第13話 醜い私
夕方になると、私たちは花火をした。
イチくんの花火から火をもらい私の花火の火がついた。
そこから奈那へ蒼斗くんへと続いた。
花火はシューと激しい音をたてながら鮮やかな色に変わっていく。
そういえば手持ち花火なんて何年ぶりだろう。
このメンバーと会うようになってから、まるで青春の
「これからは就活に専念することになるから、しばらくはこうして集まれなくなるな」
いつもハイテンションの蒼斗くんが珍しくぽつりと呟いた。
「寂しくなるね」
奈那が続ける…
「あ、でも二度と会えないわけじゃないし、また就職決まったら参加するから」
奈那の言葉に蒼斗くんは慌ててつけ加えた。
「がんばれよ」
イチくんが笑って蒼斗くんの肩にぽんと手をおいた。
「がんばってね」
私も続けて言った。
蒼斗くんにはいろんな意味でたくさん助けられてきた。
これでまたしばらくは私たちも会えなくなるのかな。
そんなことを思いながら私は花火の火を見つめていた。
そんなことを思いながらしばらくすると、向こうからイチくんが線香花火を持ってきた。
「線香花火懐かしい~」
奈那が言う。
イチくんが線香花火に火をつけてくれたので、私はそれを受けとるとしゃがんで線香花火の火を見つめた。
もし、私が今持っている線香花火の火が一番長く灯り続けたら……。
願うことはただ1つ。
みんな思い思いに自分の線香花火を見つめている。
……ポトッ
「あっ……」
私の願いは空しく、真っ先に私の花火がおわった。
「はやっ!」
奈那が笑った。
そうだよね。
まるでこの恋の結末を暗示しているみたい。
最初から叶うはずないと言われているみたいで……。
「あ……」
次に落ちたのはイチくんの花火。
イチくんも同じ事を願ったのだろうか。
もちろん叶うことのない相手を想って……。
しばらく蒼斗くんと奈那の接戦が続いたところで、結局奈那の花火が残った。
「私の勝ち!」
勝負をしていたわけではなかったけれど、奈那が得意気に言った。
いつだってそう。
あなたの勝ち。
私はあなたには敵わないね……。
心の中で苦笑いした。
***
すっかり日が暮れた帰り道。
窓の外から見える夜景に切なさが一層強くなる。
次会えるのはいつだろう。
そう思うと、斜め後ろから見える運転席に座る彼の姿を目に焼き付けておかなければと思うのだった。
結局私たちの距離は変わらぬまま……。
何も変わらないまま、また今日という1日が終わろうとしている。
「あれ? 奈那ちゃん寝てる?」
蒼斗くんが後ろを振り返った。
さっきまでうるさいほどはしゃいでいた奈那が急に静かになったので気になったのだろう。
「うん、寝ちゃったみたい。可愛いね。子どもみたい」
決して馬鹿にしたわけではなく、純粋に可愛いと思ったのだ。
「ほんとに」
イチくんが笑った。
その『ほんとに』は『可愛いね』に対するものなのか、『子どもみたい』に対するものなのか、はたまたそのどちらにもあてはまるのだろうか……。
ほらね、またヤキモチ妬いてる。
ううん、ヤキモチなんてそんな可愛いもんじゃない。
「奈那の彼氏は幸せ者だね。こんな可愛い彼女がいて。女の私だって可愛いと思っちゃうもん」
こんなこと言ったら嫌われるだろう。
でも、さっきのお返しだよ……。
なんて都合の良い言い訳をした。
その私の
私は自分が何をしたいのかさえわからなくなった。
でも、もう止まらなかった。
「奈那も奈那で彼氏さんにすごく愛されてて幸せそうだし、理想の幸せって感じ!」
私はそう言い放つとまた窓の外を眺めた。
どんどん醜い女になっていくのが自分でわかる。
涙が滲んで、キラキラした夜景がぼやけていく。
惨めで、情けなくて、こんな私を好きになってもらえるはずがない。
馬鹿みたい。
「そうだな……」
私に聞こえるか聞こえないかくらいの声でイチくんが呟いた。
だから、それは……。
何に対する『そうだな』なの……?
相変わらず曖昧なイチくんの発言に
「私の負け……」
と聞こえないように静かに口を動かした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます