第4片 幻惑の魔女③
夢を見ている「正義の魔女」さんの寝顔を見ながら考える。
莉乃は強い魔女だ。
魔力も豊富で、魔法探知も優れており、よっぽどのことがないと負けることはないだろう。
つまり、よっぽどのことがあったのだ。
不意を突かれたのか、それとも相手は彼女を上回るほどの強い魔女なのか。どちらにせよ手ごわい相手に変わりない。
真相は寝ている彼女に聞くしかないが、さっきから頬をペチンぺチンと叩いても一向に起きない。
「ふふふ……」
こんなに叩いているのに、笑顔で怖い。
「どうしようか」
とりあえずは彼女を放置して、魔法を仕掛けた魔女を探すべきか。それとも魔法が解けるのを待つか。……うん、待っているのは性に合わない。動くしかない。けど、周りには寝ている人しかいない。
「うーん」
こんなことして何の意味があるのだろうか。
人々を眠らせて、見た目上は人々を笑顔にさせ、そしてそのまま放置。
目的は何だ? 騒ぎを起こすことではないだろう。愉快犯?人を眠らせて、笑顔にさせて、何が愉快だというのか。
思い付く最悪の答えは、洗脳系の魔法だ。
夢で人の考えを、思想を操る。知らぬ間に危険因子を埋め込む。
夢ならどんな都合の良いことでも、本当のことのように見せてしまう。
都合の良い夢を見せ、幸福を味わせ、知らぬ間に倫理観を歪める。
そんなことがいともたやすくできてしまう。
ぞわっと、汗が噴き出す。
「……まずい」
本当にそうだとした、思った以上に危険な魔法だ。
危険思想の植え付け。人の価値観を曲げる。そして、トリガーの設置。起爆装置の仕掛け。起爆の合図を決めておけば、本人の意思関係なしに、暴走させることができる。
例えば、ある音を鳴らしたら一斉に火をつけろ、といったような仕掛け。都合の良い犯罪人、テロリストの作成だ。本人の考え関係なしに、深層心理に植え付ける悪意。悪意とも思わせぬ、巧妙な操り人形の増産。
老若男女、見た目では気づかない、犯罪者集団の出来上がり、というわけだ。
「うへへ……」
緊張感のかけらもない声を、腕の中の女の子が出し、少し落ち着いた。
「考えすぎか」
悪い方に考えすぎだ。さすがにそこまでの大規模な洗脳はしないだろう。魔力が膨大に必要だ。そして世界中を敵に回す、魔女全員を敵にする覚悟がなければできない。
でも、いざという時は、私が、
「…………」
静かに決意する。
彼女をそっとベンチに寝かせ、立ち上がる。
まだ決まったわけではないし、最悪の結論に至るには早い。まずは魔女の発見、犯人の確保が第一だ。
けど、
「どこに、いるんだ」
結界はいまだに維持されているが、私以外誰も立っていない。
私が結界内にいることもバレているだろうが、相手は何も行動してこない。
潜んでいるのか。見えない場所に隠れているのか。
それとも……、まぁいい、強硬策に出るまでだ。
少し歩き、立ち止まる。
近くにいた女性店員さんの額に手をかざす。
「ごめんね」
女性は魔法で眠っている。魔女に魔法で夢を見せられて、笑顔になっている。
なら、魔法を解けばいい。でも、何が起きるかはわからない。魔法を解いて、誤作動が起きることもあり得る。
だから、一時的に奪う。
指を開き、ぐっと力を入れる。
魔力の一部を彼女から、私の中に逆流させる。
操っていた魔力が無くなり、魔法は一時的に消滅し、夢が覚める。
「あれ、私は?」
店員さんがゆっくりと上半身を起き上がらせる。私は、腰を屈め、彼女に優しく話しかける。
「ここはどこ? 私は何をして」
「落ち着いてください」
「落ち着いてって」
奪った魔力を利用し、従わせる。
「あなたはどうして夢を見ていたのですか?」
「どうしてって」
店員さんの目が紫に怪しく光る。
けど、なかなか答えを出さない。寝起きだから頭が働かないのだろう。それに一時的に解いているとはいえ、魔女の魔法が作用している状態なのだ。私は、さらに言葉を強める。
「思い出してください」
「う、うーんと、高校生の女の子がパンを買って……」
「それで?」
「それぐらいしか……」
ハズレ、か。
「ありがとうございます」
お礼を言い、一時的に吸収していた魔力を戻す。再度、魔法は発動し、店員さんは再び目を閉じた。
都合よく利用。魔法を逆流させることで、相手が利用した魔法の一端は掴んだ。それを悪用させてもらい、犯人探しをする。
莉乃が起きていたら止めるかもしれない。
けど、いいんだ。私は「正義の魔女」じゃない。正解を求めるためなら、これが一番手っ取り早い。手段を選んでいる場合じゃないのだ。
次だ。別の人を起こす。
「中学生に道を聞かれて」
また別の人、
「小学生に挨拶されて」
そしてまた眠りに戻す。
目撃情報はさっきからズレてばかりだ。けど、学生であることは確からしい。
犯人は小学生から高校生の女の子のどれか。もしくは全部。
私は行動し続けるも、魔女は反撃してこない。
犯人はどこか。起きている犯人はいない。不審な動きもない。
ならば、犯人はどこか。
起きていないのだ。犯人はこの公園のどこかに被害者たちと一緒に寝ている。
そう確信を得て、私は静かに行動に移す。
対象は小、中学生、あるいは高校生の女の子。数は絞られる。
まずは、中学生ぐらいのポニーテールの似合う女の子に手をかざそうとする。
手を掴まれた。
「ふはっ」
女の子は目をパチリと開けた。
「見つかっちゃいましたか」
スカートを払い、元気よく立ち上がる。
まるでかくれんぼで見つかってしまったかのように、遊びでミスしたかのように、女の子は明るく答える。
考えた通りだった。証言通り、魔女は学生で、呑気に寝ていたのだ。
声は若く、見た目も学生そのものだが、落ち着いた雰囲気に子供らしさは感じない。
「おはようございます、天才の魔女さん」
「今は天才なんかじゃないよ」
私のことを知っている。
「踊るサンタは滑稽でしたよ」
そして、先日の停電騒ぎのこともバレている。
なら、吹っ掛けてみるか。
「ポテトチップスは美味しかった?」
「ポテチ?」
首を傾げ、不思議がる。嘘はついていない様子だ。
「停電は君のせいじゃない?」
「あぁー、バレちゃいました。ポテチかー、お菓子ばかり食べてますからね、あの人。私、嘘はつけないんですよね、いい子なんで」
いい子がこんなことをするか!というツッコミは心の中に閉まっておく。
「あの人に見せてもらったんですよ。怒っていましたよ、邪魔しやがってーと。でも嬉しそうに録っていた映像を見せて、説明してくれましたよ。可笑しな魔女がいたってテンションあがっていました」
「君も、停電騒ぎの魔女のお仲間っていうわけか」
「うーん、仲間っていうわけでもないですけどね。友達ではあるけど、考えは違うんです。私はあの人みたいな悪趣味に魔法は使いません」
「十分に悪趣味だと思うけど?」
さすがに2回目は聞き逃せず、突っ込まずにはいられなかった。
周りを見渡す。公園一帯に倒れている人たち。いい子で、良い趣味とは言えない。
「わかっていませんね、皆笑顔じゃないですか、ブイ!」
ピースをつくり、幼い笑顔を浮かべる。
無邪気で、無垢で、純粋なズレ。
「皆、疲れすぎなんですよ。だから、こうして笑顔にしてあげると、私も嬉しくて笑顔になっちゃうんです!」
本当に、悪趣味だ。
「天才の魔女さん」
「だから違うって」
「いえ、あの芸術は天才ですよ。あなたは違う。四国にとどまっている、止まったままの古い魔女とは違います」
褒められると嬉しいが、相手は悪い魔女だ。油断はできない。
「うぅ、見たいな。いいよね? あなたの頭の中を見たいな。夢の中を歩きたいな」
「……いいもんじゃないと思うよ」
「そうですか。でもそう言われると気になっちゃいますね」
「……」
「どうして苦い顔をしているんですか? あなたはどうして笑顔じゃないんですか? 辛いんですか?」
「さぁ、ね」
「変な人ですね」
「君に言われたくない」
女の子がニッコリと笑う。
「そんなあなたも幸せにしてあげます」
「私に魔法をかけるっていうの? 周りの人たちのように」
「ええ、そうです。それが私が人を救う手段ですから」
彼女が手をかざす。見え見えの動作。
おそらく陽動だろう。何か仕掛けているに違いない。
魔法を避けることも容易にできた。魔力を吸収することも十分にできた。
「やってみろよ」
でも、正面から魔法を受ける。
「え」
制服を着た魔女も、そのまま魔法が当たるとは思っていなかったのだろう。焦りと動揺が見えた。
私はニヤリと笑う。
そして、意識を失った。
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