がれるためにまずは集中しなくちゃね)
そして私はやりかけていた仕事を続けた。
***
結局、定時の時間までに仕事が終わらず、1時間ほど残業になったけれど、1時間で済むのなら全く問題はなかった。
「お先に失礼します」
まだデスクに向かっている先輩に申し訳ないと思いながら、私は伺うように挨拶をした。
「お疲れさま」
仕事熱心な先輩は私のそんな挨拶を気にとめる様子もなく、デスクに向かったまま言った。
会社を出ると外はすっかり暗くなっていた。
まだお店はやっている時間だし、買い物にでも行こうか。
そして無意識に鞄からスマホを取り出したその瞬間、
『新着メール1件』
の文字が目にとまる……。
胸がざわつく。
私は恐る恐るメールを開いた。
やっぱり奈那からだった。
「これから美愛の愛しのイチくんと2人でご飯行ってくるねー」
嫌な予感は的中。
またこの感覚。
黙っていてくれれば、何も知らなくて済むのに。
私は脆い。
奈那は何がしたいんだろうか。
私の気持ちを知ってて。
傷つけようとしてる?
それならどうしてこないだ3人でご飯に行こうなんて言ったんだろう。
わからない。
考えれば考えるほど奈那の気持ちがわからなくなる。
私はメールを打つと、駅に向かって歩き出した。
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