ウィッチ・フイッチ

結城十維

イントロ

嫌いなあの子

 私はあの子が嫌いだった。


 魔女としての圧倒的な才能。

 魔法を覚えるのは誰よりも早い。それに教科書に載っていない魔法を生み出す閃きを持ち、またアレンジにも長けていた。学校の先生も彼女には何を教えればいいのか困り果て、逆に中学生の彼女に教えを乞う始末だった。

 頭の良さだけではない。

 空を飛べば誰よりも早く目的地にたどり着いた。魔法の感知においても、誰よりも優れていた。

 天才。天才とは彼女のために用意された言葉だった。

 彼女は周りから持て囃され、『ハジマリの魔女』の再来だと評された。


 私は彼女が嫌いだった。

 彼女に出会うまでは天才と褒められ、周りから尊敬の眼差しで見られていた私にとって、彼女は認めたくない存在だった。私は彼女に負けないために、努力に努力を重ねた。

 けれども努力程度で才能の差は埋まらなかった。

 何度も彼女に勝負を挑んだが、全て敗北だった。圧倒的な力の前に、私はあまりに無力だった。

 でも、本当にムカつくことは彼女が“天才”なことではない。


「いい勝負だったよ」

「わー、莉乃すごい!」

「今日も遊んでくれてありがとう」

「莉乃と戦うのは楽しいな」

「次はいつ勝負しようか、明日? 明後日?」


 という風に、私に勝ったのに何の嫌味も言わず、平然と嬉しそうに話す彼女にイラついた。もっと誇れ、もっと驕れ、もっと威張れ。何でそんなに友好的なのだ。嫌な奴なら憎める。彼女の柔らかな、友好的な態度に拍子抜けしてしまう。


 そんな彼女のことを憎めず、どこか諦めてしまっている自分が嫌いだった。


 だから、彼女に何としても勝ちたかった。

 彼女に勝って初めて、私は偉い魔女になれる、誇れる自分になれる。そう信じていた。

 しかし中学の間に力の差は開くばかりで、私が一度も勝つことはなかった。

 

 私は、『ツグ』が嫌いだ。

 そして、一度も私に負けることなく、高校生になった彼女は、


 突如、私の前から姿を消した。


 何の前触れもなく、彼女は消えた。

 あまりにも突然に、私の前からいなくなった。


 天才の失踪に先生や、周りの偉い人達はひどく困惑していた。必死に捜索したらしいが、ついに見つけることはできなかった。

 何も、誰も理由はわからなかった。あれこれ噂されたが、真相はいまだにわからない。


 やがて3年も経つと、誰も彼女のことを話題に出すことはなくなった。

 たまに話題に出たこともあったが、「あぁ、そんな天才もいたね」、「凄い魔女だったね」、「懐かしい」と彼女は過去の人となっていた。


 けど、私は違った。


「私から勝ったまま逃げるなんて許さない」


 私は諦めなかった。

 私だけは彼女を追い続け、求め続けた。


 そして、ついに私は発見したのだ。


「つぐ。今度こそ、私が勝つんだから」


 私は彼女が――。

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