第7話 ミレイユサイド
リッツが去ったその夜、訓練場に深紅の鎧で身を包んだ騎士が集まり、その前には真っ赤なマントに白銀の髪を垂らした女性が立っていた。
「――今、なんていった?」
女性の翡翠色をした眼は騎士たちの動きを挙動一つ見逃すまいと見据えていた。
「だ、だから、リッツの奴が追放されたって……」
騎士の一人が答えた瞬間、女性の足元に亀裂が入る。
「お前たちは何をしていた? なぜ誰も止めなかった?」
「お、俺たちだって知ってたら止めたよ! だけどあっという間だった!」
「ミレイユ団長に伝えようとしたときにはすでに国を出ちまってて……さすがにどこへいったのかもわからないんじゃ、俺たちだって追いかけようがねぇ」
「……ちっ……あのクソ爺」
ミレイユは苦虫を嚙み潰したように顔をしかめる。そこへ白い服に金色の刺繍が入った男がやってきた。
「おや、これはこれは『紅蓮の風』の皆様じゃないですか。こんな夜遅くまで稽古とは頼もしい限りですな」
「……何の用だ」
「いやぁ、一言お礼がいいたくてですね。あなた方の愛弟子がいなくなったおかげで、やっと私たち『白金師団』の出番がきましたよ」
「なんだと……?」
「そんなに恐い顔をなさらず――確かに先代の王は優れていました。しかし、いつまでもあんな草弄りで作ったポーションに頼るなど時代錯誤もいいところ、これからの時代は我々の生み出すポーションのほうが何倍も価値があるのです。そう、これからは錬金術の時代なのですよ」
声高らかに胸を張る男に騎士が詰め寄る。
「てめぇ、リッツの作ったポーションを見たことがねぇのか!?」
「あなた方のように、子供の遊びに付き合ってられるほど私たちは暇じゃないのです」
悪びれる様子もなく言葉を放つ男に、ミレイユは近づくとその手で男の頭を鷲掴みにした。
「痛だだだだだだだだだだだ!!」
「私も貴様の言う錬金術で赤い花を咲かせてやろう」
激痛に悶える男の体は宙に浮き始める。
「団長ストップ、ストーップ! さすがにやっちまったら俺たちの立場が悪くなる! そうなればリッツだって探せなくなっちまうよ!」
「――ちっ」
男は投げ飛ばされると小鹿のように立ち上がる。
「バ、バカ力が……てめぇらみたいな存在は時代遅れなんだよ!」
男が去っていくとミレイユは騎士たちに向かい直した。
「私は王に掛け合ってみる。お前たちは少しでも情報を集めろ」
「団長、あんまり突っかからないでくださいよ。あなたの身も危うくなる」
「ふん、私たちがここにいるのは先代に報いるためだ。お役御免となればすぐにでもでていくさ」
その言葉に同意するように騎士たちが頷くとミレイユは訓練場をあとにした。
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