第9片 ハジマリの魔女④

 つぐみを取り戻す。

 そう宣言し、決意すると心が軽くなった。


「莉乃さん、もちろん力になります!」

「楽しくなってきたぜ」


 二人の仲間の後押しがさらに力になる。


「で、どう取り戻すんだ?」


 もちろん聞かれるのは方法だ。


「つぐみは生きているの」


 ハジマリの魔女と、古湊家の話でわかったのは、ツグの中に二人がいたという事実。ハジマリの魔女と本当のツグは自身の中で対立し、ツグの中にハジマリの魔女はいられくなり、別の体へと移ったのだ。そして一人の体に、一人の心と正しい形になったのだが、その心は魔法で閉じ込められた。

 感情を失った女の子。いや、感情はあるが、巧妙に隠されたのだ。

 日芽香が夢の中に入っても、その心は現れない。あったのは真っ白な光景だった。

 でも、ツグはあの日絵を見て涙を流した。つぐみは私との思い出を絵に描いた。

 見えないけどいる。ずっと生き続けている。


「真っ白だけど、どこかにつぐみはいる。探しに行くの」

「それって私の力を使うってことですか」

「そう、夢へ介入する。真っ白な心の中からつぐみを探し出す」


 日芽香の夢へ入る、干渉する魔法を使用する。異様な光景に彼女は目を奪われ、探し出せなかったが、『いる』とわかれば話は変わる。


「でも、夢に入るのは私。私が1番彼女のことを覚えている。それに」


 首元からペンダントを取り出す。彼女から貰ったプレゼント。今となってはそれがハジマリの魔女なのか、隠されていた女の子なのか、わからない。ただ、指針にはなる。


「ここにツグの残滓が込められている。それにつぐみへの想いがある。両方を知るのは私よ。私なら、見つけられる」


 そう信じて、言葉にする。

 日芽香は私の目を見て、ゆっくりと頷いた。


「わかりました……、私は3日間のうちに莉乃さんに夢へ介入する魔法を教えればいいんですね」

「3日も使っていられないわ。3日のうちに救出しなきゃいけないの。使えて1日ね」

「そんな簡単な魔法じゃないです」

「わかっている。私には難しい。それでもつぐみにはできた。それに2人には別のお願いもあるの。古湊家に対抗する仲間を見つけて欲しい」


 災厄の魔女が疑問を呈する。

 

「いったい誰だよ、それは」

「古日山家と、古河家よ。古湊家に賛同する可能性もあるが、良くないと思っている人たちもいるはず。日芽香、まずは『得ノえのひめ』に行き、古日山家への力を借りてきて。私と一緒に行くわよ、移動しながら魔法のことを覚える。で匿ってもらう。夢に入っている間は私は無防備だもの。その後は日芽香は『光ノこうのち』に単独で行ってもらうわ」

「りょ、了解です……。得ノ姫には友人も多いので、先に連絡し、募ってもらいます」

「おいおい、うまくいくのか?私たちの動きに気づき、古湊家、ハジマリの魔女が気づくだろ?」


 私たちの目的、敵対戦力を増やそうとする行動を見せれば、ハジマリの魔女は当然邪魔してくるだろう。


「そう、だから弥生、災厄の魔女には『禍ノかのかわ』で大暴れしてほしい。手が負えないぐらいに、私たちを追ってこれないぐらいにド派手に」

「ほう、それは確かに私向きだぜ」


 魔女が嬉しそうに笑う。


「暴れすぎるんじゃないわよ。怪我人は出ると思うけど、あくまで陽動よ。それに禍ノ河はよくない魔力が満ちているわ」

「まぁ大丈夫だろ。利用しちまえばいい。呑まれるほどやわじゃない。で、つぐみを復活させたらお前らは加勢に来るのか?」

「ええ、皆でハジマリの魔女を止める。……正直勝てるかはわからないわ」


 つぐみがいくら魔力の知識や、閃きがあっても、それはハジマリの魔女と一緒に学んだからであって、オリジナルに勝てるとは思えない。

 それでも、一人じゃない。


「他力本願かもしれないけど」


 彼女と一緒なら、何とかなる。人々の気持ちを動かす彼女なら、できる。

 もう後戻りはできなくなる。魔女界に反抗する。

 それは正義なのか、悪なのかわからない。

 それでも、ハジマリの魔女がすることは間違っている。魔法は救済。魔女は困っている人を救う者なのだ。支配、都合の良いように捻じ曲げる存在ではない。人々に何かあった時に、少しだけ支えてあげるだけ。動くのはあくまでその人自身だ。

 そう、つぐみは教えてくれた。

 あくまで魔法で芸術を見せるだけ。見た人がどう思うかは、どう行動するかには干渉しない。

 それは今までの私の信念とは違うものだった。でも今ならそれが正しいと私は思える。


「つぐみと一緒なら止められる」


 「おう」、「はい」と言葉が返ってきた。


「お昼から動くわ。私と日芽香は得ノ姫へ。弥生は禍ノ河で大暴れよ。魔力が尽きないようにともかくちゃんと食べなさい。適度に結界を張って、休むのよ。長期戦になるわよ」

「ああ、逃げるのも、防御するのも得意だ。3日間粘ればいいんだな」

「最悪、1日粘ればいい。ごめんなさい、痛い目にあうかもしれないけど、あなたが頼りなの」

「弥生、頑張ってください。……私も頑張ります」


 弥生が日芽香の頭を撫でる。


「わかっているよ。そんな心配な顔をするな。皆で東京に帰って、莉乃のごちそうを食べようぜ」

「はい! 絶対に、絶対です!」

「私も盛大に振舞うわ」


 手を前に出す。

 それに気づいた日芽香と弥生が手を重ねる。


 言葉を投げ、二人が呼応する。

 それはどんな魔法にも負けない強さを持つ。私はそう思った。


 ――つぐみを取り戻す3日間が始まった。

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