第25話 切ない夜

ライブの帰り道、蒼斗くんが私のスケジュールを確認してくれた。


「次は美愛ちゃんが確実に来れる日で調整するね」


と申し訳なさそうに言った。


「蒼斗くん、ありがとう。ごめんね、気を遣わせて」


「俺言ったじゃん。応援するって。イチくんと美愛ちゃんがうまくいってくれたら俺も嬉しいし。まぁこんなことくらいしかできないけど」


蒼斗くんは鼻をかいた。

奈那とは違う。

応援してくれるってこういうことなのかな。

だけど、いつまでも他力本願じゃダメだよね。

奈那や蒼斗くんを頼らずに自分でちゃんと動き出さなきゃ。


私がイチくんを好きになった時点できっと、この4人は今までの4人ではいられなくなった。

奈那と私は本当の友達ではなくなった。

少なくとも私は友達のフリをして接している。

何もかもが壊れかけているのに、このままの関係を続けるなんて綺麗事に過ぎない。

この関係にすがることしかできない自分をやめたいと思いながらもやめられずに、ただ時は過ぎていく。


「それじゃあまた今度」


蒼斗くんがそう言うと駅で私たちは別れた。


「ごめんね」


私は振り返って人混みに消えていく蒼斗くんの背中を目で追いながら呟いた。


***


「美愛ちゃん、ここの飾り付けお願いね」


仕事が終わった後、上司から受付と来客スペース用の飾り付けを頼まれた。

世間はなんとなく浮かれている。

もうすぐ訪れる、独り身には関係のないクリスマスというイベントだ。


クリスマスが終われば翌日から余韻すらなく正月モードになる世間の切り替えの速さに毎年ツッコミを入れながら、今年はいっそ、クリスマスなんて飛ばして正月になってくれないかと思う。そんな私の願いなんて虚しく、その現実をまた私は突き付けられるのだ。


飾り付けを終えて、会社を出ると駅前の通りまでイルミネーションが輝いていた。

駅前ではカップルと見られる男女が手を繋いで幸せそうに通りすぎる。


そんな幸せそうな男女を横目に私は改札に入り、電車に乗った。

電車に乗ってからもあたり一面にキラキラと光るイルミネーションが眩しい。

このまま帰りたくなくなって、私は途中下車した。


しばらく歩くと大きなツリーとイルミネーションの光、地元では有名なちょっしたイルミネーションの名所だ。


私はしばらくそれを眺めていた。

(私、何してるんだろう)

こんなところに一人で……。

きっと奈那が呟けばイチくんはすぐに駆けつけて、二人でこのイルミネーションを眺めるのだろうか。

そんなことを思いながら


「一人でイルミネーション」


とわざわざ寂しい独り言をSNSにあげてみる。

馬鹿みたい。だけど、ほんの0.1mmだけ期待してみる。


「今から行こうか?」


なんて、そんな優しさを私にもくれること。

そんなことあるわけないのに……。

イチくんは優しい人だ。

でも、私に向ける優しさと奈那に向ける優しさは違う。

わかっている。

わかっているのに……。



そんなとき1通の通知が入った。

「新着コメントが1件あります」

胸がざわつく。

震える指でその通知を開く。



「寂しいね(笑)」


奈那からだった。

今のざわつきを返して。


やっぱり敵うわけない。


何やってんだろ。

馬鹿みたいだと自分のことを嘲笑って、私は大きくため息をつくとイルミネーションを後にした。


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