第50話 気がかり
結局、相良さんからのお説教は30分にも及んでいた。
仕事面だけでなく人格を否定されたようなその言葉が甦っては私の頭の中を巡る……。
ため息をついてスマホを見ると追い討ちをかけるように奈那からの着信とメールがあった。
「美愛、話したい……。会えないかな?」
その文面を見て嫌な予感がする。
「ごめん、残業で今帰りなの。また早く上がれそうな日があったら連絡するね。最近残業が多いからいつになるかわからないけど……」
早く上がれる日なんてないかもしれないけれど、それならそれでいいやと、どこか投げやりな感情になりながら私はスマホを鞄にしまった。
***
それから毎日のように相良さんからの監視の視線を感じるようになり、取引先の電話とのやり取りも一語一句聞かれている。
何か少しでもヘマをすれば電話を切った後すぐに相良さんが飛んで来て、
「今のは何?」
から説教が始まるのだ。
まるで粗捜しのようなそんな日々が続いている。
黒石部長が相良さんをおかしくしているような気がしてならない。
「それじゃあ私、これから打ち合わせで直帰だからよろしくね。くれぐれもヘマはしないでよ」
相良さんは念押しするように言うと、ジャケットを羽織り、颯爽と営業部を出て行った。
その後ろ姿を見送って、私は少し安心した。
それからしばらくすると黒石部長も打ち合わせに行くと言って出て行った。
予定表には黒石部長の打ち合わせの記載はなかったが……。
「美愛、最近疲れてるでしょ? 今日は少し早く上がりなよ」
彩香さんが私を気遣ってくれた。
「ありがとうございます! でも大丈夫です」
彩香さんの言葉に俯いて言った。
「気にしなくて大丈夫だよ。こういうチャンス滅多にないからさ」
彩香さんがこの場所で唯一私に逃げ場を与えてくれた。
「裕子ちゃんには私からうまく言っておくから」
息が詰まりそうなこの場所で見る彩香さんは女神のように感じられた。
「本当にありがとうございます!」
私は彩香さんに頭を下げると帰り支度をして、会社を出た。
***
こんなに早く上がれることなんて滅多にない。
まだこんなにも外が明るい。
私は空気を吸い込んだ。息ができる!
少しでもあんな息苦しいところから逃れていられる。それだけのことが私を幸せな気持ちにさせた。
だけど……。
私はスマホに目を向けて、またため息をついた。
こっちはいつまでも逃げてるわけにはいかないよね……。
「お疲れさま。今日早く上がれたんだけど、この後どうかな?」
私は奈那にメールを打つと、駅に向かった。
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